新型コロナウイルス感染拡大によって多くの人が大きな不安を抱えている今だが、LGBTQの人たちはより精神が削られる状況に陥りやすい。コロナ危機がLGBTQの人たちに及ぼしているものについて、クイア文化研究を専門とする英ラフバラー大学上級講師のロヒット・K・ダスグプタがレポートする*1。

*1 クイアは同性愛者などを含むセクシャルマイノリティーの総称。従来のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)に加えてLGBTQと表記されることが増えている。

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先日、友人のラジェシュ(仮名)と電話で話をした。25歳の彼はつい最近、バーミンガムの実家に戻らなくてはならなくなったらしい。彼がゲイだと知って家から追い出した両親が暮らすもとにだ。家を飛び出た彼はロンドンで働いていたが、ロックダウンの影響で失業。寝泊まりできる場所も見つからないため、仕方なくの選択だ。

Orna WachmanによるPixabayからの画像
Orna WachmanによるPixabayからの画像

ラジェシュが「悲惨だ」と言うこの状況、LGBTQの人たちのあいだでは決して珍しい話ではない。ロックダウンを機に、針のむしろとなる家に戻らざるを得ない事例が増えているのだ。LGBTQの若者をサポートする団体(Albert Kennedy Trust など)は、若者たちにしっかりしたサポートを得られると確信できるまで(自分のセクシュアリティを)カミングアウトするのを控えるよう呼びかけた*2。

*2 Coronavirus: LGBT+ charity says young people should 'pause' coming out in lockdown


LGBTQの人たちのなかでもとりわけ黒人、アジア人、少数民族(black, Asian, and minority ethnicの略でBAMEといわれる)の人たちは、ホームレス状態にある人の割合が非常に高い*3。雇用が不安定化しているこの状況が、さらに追い打ちをかけることになるだろう。

*3 Coming out isn’t as easy as you think for a LGBT+ person of colour

この未曽有の状況下で、多くのLGBTQの人たちが誰からも手を差し伸べられず孤立してしまっている。この数日間に私が話をした他のLGBTQの人たちも、隔離生活を強いられている今、自分で選んだ場所を離れ、自分のセクシュアリティを受け入れてくれていない家族のもとへ戻らざるを得ない大変な状況にあることを訴えた。 差別や不平等を受けやすいLGBTQの人たちはただでさえ精神面の問題を抱えやすいのに、“社会的な孤立” で状況はさらに悪化してしまう。

インドのLGBTQコミュニティからの窮状を訴える声

長年、筆者らの研究に協力してくれているインドやバングラデシュのLGBTQ活動家たちも、コミュニティ内に不安が生じていると電話で嘆いていた。特に不安が大きいのはトランスジェンダーの活動家たち。ロックダウン中、普段は安心してやり取りできている支援団体から切り離され、“敵意に満ちた” 場所でひきこもらざるを得ない。これは同胞たちからの支援が大きな支えとなっているLGBTQの人たちにとっては、かなりの痛手である。

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LGBTQレインボープライド2019(インド・コルカタ)
© Rohit Dasgupta, Author provided 


筆者はインドの西ベンガル州の複数の町における大掛かりな共同研究に関わってきた*4。その結果、LGBTQの人たちにとって親類や友人関係からの理解を得られるか否かは人生を左右しうる重要な問題であることが分かった。LGBTQの人たちの “孤立化” が大きな課題となっている地方や郊外ではなおさらだ。彼らの中には性産業に従事している者もいて、稼ぎも少なく政府支援もない状況を “生死に関わる”レベルと形容した。

*4 Utopia or Elsewhere: Queer Modernities in Small Town West Bengal(10 March 2017 )

西ベンガル州のトランスジェンダー支援団体「Sambhobana Trust」の活動家ライナ・ロイは、この地域のトランスジェンダーの人たちは平時から警官からひどい暴力を振るわれたり、住宅難の問題に直面したりしているが、ロックダウンによって状況はさらに悪化していると語った。現在、ロイは地元の関係者らとともにクラウドファンディングで寄付金を集める活動を行っており*5、目標としてはトランスジェンダーの人たち250人に一定の収入を3ヶ月間支給したいと考えている。

*5 Support West Bengal Trans Community amid COVID-19

別の支援団体「Varta Trust」のパワン・ダールも、関係者たちがサポートに奔走している様子を伝えてくれた。具体的には、食料配給、介護サービス、HIVの治療を滞りなく受けられるためのサポートなどだ。ダールは東インド地域のLGBTQ活動家たちが最新情報を発信できるよう音声ブログも開設したという。このような活動によって、健康に関する情報を広める/連携を取れる場をつくる/現状をアーカイブ保管する、という3つの機能を果たしている。

社会的孤立で同胞とのつながりを切らさないために

LGBTQの人たちは、収入や住宅、食料といった目に見えやすい問題だけでなく、差別や不平等によって精神的な問題を抱えるケースが非常に多い。それが今や、自らのセクシャリティを明かせない場にあらためて戻らざるを得ない。心の支えである同じ境遇の友人や仲間とのつながりを失ってしまうこの状況は大きな懸念点だ。

ゲイ、トランスジェンダー、クイアの人たち向けの世界最大のソーシャル・ネットワークアプリ「Grindr」のCSR部門「Grindr for Equality」の責任者ジャック・ハリソン・キンタナは言う。世界に目を向ければ、Grindrのようなマッチングアプリを真剣な出会い目的だけでなく、気軽におしゃべりする、悩みをシェアしあうといった(オフラインでの付き合いを目的としない)“つながりを持つ場” として使っているケースがたくさんあると*6。

*6 同性婚を厳しく取り締まるナイジェリアなどにも、Grindrを使って長期間チャットだけの付き合いを楽しむユーザーが多数いる。Flirting, Chatting, Connecting: Hookup Apps Without the Hookup

筆者が行った調査「Digital Queer Cultures in India (March 15, 2017)」でも、多くのLGBTQの若者たちにとってデジタル空間が “生命線” となっていることが立証された。英国でもインドでも、支援を求めて電話相談する人の数が大幅に増えている。支援団体やアウトリーチのオンラインサービスもかつてないほど増えているが、まだまだこの分野でできることがあると考える。

AIDSの苦難を乗り越えた経験を生かす

ウイルスがLGBTQコミュニティを脅かしたのは、今回が初めてではない。エイズ問題で何万人もの人たちが亡くなったことを記憶している人も多いだろう。各国政府や衛生当局の対応が遅れ、故意に事実を隠していた中*7、危機を乗り越えられたのはLGBTQコミュニティが見せた不屈の精神のおかげだ。皆で一致団結し、街頭に繰り出し、適正な医療を求めたのだ。

*7 エイズとの闘いとの中心であった南アフリカだが、当時の政府は長年にわたりその事実を公表していなかった。HIV/AIDS in South Africa: Improved Prognosis

LGBTQコミュニティとって、喪失や悲しみは初めて経験するものではない。これまでも、抑圧に対し怒りの声を上げ、権利を勝ち取り、生き抜いてきた。誰が感染するかわからない以上、新型コロナウイルスに感染したからといって偏見にさらされるべきではないはずだ。我々は常に自分たちよりも弱い立場にある人たちがいることを認識し、できる限り手を差し伸べる必要がある。

※ こちらは『The Conversation』の元記事(2020年4月17日掲載)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

著者 Rohit K Dasgupta
Senior Lecturer in Global Communications and Development, Loughborough University


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