政府も地震学者も「地震予知は困難」とする中、独自の予測を『MEGA地震予測』で配信してきた村井俊治さん(地震科学探査機構〈JESEA〉取締役会長)に、プライベート観測点の設置や「ミニプレート理論」の発見で見えてきた新たな展開について聞いた。

三つのデータから地震予測
1300ヵ所に「電子基準点」
高さ、水平移動、沈降と隆起

  測量工学が専門の村井俊治さんが地震予測を始めて17年が経つ。「東日本大震災のあと地震学者も日本政府も“地震予測は不可能です”と降伏宣言しました。地震学の専門家は地震計と活断層と過去の大地震の記録から“数十年以内に大地震が発生する確率”を推量しますが、地震大国の日本で人命を救うには、それでは不十分。私は、予測に役立つ可能性のある、あらゆる地震の前兆、異常変動を視野に入れたい。地震との関係を示す科学的根拠はありませんが、地震が起こる前には確かに前兆があり、それをとらえることはできるんです」

地震の前には、たとえば「人の耳には聞こえない地鳴りのような低周波“インフラサウンド”が生じる」「微弱な電流を流して電気抵抗を測る温度計“白金測温抵抗体”の電流に乱れが起きる」「地中から噴出したラドンガスなどの物質が地震雲となって人工衛星の画像に写る」などの前兆が現れるという。

そして、村井さんが会長を務める「地震科学探査機構(以下、JESEA)」では、「衛星測位システム(GNSS)によって観測される地表の三次元的位置座標(XYZ)の変動」から地殻の変動を観測し、地震の前兆をとらえてきた。

「地球の表面(地表)はたえず上下左右斜めに5㎜~1㎝ほど、ゆっくりと動いていることがわかっています。観測を続けていると、経験的に三つのことがわかってきました。第1に、ある地域の4~5地点で地表の高さがまとまって4㎝以上動くと、数週間から数ヵ月後に地震が来る可能性が非常に高くなります。2番目の予兆は、水平方向に大きく動くこと。18年7月に千葉県東方沖で起きた地震の前には水平方向に大きく動きました(図1)。3番目に危ないのは、地表がどんどん沈降していって、隆起に転じる時です。18年9月の北海道胆振東部地震の前には大きく沈降したあと隆起に転じる現象が見られました」

<図1>
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村井さんらはこうした異常変動を、国土地理院が全国に約1300ヵ所設置した「電子基準点」のデータからキャッチしている。電子基準点とは地表の位置を測定している「測位衛星」からの信号を受信している高さ約5mのタワーのことだ。

「ただし、そのデータは2週間遅れでしかダウンロードできないため、直前の変動をとらえることはできません。そこで私たちは全国に独自の観測点を設けることにしました。現在は、NTTドコモの協力を得て全国16ヵ所の携帯電話基地局に設置させてもらった観測装置と、私たちが独自に設置した2ヵ所のプライベート電子観測点が稼働しています」

観測点が増えたことで、2013年から現在までの震度5弱以上の地震の捕捉率は「前兆から3ヵ月以内に起きた確率が53%、6ヵ月以内が85%」と、高い水準を保っているという。6年前から、この情報を有料で配信している『MEGA地震予測』には現在約5万人が会員登録している。


「また最近では、準天頂衛星(※)の電波が受信局に届くまでの間に、地震の前には超微小な遅れが生じることもわかり、8月に特許が登録されました。うまくいけば2週間以内の地震予測が可能となるため、海外から多くの人が集まる東京オリンピックまでには、このシステムを完成させたいと思っています」

※ GPSとの一体運用が可能な「みちびき」を利用して位置情報を測位するシステム。 

日本列島は八つの“面”で動く
定量的、動的で、再現性可能

さらに、村井さんは前兆の観測を続ける中で、あることに気づいた。

「きっかけは16年4月に起きた熊本地震でした。地図(図2)の濃い青で示した熊本市周辺は約15㎝沈降したのに対し、すぐ北東の赤い部分は約25㎝隆起。さらに北東の青で示した阿蘇山周辺は沈降しました。水平方向の変動に着目すると、九州北東部の福岡・大分北部は北方向、その南の大分中部・南部は南西方向、南部の宮崎・鹿児島は南方向、西部の長崎・佐賀・熊本は南東方向に向かって動いている。地震が起きると、よく断層が動いたと言いますが、断層という線ではなく、九州がいくつかの塊ごと、面で動いたことがわかったんです」

<図2>
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電子基準点のデータは、地球の重心を原点とする三次元の座標軸で表されるが、「試しに、このデータをもとに、同じような動きをする塊をクラスタリング(分類)した結果、日本列島を八つの“ミニプレート”に分類できることが明らかになりました」(図3-①)。村井さんは、これを「ミニプレート理論」と命名した。

<図3-①、図3-②>

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「たとえば現地調査や経験に基づいて作成する“地体構造区分図”(図4)などは、地質学者によって内容が異なりますが、ミニプレートは定量的で、動的で、再現性可能なもの。同じデータと方法論を使えば、誰が作成しても同じ内容になります」

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ただし、ミニプレートは大きな地震のあとには大きく変動するという。 「11年3月の東日本大震災以降、特に12年10月頃から日本列島は激しく動いています。日本のどこに地震が来てもおかしくない状態です。今、北海道と青森は沈降することなく隆起を続けていますが、震源地に近い東北の太平洋側は最大1m10㎝沈降。もとに戻ろうと今も隆起を続けていますが、秋田と山形は沈降し続けていて、ミニプレート⑦と⑧の境目、奥羽山脈エリアにひずみが溜まっていると思われます」

また、18年9月の北海道胆振東部地震が起きた北海道中部は複数のミニプレートが混在しているエリアだが、震度5弱以上はミニプレート①の地域に集中。ミニプレートごとに動いていることがはっきりしたと村井さんは言う。

「さらに、北海道を右回転させてみると、ミニプレートの番号の配置が本州と似ていることがわかり、驚きました」(図3-②)


3~4万円の受信機で観測可能
個人、近隣社会レベルで予測へ

村井さんらの解析によると、08~18年に起きた震度5弱以上の内陸型地震のうち7割は、ミニプレートの境界付近で起きている(図5)。

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「18年4月の島根県西部地震も、6月の大阪府北部地震も、19年5月の千葉県北東部地震もそうでした。このことから、ミニプレート同士の押し合いへし合いがひずみとなって地震を誘発しているのではないかと考えています」

今年5月の宮崎県沖の日向灘地震でも「ミニプレート④と⑤の境界に近い北郷と宮崎で沈降のあとに異常な隆起が見られた」と言い、ミニプレートの動きを解析すれば地震の予測にも使える可能性があると村井さんは見ている。

「私の曾祖父は1896年の明治三陸地震の津波で亡くなりました。それだけに、いずれは個人レベルで地震予測ができるシステムを開発して、犠牲者をなくしたい。現在、電子観測点の設置には1基につき300~400万円かかりますが、私たちの研究では3~4万円の受信機でも観測が可能になる見通しが出てきました。大手メーカーも1万円ほどの受信機を開発中です」

この受信機を設置する場所は上空が水平から15度以上開けていて、近くに高い木や高層ビルがないことが条件だが、「町内会や学校、病院などに共同で設置してはどうか」と村井さんは提案する。

「ソーラーパネルから電源を取れば停電になっても安心です。AIスピーカーのように、危険度が高まったら光って知らせることができるようになれば、早いうちから避難の準備に取りかかれる。海上の漁船やヨット、クルーザーなどの船も、水深200mの海域まで逃げることができれば津波の被害から助かります」 3人で立ち上げたJESEAも今や6人体制となった。

「社員以外にも、私の地震予測を見たり、講演を聞いたりして、サポートしたいという若いボランティアの方々が続々と現れてきました。夏休みの自由研究のために見学に来る中学生もいます。文系・理系にかかわらず、やる気と情熱さえあれば、若い方々の参加は大歓迎です」

(香月真理子)

(脚注) 
※ 図1、図2、図3-①、図3-②、図5はJESEA提供資料から作成 

(プロフィール)

むらい・しゅんじ
1939年生まれ。東京大学名誉教授(測量工学)。地震科学探査機構(JESEA)取締役会長。東京大学生産技術研究所教授、国際写真測量・リモートセンシング学会会長、日本測量協会会長などを務めた。2013年にJESEAを設立。毎週、メルマガとアプリで『MEGA地震予測』を発信。著書に『地震は必ず予測できる!』『地震予測は進化する!』(ともに集英社新書)。

(プロフィール写真クレジット)

Photo:横関一浩


(書籍情報) 『地震予測は進化する! ──「ミニプレート」理論と地殻変動』 村井俊治/集英社新書 /760円+税
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