ライターのマルコス・パウエルは、オクラホマのストリート誌『カーブサイド・クロニクル』の元販売者だ。住む所を見つけ仕事を得て『カーブサイド』を卒業した彼は今、空き時間に大好きな映画の論評を書いている。すべてのアフリカ系米国人にとって重要な意味をもつ「ブラックスプロイテーション映画(※)」の世界への案内が届いた。
※ Black(黒人)とExploitation(開拓)を組み合わせた造語
「カーブサイド」元販売者マルコス・パウエル
Photo: Ranya Forgotson
5年で150本。映画界に黒人が入る扉を開いた
「ブラックスプロイテーション」という映画ジャンルが生まれたのは1970年代初頭。それはスクリーン上に登場するアフリカ系米国人の存在をまっとうに認めてほしいと願って始まった、ハリウッドにおける公民権運動の一環でもあった。当時、映画業界にも蔓延していた人種差別により、多くのアフリカ系米国人が「白人のスタジオ」での映画制作には問題があると感じていた。白人が主導する制作現場で、黒人俳優に与えられる役といえば、粗野でガラの悪い役ばかり。そこで、黒人の作家、俳優、監督、プロデューサーらが集まって、映画史上初めて白人よりも黒人の観客の視点に重きを置いた映画を作り出した。
この時代に思春期を迎えた私は、多くのブラックスプロイテーション映画を観て育ち、登場人物に感情移入した。この映画に登場する俳優らは、私(黒人男性)と同じような姿をして、同じような話し方をした。多くが都市部で繰り広げられる物語だったこともあり、これをきっかけに私は映画に興味をもつようになった。
ところが、71~76年にかけて150本程の映画が制作された後、ブラックスプロイテーションの時代は急速に終焉を迎える。NAACP(全米黒人地位向上協会)などの批評家は、ブラックスプロイテーション映画が暴力を賞賛し、ネガティブな黒人のステレオタイプを恒久化したと批判した。これらの主張は、ある部分は正しかった。多くが、ギャング、犯罪、薬物、暴力などを中心に展開され、時にはそれを賞賛していたからだ。黒人がスクリーンでそういった作品を観たがり、制作側もそれに応える方向に力を入れていたのである。
さまざまな意見があるが、ブラックスプロイテーション映画はハリウッドの歴史と米国の黒人の歴史において非常に重要な位置を占めることは確かだ。映画業界に黒人が入り込む扉を開き、ジョン・シングルトンやスパイク・リーのような映画監督に影響を与えた。
黒人文化とその社会的不平等を初めて銀幕で描いたブラックスプロイテーション映画。中でも映画史上重要な役割を果たした、私のお気に入りの作品のいくつかを紹介しよう。
『黒いジャガー』 (原題:SHAFT)1971年
黒いジャガーはブラックスプロイテーション映画として制作された初の作品であり、ブラックスプロイテーションという映画ジャンルの成功を支えた。ゴードン・バークス監督、リチャード・ラウンドトゥリー主演で、拉致されたギャングのボスの娘を救出するために雇われた私立探偵シャフトの活躍を描いている。人種、セクシュアリティというテーマに焦点を当て、このジャンルの代表作となった。メジャー長編映画で初めて黒人俳優が主人公を演じた作品でもあり、ラウンドトゥリーはMTV特別功労賞を受賞した。興行収入は1200万ドルを超え、黒人白人双方の批評家たちから高い評価を得ることとなった。アイザック・ヘイズが手がけた映画音楽はグラミー賞サウンドトラック部門を受賞。
『スーパーフライ』 (原題:Super Fly)1972年
70年代で最も人気のあるブラックスプロイテーション映画の1本であり、カーティス・メイフィールドによるテーマ曲で有名だ。ファンクとソウルミュージックを象徴的に使った最初のメジャーヒット作品となった。この作品はゴードン・パークスが監督、ロン・オニールがコカインディーラーのプリーストを演じた。プリーストは人生の最大の薬物取引をやり遂げた後にドラッグ関係の仕事から足を洗う計画を立てていた。
黒人をドラッグディーラーとして描写している点を批判する声が一部からあがったものの、主人公を演じたロン・オニールは、ストーリーをよく理解しプリーストが何から逃れようとしていたかを考えれば、この作品はおそらく最高のアンチドラッグ映画なのだと主張した。
『110番街交差点』 (原題:ACROSS 110TH STREET)1972年
アンソニー・クイン、ヤフェット・コットー、アンソニー・フランシオサ出演の犯罪映画。ニューヨーク警察に勤務する人種差別主義者のイタリア系警察官と同僚のアフリカ系警察官を中心に展開される物語だ。この二人は銀行から30万ドルを強奪した黒人3人組を追う。二人の警官の間に流れる空気には人種差別的緊張感が張りつめている。多くの批評家から至上最高のブラックスプロイテーション映画だと言われている。
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『罠』 (原題:TRICK BABY)1973年
罠は実に興味深いコンセプトを持つ作品で、二人の男が自分の人種を利用し詐欺を働く物語だ。メル・スチュアート演じる黒人詐欺師のブルー。キール・マーティン演じるホワイト・フォルクスは、黒人売春婦の母親と白人の父親「トリック」の間にできた子である。ホワイト・フォルクスは白い肌を持つため、ブルーと一緒にカモとして狙う白人男性の信頼を得ることができる。彼の白い肌は本来黒人が入れないような白人専用エリアに入ることができるのだ。ところがそれは同時に黒人コミュニティからは拒絶されることでもあった。
この作品では、白人俳優キール・マーティンが白人に見える黒人役を演じている点がユニークだ。また、70年代の人種差別や明るい肌を持つアフリカ系米国人に関する見方を知る作品にもなっている。
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『フォクシー・ブラウン』 (原題:Foxy Brown)1974年
ブラックスプロイテーション映画は多くの場合、強い男性の主人公や黒人の男らしさに焦点を当てたものだった。そんな中、フォクシー・ブラウンは、女性の主人公に焦点を当てた数少ない作品である。ドラッグディーラーによって殺された恋人の死に対し復讐を挑むセクシーなフォクシー・ブラウンをパム・グリアが演じている。この作品は、映画における黒人権利運動だけではなく、フェミニズム運動としての側面も持つ。さらに、クエンティン・タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』(’97)を含め、多くの映画に影響を与えた作品でもある。
(Marcos Powell/Curbside Chronicle/ www.INSP.ngo)
※上記の記事は2017-10-01に発売された『ビッグイシュー日本版』320号(SOLD OUT)からの転載です。事務所に在庫はございませんが、路上の販売者の手元には残っていることがありますので、お気軽にお声掛けください。
https://www.bigissue.jp/backnumber/320/
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