「関電の原発マネー不正還流を告発する会」は3272人の告発人を集め、2019年12月13日に大阪地方検察庁に告発状を提出した。闇マネー問題で揺れる関電に、今度は高浜原発4号機(福井県)のトラブルがかぶさってきた。蒸気発生器の細管に損傷が見つかったのだ。損傷数は少ないが、原因が特定できていないことが問題だ。
蒸気発生器は、原子炉から出てくる高温高圧の水(熱湯)を熱交換して蒸気を作り出す装置である。4号機では原子炉から排出される熱湯は157気圧、約320℃。蒸気発生器で約70気圧266℃の蒸気をつくり、タービンに送られる。タービンに接続された発電機は870万kWの電力を作り出す。
蒸気発生器は高さ20mを超える巨大な装置で、内部には一基あたり3382本の細い管が逆U字型にめぐらされている。細管は外径が22・2㎜と細く、管の厚さはわずか1・3㎜。どれか1本でも完全に破断すれば(ギロチン破断と呼ばれている)、高圧の原子炉水が蒸気側に勢いよく流れ出し、蒸気となって大気に吐き出される。この状態が続けば、原子炉水はどんどん流れ出て、ついには炉心溶融(メルトダウン)に至る。蒸気発生器は、加圧水型原発の〝アキレス腱〟ともいわれる設備だ。
実際に1991年2月に美浜2号機(福井県)でギロチン破断が起きた。原子炉水が破断した細管から勢いよく2次系に流れ出し、蒸気となって大気に噴き出した。緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動しても水を炉内に十分に送り込むことができず、あわや炉心溶融の大惨事になる寸前だった。
この事故の原因は、蒸気発生器細管の上部に挿入されている触れ止め金具が設計通りに設置されていなかった施工ミスだとされた。細管内は、流れる水の勢い(毎秒3m程度)と沸騰する泡の影響で常に細かく振動し続けている。金具の位置が悪かったため、震動が想定よりも大きくなり破断したというのだ。
蒸気噴出の瞬間はドカンと大きな音がし、周辺住民にも聞こえたという。住民たちは13時台の事故を夕方のニュースで知った。原子力資料情報室は直ちに「崖っぷちに立たされた私たちの命」というリーフレットを作成し、事故の深刻さと問題点を浮かび上がらせた。
3つの蒸気発生器すべてに損傷
原因特定できないまま運転中
高浜4号機の今回の定期検査では、3つ備わる蒸気発生器のすべてに損傷が見つかった。その総本数は5本とわずかではあったが、すべて管の外側つまり蒸気側であり、薄くなっている割合(減肉割合)は40~60%と関電は評価している。1・3㎜の厚みが最大0・6㎜まで減っていたことになる。
関電が昨年11月28日に原子力規制委員会に提出した報告書によれば、関電は一般に考えられる原因、たとえば腐食や細管の支持板と管の隙間に金属の粉が詰まることによる摩耗減肉などを「考えられない」とすべて否定し、結果として異物による接触摩耗が原因だとしている。この根拠は蒸気発生器の1つから長さ約2㎝、幅約1㎝、厚さ約0・6㎜のステンレス片(SUS304)が発見されたからだ。蒸気発生器では使われていない材質のもので、前回の定期検査時に混入したと考えられるという。しかし他の2基からは金属片は発見されていない。そこで関電は、他の2基にも同様に金属片がそれぞれ混入して悪さをし、今回の定期検査で蒸気発生器の水を抜いた時に水と一緒に流れ出たと辻褄合わせの推定をしている。
金属片がなぜ入り込んだのかも推察の域を出ず、原因を特定できたとはいえない。なお、高浜原発3号機でも前回の定期検査時に異物による細管損傷が発見された。以降、関電は異物管理を強化したというが、「4号機は運転中であり強化策が適用できなかった」と弁解している。
高浜4号機の蒸気発生器はスラッジ(金属片や沈殿物など)が細管と支持板の間に溜まりにくい新しい構造のものだったが、それでも定期検査ごとに損傷個所が増加。これらには栓をして使用していない。今回は5本と少ないが、根本的な解決はできず、定期検査ごとに今後も増え続けることだろう。そして、ギロチン破断のリスクも高くなる。(伴 英幸)
*本誌374号の原発ウォッチ!で取り上げた中国電力の海上ボーリング計画は、準備工事に入れず中断されました(2019年12月16日発表)。
(伴 英幸)
(2020年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 376号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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