国際的に活躍するスウェーデン人の名優、ステラン・スカルスガルド。パイレーツオブカリビアンでオーランド・ブルーム演じたウィル・ターナーの父親役など、多くの映画で活躍している。英ビッグイシュー誌のインタビューに応え、映画産業の衰退からスウェーデンの移民政策、はたまたディズニーの「道徳条項」に至るまで、幅広い話題を忌憚なく語ってくれた。
記事:スティーブン・マッケンジー
今や、映画業界はポップコーン産業と化した
2015年のBBCで抜きん出た作品は、犯罪サスペンスドラマの『リバー』だった。筋書きが面白いだけでなく、英国にひっそりと存在する移民コミュニティなど、さまざまな時事問題も掘り下げている。主人公のジョン・リバーも、通常のテレビドラマの刑事とはかなり違う。彼には死んだ人の姿、もしくは亡霊が見え、犯罪の解決を手助けしてくれるものの、それは傷つきやすい彼の精神状態をますます悪化させてしまうのだ。
ステラン・スカルスガルドにとって、リバー役は初のテレビの大役である。『アベンジャーズ』でスーパーヒーローたちと並び、記憶に残る『マンマ・ミーア!』では愉快な役どころ、またスカンジノワール(スカンジナビアで作られた暗い映画)のパイオニアでもある彼は、これまでに数えきれない程のハリウッド映画に出演している。
――ドラマ『リバー』への出演は、映画俳優のテレビ界進出となりましたね。
我々はもっと思い切ってテレビ業界に入っていくべきなんだ。映画業界は、今やポップコーン産業と呼びたいくらいだ。予算1〜2億ドル規模の大型映画があって、その次はなし、なし、なし、何もなし。そして、その後に予算200万ドルほどのインディペンデント映画がいくつか。それ以外はすべてなくなってしまった。昔はその間に、役柄の際立つ映画、すなわち最高の脚本家によって書かれ、最高の作り手が監督し、最高の役者たちが演じていた作品があったというのに。
――あなたは(ヒーローものを量産している)マーベルコミックスや「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの一員ですよね。(最近の残念なトレンドに)加担したような気持ちがしますか?
いやいや、加担したなんて思ってない。それが市場のルールなんだから私のせいではないよ!映画産業はチケット販売よりもポップコーン販売での方が売り上げが多いんだ。
――テレビドラマに出てくる刑事はみな、個人的な葛藤や欠点を抱えていたりしますよね。今回のジョン・リバー役はどうでしたか?
我々は刑事もののドラマなんて、何千と見てきてるだろ。 私はいわゆる“刑事”のセリフを言うのがとても下手でね。「監視カメラのデータをダウンロードして奴の銀行口座を洗ってみろ…」なんてセリフには熱意を込めることができない。普通の刑事ドラマの台本は、犯人を探り出す捜査手順の方が登場人物を描くことよりも重要なんだ。しかし、この台本では物語のど真ん中にリバーというおかしな男がいて、捜査手順の方はあくまで背景なのさ。
女性の良い役は、男性の良い役よりいいものだよ
――リバー役を演じることで男優と女優のどちらにもなることができると言っていますね。それはどういう意味でしょうか?
私はよく女優のことをうらやましく思うんだ。感情を思い切り表に出すことができるだろ、その役柄が感じているすべてを。ほとんどの男の役は、文化的な制約があって感情を抑えるように台本が書かれている。けれどもリバー刑事は、亡霊と対峙するシーンでは感情を大きく表すんだ。演じていてとても自由を感じたよ。
――けれども業界の中の人も外の人も、女性には良い役が足りないとよく不平を言っていますよね?
それは本当だ。けれどまた別の問題だ。ほとんどの場合、女性の良い役は男性の良い役よりもいいものだよ。たとえその数が少ないとしても。
――ピアース・ブロスナンやコリン・ファースと一緒に『マンマ・ミーア!』で演じた役では、女性がよく配役されるような役を味わったのでは
あの撮影では、我々は可愛らしくひょうきんに振る舞うことを求められた。頭が空っぽになったみたいに。私はすごく楽しんだよ。あの作品は女性によって脚本が書かれ、プロデュースと監督がなされた、ある意味非常にフェミニストな作品だったと言える。
イギリスがスウェーデンから学ぶこと、スウェーデンからイギリスが学ぶこと
――スカンジナビア人(スカルスガルド)が出演している「リバー」は、“スカンジノワール”と見なせるでしょうか?
いいや、それは商業的な、視聴者に親しみを持たせるためのただのラベルだ。私はスカンジノワールが何なのかさえ知らない。おそらく何年も前の『インソムニア』という作品から始まったんだろうが、今となってはスカンジナビア地域から出てくる作品は何でもスカンジノワールと呼ばれてしまう、それは悲しいことだ。
――スカンジナビアではスカンジノワールを何と呼ぶのですか?
単にテレビと呼ばれているよ。ノルディック・ノワールは『ミレニアム三部作』によって盛大にプッシュされたからね。あの作品は本当に何の変哲もない犯罪物語だが登場人物が非常に興味深かった。スカンジナビアは世界中のどこよりもはるかに自由なんだ。つまり、私の国の女性の登場人物は、他の大部分の国とは異なったふうに描かれていると言える。
――イギリスでは、我々はどうしてこんなに抑えつけられているのでしょうか?
わからないよ! 僕自身もずっと疑問に思っているんだ。なぜ王女が生まれると、タワー・ブリッジにピンクの照明が灯るんだ? ここはバービー人形の国なのか? 私の国ではその子にペニスがついているかどうかで色を決めたりしない。
――イギリスがスウェーデンから学べそうなことは沢山ありそうですが、逆にスウェーデンがイギリスから学べそうなことはありますか?
悪いことならいくつか学んだよ。サッチャーがイギリスにやったことなら何でも、20年後に私たちも実行した。今、イギリス労働党の新しい党首がコービンになったことに対して興味深い反応が出ているね。もしかしたらスウェーデン社会民主党も何か急進的なものを取り入れるべきなのかもしれない。
――リバーはロンドンの移民コミュニティを調査しますね?
今までに見たことがないロンドンを見た。私の風呂よりも小さいアパートに5人が住んでいる所にも行った。その時私はイズリントン区に滞在していて、最もおしゃれな地区というわけではないが隣の家は600万ポンド(約9億4千万円)で売り出されていた。世界を見渡せば貧困に苦しんでいる人々は大勢いるさ。だけどこれほどの豊かさと隣り合わせで貧困に苦しむ人を見るのはとても辛い。とても恐ろしいことだし、この格差はいつか衝突や過激主義を誘発するだろう。
人類は移動するもの、社会は変化し続けるもの。移民排斥より受け入れを望むスウェーデン、受け入れに消極的なイギリス。
――移民に親しみのある国といえばスウェーデンだと思います。一人当たりの移民受け入れ数が他のどの国よりも多いですね、その数は2015年には20万人に及んでいます。
スウェーデンは過去何十年にもわたって移民を受け入れている。彼らはやがてスウェーデン社会に溶け込んでゆくから、大勢の移民を受け入れること自体は大きな問題ではない。問題は、恐怖を煽ることによって勢力を増す右翼団体だ。スウェーデンはヨーロッパの中で反移民派がまったく成功しない最後の国だったが、我が国の右翼政党も今では10%超を占め、成長しつつある。特に、より大きな不安を抱える労働者階級の間でね。それでも65%のスウェーデン人は、もっと受け入れたいと思っているんだ。心強いね。
――スウェーデンはイギリスより10倍以上の移民保護請求を許可していますが、イギリス社会の方がおそらく10倍は文句を言っていると思います。なぜこのような差が起きるのでしょう?
考え方だよ。では、イギリスはいつ国境を閉鎖するべきだった? (ノルマン朝に征服された)1066年より前だったかい? もしくはバイキングがやって来るより前かい? 人類は移動するということ、社会は変化していくということ、そして私たちが生きている時間なんてほんの一瞬なんだということを理解するべきだ。アメリカはメキシコとの間に壁を作ろうとしている。元はと言えばアメリカがテキサスとカリフォルニアとほとんどの南部の州をメキシコから盗んだというのに。それに、本当に移民を制限したかったはずなのはネイティブアメリカンの人々だったと思うよ!
言いたいことを言う。自分の権利は守る。
――なぜあなたは今まで政治家に転身しようとしなかったのでしょう?
それは自分の考え、特に自分の発言が制限されてしまうからさ。
――言いたいことが言えることを楽しんでいますか?
非常に楽しんでるとも! 本当は、啓蒙運動の後はどんな発言をしても許される社会になっているはずなんだが、未だに使いたい言葉を使うことすら許されていない。ベネディクト・カンバーバッチが(アメリカのトーク番組内で)「有色の(colored)」という言葉を使ったら、非難轟々、彼が本当に言おうとしていたことなんて誰も聞きやしなかった。かつてその言葉は、黒人を描写する良い言い方だったのに。アメリカはかなりおかしいよ。差別的な言葉を使うのは犯罪だ。だけど一方で黒人の乳児死亡率は白人の2倍という現実は変わらない。言葉だけを取り締まっても本質的な問題は解決しない。
――ベネディクト・カンバーバッチも、(『ドクター・ストレンジ』への出演によって)マーベルコミックスの一員になりましたね。(マーベルの株主である)ディズニーは、出演するスターに常に良い態度を保つよう約束をさせる契約を結ばせると聞きましたが?
ああ、道徳条項?
――道徳条項と呼ぶのですか?
ディズニーはずっと昔からやっている。内容は基本的に、社会の多くの人々を逆上させるようなことをしたら映画から名前を外し、訴えて、あなたに悪影響になることをしますよというものだ。私は一度もサインしたことはない。それは私の言論の自由の権利、憲法上の権利を侵害していると言ったよ。それに、そもそも社会とは一体どの社会のことを言っているんだ。ソルトレークシティかそれともカブールか?とも言ってやった。だからディズニーは私向けには契約書を書き換えた。私は今でもディズニーに訴えられることなく、公共の場所でズボンを脱ぐことだってできるんだ。
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