再生可能エネルギーとして注目されているバイオマス発電だが、その燃料によっては要注意だ。特に、福島第一原発事故で汚染された材木を燃料にした木質バイオマス発電計画には賛成できない。しかも、固定価格買取制度(FIT ※)を活用するとはとんでもない。以下、田村市と飯舘村の計画を紹介する。 







※ 太陽光発電など再生可能エネルギーで発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付ける制度

燃料チップの放射能量、事実上、制限なし

田村市の計画は、タケエイ(廃棄物処理・リサイクル事業)が田村市と共同で設立した「田村バイオマスエナジー」が進める事業で、7100kWの発電能力をもつ。当初計画は、放射能量が多い樹皮を除いたチップ(木片)のみを燃料として扱い、チップ製造工場は設置しない約束でスタートした。しかし市長の交代を機に、樹皮も燃料に使う、さらにチップ工場を隣接して建てるという計画に変更。建設予定地は市内大越町の産業団地内にあり、2019年1月から建設工事に入っている。操業は21年1月の予定とされている。

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田村市で建設中の木質バイオマスプラント 撮影:大越町の環境を守る会

計画変更に伴い、燃料チップの放射能量は100ベクレル/kg以下に制限するというが、その検証はサンプリング調査のみ。これではサンプリングでたまたま基準を超えても薄めればよいことになってしまう。市議会の質疑のなかでは「樹皮は放射能汚染が強い」「福島原発付近の樹皮は10万ベクレル/kgを超えるものがある」などの指摘が出ていた(17年12月議会、猪瀬明議員)。これに対して企業側は微粒子を捕捉する高性能フィルター(HEPA)を追加して安全性を高めたという。

しかし、HEPAフィルターの性能は一般に99.97%捕捉できるとしているが、この性能を維持するには比較的頻繁にフィルターを交換する必要があり、これを怠れば漏洩量はさらに増える。実のところ、事業者の放射能の排出基準は30ベクレル/㎥と、一般焼却施設と同程度。HEPAの効果に期待していないのだ。 町民の間には根強い不安があり、「大越町の環境を守る会」を結成して反対運動を展開。19年9月には裁判に訴え、係争中だ。

森林伐採で土壌流出 むしろ汚染拡大の恐れ

 また、飯舘村では、飯舘バイオパートナーズが事業を展開しようとしている。この会社は、東京電力ホールディングス、東京パワーテクノロジー、神鋼環境ソリューション、熊谷組によって設立された。計画では、7500kWの電気を出力する。燃料は樹皮を主体に年間9.5万トンを使用するとしている。発電所の建設地は村内蕨平地区で、震災瓦礫などの仮説焼却施設の跡地を利用する。24年の運転開始を目指している。

 飯舘村の説明では、除染計画のない森林の除染に役立つと強調されているが、これには反論が出されている。そもそも森林では土壌の汚染が8割程度なので、木を伐採してもさほどの除染にならない。逆に伐採により土壌が雨により流出する恐れが高くなり、汚染を拡大する結果になるとの指摘もある。

 どちらの計画も、焼却灰の処分についての問題もある。汚染された樹皮を燃料にすることから、焼却灰は数万ベクレルあるいはそれ以上に達する恐れもある。しかし、事業者が汚染廃棄物として申請しなければ、ただの灰の扱いになってしまう。法の抜け穴といえる。

 汚染材を使った木質バイオマス発電は放射性物質の拡散につながる。両計画とも政府の福島再生加速化交付金(現在は、福島帰還環境整備交付金と改名)を利用することになっているが、そもそも交付金で実施する事業にそぐわず、行なうべきではない。 (伴 英幸) 

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(2020年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 390号より)

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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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