福島第一原発事故から10年。これを一区切りにしたいのか、ここにきて東京電力HDは新潟県にある柏崎刈羽原発7号機の再稼働を強引に進めようとしている。




強引に再稼働進めたい東電  批判的な委員を排除する県

新潟県は、福島原発事故の原因の検証を行なう「安全管理に関する技術委員会」「避難方法に関する検証委員会」「健康と生活への影響に関する検証委員会」、そしてそれらをまとめる「検証総括委員会」を設置して、福島原発事故を究明している。福島原発事故の原因究明なくして柏崎刈羽原発の再稼働なし、の姿勢だ。しかし今、これが変質しつつある。その現れが、批判的な立場の委員を再任用しない動きだ。その攻防の最中に、あってはならない不正が明るみに出て、強引な再稼働の動きが封じられた。

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不正とは、東電社員が他の社員の個人認証カード(IDカード)を使って、柏崎刈羽原発の中央制御室へ入ったことだ。経過をたどると、昨年9月20日に出勤したAは自分のロッカーにIDカードが見当たらないことから、勤務日ではない無施錠だったBのロッカーからIDカードを持ち出した。防護区域出入り口で委託警備員に対しBの氏名を申告、委託警備員はカードの顔と一致しないことに疑念を抱きつつも、防護区域への入域を許可。さらに次のゲートでは社員警備員Cが認証エラー警報を確認。Cはモニター越しにチェックしただけで入域を許可した。さらにCは委託警備員に対してAの識別情報をBの認証カードに登録するように指示。これでゲートが通過できるようになった。別の委託警備員が、異なる顔だったことに違和感を持ったが、AはBの氏名を名乗り通過した。そしてついに中央制御室に入った。中央制御室での勤務とはいえ、許されることではない。

規制委と県に不正の連絡なし
ネットの書き込みで発覚

 不正が明らかになったのは、翌21日にBが出勤して、IDカードがゲートでひっかかったからだった。このことを東京電力は原子力規制庁に連絡したが、新潟県には連絡しなかった。映画『ミッション:インポッシブル』のような流れだが、幾重もの核防護対策がいとも簡単に突破されたことは重大な事態だ。悪意ある人間だったら、中央制御室が機能麻痺になっていたかもしれない。

 一方、連絡を受けた規制庁はこれを原子力規制委員会に報告しなかった。規制委員会はこの事実を知らされないままに、9月23日に柏崎刈羽6・7号機の審査「合格」を決定した。翌々月の規制庁の四半期ごとの検査においても、「指摘事項なし」と報告し、不正事件には触れていない。このまま闇に葬られたかに見えたが、12月頃にネットに書き込みがあったことからメディアなどの知るところとなり、21年1月23日に東電はホームページで不正を公表した。

 更田豊志規制委員長は「不正を知っていたら合格はなかった」とインタビューに答えている。再稼働に向けた流れの中で、規制庁が隠蔽したとの誹りを免れない。また、東電は2月15日になって事件の関係者6人への出勤停止などの緩やかな処分を発表した。

 また東電は追加的な安全対策工事がすべて完了したと規制庁に報告したが、実際には4ヵ所ほど終わっていなかった。さらに複数の不正侵入検知装置が壊れたまま放置されていた可能性も指摘された。地元からは「東電に原発の運転を任せられない」と強い批判が起こり、梶山弘志経産大臣は「このままでは再稼働はない」とコメントした。
(伴 英幸)

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(2021年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 404号より)


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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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