(2014年2月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 233号より)
再稼働を前提にした東電の再建計画
東京電力は新しい総合特別事業計画(以下、新総特)を作成し、政府は1月15日にこれを認定した。
最初の総特は2012年2月に策定されたが、東電を取り巻く環境に大きな変化があり見直すことになったという。大きな変化とは、まず被害者への賠償が5兆円を超える可能性が出てきた。除染費用や中間貯蔵施設の費用などの見積もりはあわせて3・6兆円と見込まれるようになった。廃炉費用や汚染水問題への対応の費用も膨らんでいるなどなどだ。
また、福島の復興を加速化するとした安倍政権の決定を受けて、新総特では福島原発事故の責任を果たし、進む電力自由化による競争環境の中でも生き残れる会社にする。そして、東電を持ち株会社とし、「発電部門」と「送電部門」、従来の営業エリアを超えた「小売事業部門」の3つに分社化する。福島廃炉専門の会社も設立する計画だ。こうした「改革」で利益もどんどん上げていくという。
旧総特では柏崎刈羽原発の再稼働を前提としていて、地元から強い批判を浴びた。あれから1年半、運転再開は果たせなかった。新総特でも再稼働が前提だ。しかも再稼働申請を行った6、7号機は今年の7月から稼働する皮算用だ。さらに2〜4号機の再稼働も計算に入れたいようだ。再稼働を織り込む場合とあてにしない場合の二通りで損益の試算結果を掲げ、再稼働したほうがもうかるとしている。
しかし、敷地の近くの活断層問題や敷地内を走る断層の再調査も避けられない。これには相当の時間がかかるし、廃炉という結果もありうる。加えて、柏崎刈羽原発の再稼働には、地元の新潟県が再稼働に強く反対していて合意は得られそうもない。
東電は損害賠償に対しても誠実ではない。原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を東電が拒否するケースが目立ってきているという。裁判に訴える動きが増えてきている。
新総特は絵に描いた餅になるだろう。東電を法律に基づいて破たん処理をしたうえで再建するべきとの声は根強い。
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)