環境省が5月23日に開催した「福島、その先の環境へ。」と題する初の対話フォーラムを、筆者はオンラインで視聴した。1000人を超える参加申し込みがあったという。「除染で発生した除去土壌の再生利用や県外最終処分」を進めていくためのフォーラムだ。
75%埋まる中間貯蔵施設
県外での最終処分は困難
「除去土壌」とは、福島原発事故で広範囲に拡散した放射性物質(セシウム)によって汚染された土の表層を剥ぎ取ったものだ。福島県内の除去土壌は中間貯蔵施設に順次運ばれている。
同施設は福島第一原発の周辺、大熊町と双葉町にあり、環境省によれば1400万㎥分を貯蔵する敷地が確保されている。2021年3月末時点で、搬入された量はすでに予定貯蔵量の75%に達した。しかしこの中には、今なお続く帰還困難区域から発生する除染土壌や廃棄物の分は含まれておらず、用地確保はなお残る課題だ。
政府は国による土地の買収を働きかけていたが、先祖伝来の土地を手放すことに抵抗のある地権者もあり、買収地と借地とが混在している。
中間貯蔵された土壌や廃棄物は、福島復興再生基本方針(12年7月13日閣議決定)で「中間貯蔵後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」とした。しかし、県外には放射能汚染されたものを引き受ける自治体がありそうもないことを、政府は初めからわかっていたはずだ。にもかかわらず、その場しのぎの決定を行なったとしかいいようがない。
汚染された土壌は資源か?
疑問あげれば“風評加害者”に
環境省は搬入量や最終処分量を減らすために、「土壌は資源」との考えのもとに再生利用を進めている。再生利用に供される土壌は、放射性セシウム汚染が8000ベクレル/kg以下のものだ。おもに道路建設の路盤材として全国の公共事業で利用することを模索しているが、常磐自動車道の南相馬市小高区の拡幅工事で利用しようという計画も地元の反対で進んでいない。また、二本松市内で農道の改修という名目で利用しようとしたが、これも拒否されて頓挫するなど再生利用は県内でも実施できていない。なお、飯舘村長泥地区では農地の嵩上げに使用して、実証実験中だ。
放射性セシウムは時間とともに減り、30年後には4分の1程度になる。環境省が県外最終処分として想定しているのは、30年後にも8000ベクレル/kg以下とならない4万㎥のみ。その他は“再生利用”という名で全国へ拡散することを考えていることになる。
こうした背景から環境省は「全国での理解醸成活動を抜本的に強化」するために、上記フォーラムを開催。30年以内に県外で最終処分という約束を前提にし、「再生土壌を使用しても被曝線量は極めて低く、健康影響はない」「福島の負担を軽減したい」「自分ごととして考えよう」と呼びかけた。自分ごととして考えた結果、我が地域で利用することを働きかけているといった報告はなく、呼びかけは他人ごとのようでもあった。「風評加害者になるな」(開沼博氏・社会学者)という発言も飛び出した。もし、安全性への疑問を訴えれば“風評被害”を呼び起こして“加害者”になるというのだ。
福島の負担軽減を考えることは重要だが、集中管理のために中間貯蔵施設に集めた事故由来の放射能を、再び全国へ拡散させることは愚かな政策というほかない。集中管理を続けるべきだ。また、県外最終処分という合意なき決定が事前にあり、後から理解醸成活動を進める強引なやり方は、福島の汚染水の海洋放出(本誌408号)と同じで、本末転倒だ。(伴 英幸)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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