世界で売られるジーンズは、毎年約20億本。しかし、その多くの製造工程は環境や社会、人間に配慮しているとは言いがたい。店に並んだジーンズたちは、労働や生産コストの低い国を旅してやって来る。 

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 ドイツ市場向けの格安ジーンズがたどる生産過程(上地図)は、およそ6万㎞の道のりだ。たとえば綿花はカザフスタン産で、原料栽培には大量の農薬が用いられる。そこからトルコへ送られた綿繊維は、撚りがかけられて綿糸となる。次なる経由地は台湾だ。綿糸はここで織られ、デニム生地へと姿を変える。インディゴの化学染料はポーランドで生産され、染色はチュニジアで行われる。その後ブルガリアで柔軟性の付与と防シワ加工が行われ、生地ができあがる。そして中国でジーンズとして縫い合わされ、フランスでストーンウォッシュ加工(※1)など最後の仕上げが行われる。最終目的地のドイツではブランドロゴが縫い付けられるだけだが、この工程が収益に与える影響は最も大きい。

※1 軽石でジーンズに洗いをかける仕上げのこと 

 一見すさまじく長い製造工程のようだが、低価格で取引を行う業者にとっては、この大量生産によって収益がもたらされる。外注先の国々では、ありあまる労働者や、業者にとって都合のよい税制度があるのに加え、労働組合の存在はほとんど知られていない。国際NGO「クリーン・クローズ・キャンペーン(※2)」によると、労働者の手元に渡る賃金は売却価格全体のわずか1%だという。その他の11%は輸送費や諸税に消え、13%が工場の運営費に、25%が広告費に充てられる。大部分を占める残りの50%をさらうのは小売業者たちだ。

※2 繊維産業の国際的な労働環境と労働者の権利改善に努める擁護団体

Michal JarmolukによるPixabayからの画像
Michal Jarmoluk / Pixabay

 あまりにも安すぎる衣服が、生産国の過酷な労働の結果だという話は何年も前から問題視されてきた。だが、それだけではない。数ヵ国にわたる大量生産の製造工程は深刻な環境被害も引き起こしているのだ。数万㎞の距離におよぶ商品の輸送は莫大な燃料を要するだけでなく、大量の二酸化炭素を大気中へと排出する。一本のジーンズを作るのに消費される水の量は8千ℓであり、綿花の栽培にもまた多量の水が必要とされる。2010年のドイツ連邦統計局の試算によると、国内で販売される綿製品だけで合計64億㎥もの水が費やされているという。この数字は、ドイツ国内の家庭における水の総消費量の2倍以上に相当する。

 カザフスタンのアラル海も、かつては世界第4位の面積を誇る内陸湖だったが、綿花栽培を目的とした灌漑の影響で干上がり、ほとんど砂漠と化してしまった。これは世界的に見ても最悪の部類に入る、人間の手による自然災害だ。

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 カザフスタン・アラル海の89年(左)と08年(右)の様子

 また、ヴィンテージジーンズの流行についても触れておく必要がある。ダメージ加工を施すサンドブラスト手法は砂状の研磨材を高圧で吹き付けるため、飛散した研磨材を吸引し、死に至る肺の病気にかかる危険性が指摘されてきた。しかし、未だにこの手法は労働者や環境への規制がほぼ存在しない国で行われている。

 安価な製品の生産による実際のコストには、河川や大気の汚染ならびに労働者の搾取と健康被害を含めなければならない。自然保護団体「グリーンピース」のマンフレッド・サンテンはこう語る。「たとえ国内の水が清らかになったとしても、消費者はドイツが環境汚染の問題を克服したわけではないことを自覚しなければなりません。それは単なる世界の片隅への押しつけにすぎないのです」

(Hans Peter Heinrich, fifty fifty / INSP)

※上記は『ビッグイシュー日本版』349号(現在はSOLD OUT)からの抜粋です。


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