新型コロナウイルスの感染拡大により多くのビジネスが休業を強いられ、大勢の労働者が自宅にいることを推奨される中、生活に”必要不可欠(essential)” な仕事に就いている労働者たちについてあらためて考えてみたい。(ボストンのストリートペーパー『Spare Change News』の記事より)
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新型コロナウイルスにより呼吸器不全に陥る人が急増している事態を受け、米マサチューセッツ州は「ウイルス感染を阻むため、 ”必要不可欠でない” 労働者は極力自宅にいるように」との勧告を出した。
では 、"必要不可欠”とされる労働者とはどういった人たちか? その職種は、一部の人たち、ときにはその労働者本人たちにも驚きをもって受け止められた。というのも、そうした労働者の多くは、普段は “判断する裁量” を与えられていない、時給制で働く人たちだったからだ。具体的には、食料品店のレジ係やスタッフ、コンビニの従業員、ガソリンスタンドのスタッフ等。
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会社員たちがいつもの仕事を自宅からのリモートワークに切り替えるなか、こうした人たちは、疫病によってあらゆる活動が止まってしまったかのような外の世界でも、変わらず働き続けている。
感染リスクがある中で働くことをどう受け止めるか
生活に ”必要不可欠” とされた人たちに話を聞いた。自分たちの仕事が必要不可欠とされたことは恵まれたことだから、感染リスクはあっても出勤して業務がまわるようにしなければならない、と述べた者たちがいた。つまりそれは、自分のキャッシュフロー(収入)は滞らないということでもあるのだから。世界にどんなウイルスが発生しようとも、家賃は払わなければならないし、車にはガソリンを入れなければならない、車の保険にも入らなければならない、それが現実だ。
「私は自分の仕事に出ます。多くの人が仕事ができないと悩んでいる中、まだ働くことができる私は仕事に出る義務があると思っています」サマービルのワインショップ Downtown Wine and Spirits の店長スティーブ・マクラウドは言った。
しかし、一部の従業員は“危ない橋を渡らない” 選択をしたという。つまり、1日8時間もの間、大勢の人々と触れ合い、感染リスクがある作業はしたくないと。そう考える彼らを非難するつもりもない、とマクラウドは語った。
「なかには出勤しない従業員もいます。私の知る限り、新型コロナウイルスに感染したわけではありませんが、とにかく彼らは警戒しているのです。それが理由で仕事に出たくないと考えるのなら、私はその判断を尊重したいと思います」
彼自身は、決して“儲かる仕事”と呼べるものではない接客の仕事を続ける判断をしたが(もちろん店長であるから最低賃金以上は稼いでいるが)、自分の仕事にこれまでにはなかったリスクがついてまわるようになったことは重々承知しているし、それなりの予防策は取っている。「毎日、よく考えています。1日に何度も手を洗い、手の除菌ローションを持ち歩き、お金を扱う時は手袋をつけるようにして」
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マクラウドはこうも言った。「この社会では、小売店の従業員、レジ係、倉庫担当者などの仕事が過小評価されていると常日頃から感じていました。今回のような事態にならないとその重要性を認識してもらえない...生活に“必要不可欠”とされる仕事をしている者たちの賃金はもっと上げられるべきです」
仕事仲間のなかには、今回の感染症拡大の影響を受けてすでに賃金アップされた者もいるし、他のローカルビジネスでも同様の対応がなされたことを耳にしたと言う。しかし世の中、従業員のことを一番に思ってくれる雇用主ばかりではない。
マサチューセッツ州サマービルにある Downtown Wine and Spirits で仕事を続ける店員
Photo Courtesy of Steve McCloud
感染者が出た店舗の不適切な対応がもたらしたもの
職を失いたくないから匿名なら回答できるというニューベッドフォードの薬局 Walgreens Pharmacy の従業員に話を聞くことができた。この従業員いわく、同じ店舗で働く2人の薬剤師が新型コロナウイルスの陽性と診断され、2週間の自主隔離を強いられた。にもかかわらず、店側は他の従業員に検査を受けさせることも、2週間の自主隔離も求めなかった。店側は「念入りな清掃(deep cleaning)」を行い、翌朝には店を開けたという。従業員だけでなく、その家族、一般のお客さんもが感染リスクにさらされていると。
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「我々は1日中不特定多数の人と接しているのだし、陽性となったスタッフと濃厚接触していなければ大丈夫、というのが店側の言い分でした」とその従業員は言う。店側が言う ”濃厚接触”とは、6フィート(約180cm)以内の距離に10分以上いることで、その条件を満たした者だけが自主隔離すればいいと。この従業員はその基準には当てはまらなかったが、十分に感染リスクはあったと感じている。 「閉店作業では店内のお金をすべて数えなくてはいけません。2週間は店を閉めることになるだろう、その間は私たち従業員も自主隔離するのだろうと思っていたんですが.....」
基礎疾患があるので、より心配なのだと言う。
「私は糖尿病ですし、妻もぜんそく持ち。同居している母も心臓疾患がある上に糖尿病。自宅にウイルスを持ち込むことがあってはなりません。時給14ドル(約1500円)でこの仕事はやってられないです*」
*マサチューセッツ州の最低賃金は2020年1月時点で時給$12.75(約1370円)
店側のコメントを求めたところ、 「この件について調査中であり、早急に声明をお出しします」と代表者からの回答があった*。
* この薬局ではその後3人目の感染者が発生、衛生局より業務停止通告書が出され、基準を満たすまで再営業できない状況にある。 New Bedford Walgreens With COVID-19 Cases Ordered to Close
医療従事者の声「人々の気の緩みが心配」
苦悩しているのは最低賃金労働者だけではない。ボストンのとある病院で働く医療従事者にも話を聞いた。彼女が働く病院では、従業員のウイルス感染を防ぐため “新たな規定”が導入されたという。例えば、これまでは派遣会社経由で多くの臨時スタッフを雇用していたが、今は大半の業務を正規職員のみでまわしているとのこと。
“パニック買い” を防ぐ対策を取っている小売店もあるが、医療品の不足があちこちで報じられており、非常に懸念しているとも彼女は言った。
「国全体で医療物資が不足している、とても恐ろしい状況です。防護装備を付けてあちこち移動しなくていいよう、できるだけ1つの部屋でやることをすましてから移動するようにしています。これには入念な計画が必要なので、仕事はやりにくいです」
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そして、感染者の数が増加しているあいだは人々は静かに過ごすべき、感染者は前々からいたが我々がそれを知る術を持っていなかっただけのことだと。「何も感染する人が “今” 増えているわけではありません。これから検査能力が高まるに従って、 “実は感染していたと判明する人” が増加していくと思います」
“ハイリスク”とされる医療の現場で働いている彼女だが、”濃厚接触”という意味では、街中にいる人たちのこともかなり心配だと言う。「確かに、私が感染者と濃厚接触する可能性は高いです。でも、感染は必ずしも仕事場で起きるとは限りません。人々がもう大丈夫だろうと気を緩めたとたん、職場外でも感染する危険性は大いにあります」
人々が感染は収束しただろうと考え、長い自粛生活で溜まったうっぷんを爆発させたとき、ウイルスの “第二波” が社会にはびこるのではないかと彼女は懸念する。
「その時、再び感染者が増えると思います。でも、人々をあまりにも長いあいだ閉じ込めておくこともできません。いずれじわじわと元通りの生活に戻っていく、そのときに気持ちが緩んでしまう。今ほどひどい状況ではないにしろ、新型コロナウイルスがもっと“ありふれたこと” になっていくのではないかと考えます」
By Caitlin Russell
Courtesy of Spare Change News / INSP.ngo