コロナ禍で世界中の人々の生活が一変した。これまでに約125万人以上の命を奪い(11月9日時点)、世界経済を根底から揺るがし、とりわけ発展途上国の貧困・飢餓の状況を急激に悪化させている。しかし、最も深刻な影響がもたらされているのは、成長途上にある子どもたちの生活ではないだろうかーー。
「今回のパンデミックにより、最貧困層が直面してきた、ただでさえ根深い格差問題がさらに悪化しています。この世界的危機にあって、彼らは自らの身をを守る術を持っていません」と指摘するのは、子どもの権利活動家で2014年ノーベル平和賞受賞者のカイラシュ・サティーアーティ。多分野の志あるリーダーたちを結集させた「子どもたちのためのノーベル賞受賞者と指導者*1」の創設者でもある。
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「国益や世界経済を守るため、各国政府は過去最大級の財政支出を行っていますが、世界中に存在する1日2ドル以下で暮らす子どもたちには、ほとんどお金がまわっていません」。今すぐ行動を起こさなければ、「子ども世代を丸ごと失う可能性がある」と警告する。
*1 Laureates and Leaders for Children
サミット「子どもたちに公平なシェアを」をオンライン開催
2020年9月9〜10日、「子どもたちに公平なシェアを」をテーマとしたサミット「THE FAIR SHARE for CHILDREN SUMMIT」がオンラインで開催された。パンデミックで大打撃を受けた貧しい子どもたちの窮状に焦点を当て、政府予算の増額を呼びかけることが目的だ。登壇者には、ノーベル賞受賞者やダライ・ラマをはじめとする世界的指導者など多彩な顔触れが揃った*2 。*2 サミット登壇者
世界の国々が最底辺に追いやられた子どもとその家族に公平な資源配分を行ったなら、つまり新型コロナウイルス対策費の約2割を、人類の最貧困層にあたる約2割の人々にきちんと行き渡らせれば、世界は大きく変わるだろう、とサティーアーティは言う。
元国連事務次長補でユニセフ(国連児童基金)元事務局長のクル・ゴータムは、今回のパンデミックによって、世界的にかつてないほど“関心の高さ”と“行動”が生まれている。それを政治的に利用しようとたくらむリーダーたちもいる一方で、国際協力を強化していこうとする大きなうねりも起きている、と述べた。
「トランプ大統領はじめ一部のリーダーたちによる不公正で事実無根な批判にさらされながらも、WHO(世界保健機関)や国連機関は技術的・物質的支援を発展途上国の人々に届ける調整役として重要な役割を果たしています」
「高齢者や基礎疾患を持つ人たちが新型コロナウイルスの影響を最も受けやすいのは確かですが、多くの社会で女性や子どもたちは、ウイルスのみならず家庭内虐待や性暴力、社会的セーフティーネットの欠如といった他の要因にもさらされ、特に弱い立場に置かれています。さらに世界で何千万人もの子どもたちが学校に通えず、長期間家に閉じ込められており、彼らの未来が脅かされています」
アイルランドの元首相でThe Elders*3の会長を務めるメアリー・ロビンソンは、今回のパンデミックにより、世界中で子どもの人権が危機にさらされ、貧困や飢餓が悪化するとともに、児童労働、児童結婚、児童奴隷、子どもの人身売買、移動する子どもたち(children on the move)が増加していると指摘する。「社会の最底辺にいる子どもたちとその周りの人々に対して、救援金やサービスを公平かつ確実に配分する必要があります。最も弱い立場に置かれた人たちを守るため、私たち皆が団結して取り組まなければなりません」と語った。
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*3 2007年、ネルソン・マンデラ氏が創設したNGO。首脳経験者や元国連事務総長等が会員となり,平和や不正,人権問題等の各種課題についてハイレベルな政治的働きかけ等に取り組んでいる。
ロバートF・ケネディ人権団体の会長ケリー・ケネディーは、パンデミックの非常事態下で児童虐待や搾取の問題が悪化しており、その影響は拘留中の未成年にも及んでいると述べた。ヨルダンのアリ・ビン・フセイン王子は、「各国政府が団結し、社会の最底辺にいる子どもたちとその家族を守るため、緊急支援パッケージの開発が望まれる」と呼びかけた。
オンライン教育を導入できた低所得国は3割
ユニセフとNGOセーブ・ザ・チルドレンの共同分析によると、コロナ禍で経済的に困窮する子どもの数が2020年末までに1億1700万人増え、7億人以上に達すると見られている*4。報告書には「突如として収入を失った家族は、食料や水といった生活必需品の入手すら難しくなり、医療や教育を受ける余裕も失われ、暴力や搾取、虐待のリスクが高まる」と述べられている。photo:ArmyAmber / pixabay
188の国々で全国的な学校閉鎖となり、16億人の青少年が影響を受けた。若い世代の“学び”と“人としての成長の機会”が失われ、その影響は計り知れない。「世界の3分の2以上の国々ではオンライン教育のプラットフォームが全国規模で導入されたが、低所得国で導入できたのはたったの3割です」とユニセフ代表が述べた。
*4 参照:UNICEF: Children in monetary poor households and COVID-19
児童労働者数が20年ぶりに増加する恐れ
ユニセフ代表はまた、コロナ危機によって児童労働問題が悪化する可能性を指摘した。児童労働者の数は2000年以降9,400万人減少していたが、20年ぶりに増加に転じると懸念されている。「コロナの影響があちこちに及ぶ中、深刻なのは貧困の悪化とそれに伴う児童労働の増加です。困窮した家族は、生き延びるためならあらゆる手段を使います。貧困率が1%増加すれば、働く子どもの数が0.7%増加する国もあります」1990年、「子どものための世界サミット」が初開催された際に行動計画ドラフト版の作成にあたったゴータムは言う。「新型コロナウイルスに対する国際社会の対応と各国政府の行動をみると、子どもたち、とりわけ貧しい国・地域に住む子どもたちが直面する様々な窮状に十分な注意が払われてこなかったことが分かります」
ワクチン・ナショナリズムの犠牲になるのは貧しい国の子どもたち
ゴータムはまた、富裕国に広がる「ワクチン・ナショナリズム」も差し迫った脅威であると指摘する。金持ちが薬を買い占めることで命にかかわる医療費が高騰、世界で最も弱い立場にある人々、とりわけ子どもたちが適切な処置を受けられず、寒空の下で待たされることになりかねないと。そのような状況下にあって、「子どもたちのためのノーベル賞受賞者と指導者」が、コロナ対策費を子どもたちの健康にも公平に配分しようと呼びかけたことは非常に歓迎すべきことだとも。米国は、ワクチンの開発・製造・公平配分のための国際協調体制「COVID-19ワクチン・グローバル・アクセス・ファシリティ(COVAX)」への加盟を拒否した。COVAXは、WHO、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)の協業によって170か国が共同で取り組んでいる取り組みで、これを米国がボイコットしたことで、ワクチンの「買い占め」および「価格高騰」につながり得る、と指摘する。
「結局、ワクチン・ナショナリズムの犠牲になるのは貧しい国々に暮らす子どもたちです。支援団体が数十年かけて推進してきた“チルドレン・ファースト”の精神が水の泡となりかねません。今回のサミット開催により、こうした危険性に警鐘を鳴らせればと思っています」と力を込めて語った。
子どもたちの成長を守るために
「子どもたちの成長のチャンスは一度きり。今、子どもたちを優先的に守らないと、この先の彼らの一生が台無しになりかねません。政治指導者や意思決定者は目先の利益をそろばん勘定することで頭がいっぱいなので、こんな簡単な真理すら忘れがちですが」だからこそ、道徳的権威と政治的中立性による信頼性を兼ね備えたノーベル平和賞受賞者らが声を上げたことに意味があるのだという。
今回のサミットで発表された共同宣言は以下のとおり。
「我々、子どもたちのためのノーベル賞受賞者とリーダーは、困窮し底辺に暮らす人たちのために賢明なリーダーシップを発揮し、至急手を差し伸べることを、各国首脳に要請する。この数週間の間に指導者がどのような決断をし、我々がどのような行動をとるのかが、決定的に重要である」
ロヒンギャ市場で難民の子どもたちと野菜を売るモハマド・ラフィーク(2020年3月11日)。この2週間後に、バングラデシュはロックダウンの措置が取られた。パンデミックによって、世界的に子どもの権利が危機にさらされている。photo:
Rafiqul Islam/IPS
「ここで下す決断と行動は、未来の政治、経済、文化、倫理観を形づくるものである。開発における優先課題は見直され、個人の自由やプライバシー、人権は再定義されることとなろう。この機会をとらえて、従来の外交・政治を、より思いやりのある政治へと転換させていかなければならない。新型コロナウイルスは、すでに存在していた世界の格差を露呈し、さらに悪化させた」
このウイルスにとって、国籍や宗教、文化の違いなど関係ないはずだが、すでに社会の底辺に追いやられている人々が最もひどい影響を受けている。貧困層、女性や少女、日雇い労働者、移民労働者、先住民、人身売買や奴隷労働の被害者、児童労働者、移動する人々(難民、国内避難者等)、ホームレス、障害者といった人たちである。ウイルスそのものに加えて、世界の大半の人々に課せられた外出制限などの措置とその余波が、最も弱い立場にある人々に壊滅的な影響を与えるだろう。
By Thalif Deen
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo
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