パンデミックによって人と会う機会が奪われ、社会的孤立や孤独感が取り沙汰されている。また高騰する家賃問題と合わせて「コミュニティ・リビング」の需要が高まっているという。米デンバーで発行されているストリートペーパー『デンバーボイス』の記事を紹介しよう。

remote-5491794_1280
RoadLight/Pixabay

孤独感という新たな伝染病

ハーバード大学教育学大学院の最新の研究*では、驚くほどの数のアメリカ人が孤独感を抱えていること、そして、パンデミックによってその孤独感が強まっていることが明示された。なかでも深刻なのが16〜25歳の若者で、61%が孤独感の強まりを訴えた。その次に多かったのが母親で51%だった。このような数字を踏まえ、孤独感を「米国を襲う新たな伝染病」と表現している。そして孤独感の強まりは、「うつ病、不安症、心臓疾患、薬物乱用、家庭内暴力など、さまざまな身体的・精神的問題、ひいては早死に」につながるとしている。

*1 参照:Combatting an Epidemic of Loneliness(Harvard Graduate School of Education)

DEN_Loneliness epidemic_1
路上生活者の支援活動に精力的に取り組んでいたロシェル・ブローガン(60歳)。多くの人たちと関わる生活から一転、パンデミックでは家族にも会えず、深い孤独感にさいなまれたと語る。孤独感を和らげられればと、最近、子猫の里親になった。
Photos by Giles Clasen


また、こうした孤独感がやり場のない怒りへとかたちを変えている、それは日常的なやりとりでのイライラした口調から、ネット上で見られる激しい怒りの書き込みに現れている、と指摘するセラピストもいる。セラピストのアシュリー・マクハンは、時事チャンネル『VICE』のインタビューで、患者たちの中に、このやり場のない怒りにさらされている人が増えていると指摘。「やがて、私たちは疲れ切ってしまいます。何かしら変化が起きるか、状況の改善が見られないかぎり、ものごとに耐える能力もすり減り、対応できなくなるでしょう」と述べている*2。

2020年5月に著書『Detox your thoughts(思考デトックス)』を出版したセラピストのアンドレア・ボニールも「今は、慢性的に脅威にさらされている状態。あたりまえと思っていたごく小さな判断すらも、とても怖ろしく感じるのです。」「自粛を強いられ、したいことを思うようにできない閉塞感が続いているので、人々が怒りっぽくなっています」と、同様の見解を述べている*3。

*2 Ashley Mchan http://www.ashleymchan.com
 参照:Here’s Why Everyone Is Acting Like An Asshole Lately

*3 Andrea Bonior https://drandreabonior.com
 参照:What to Do If This Pandemic Is Making You Hate Literally Everyone

高騰を続ける住宅市場

デンバーでは、住宅価格は高騰するばかり。家を持つことが、多くの人にとって手が届かないものになっている。2015〜2019年までの世帯あたりの中間所得は6万8592ドル(約760万円)であるのに対し、デンバーの平均住居価格は60万ドル(約6630万円)を超えているのだ。そのため、他人と費用を分担しあって住宅を所有する「コミュニティ・リビング」の需要が高まっている。

最近、コミュニティ住宅への投資を決めたローラ・カウパースウェイトは、「定年後に住むところがない事態を避けるためです。自宅を子どもに譲るよりも、コミュニティ住宅に興味があります」と語る。デンバー市の不動産市場では、新しい住居スタイルへの需要が高まっているのを感じます、とも言った。

新しい「住まい方」の登場

コミュニティ・リビングと一口に言っても、賃貸タイプ*4 のものから、低所得層に対して非営利組織が助成金をもとに物件の所有・運営をおこなうものまで、さまざまな形態がある。

*4 一軒家、アパート、長屋、マンションなど形態はさまざま、オーナーは別のところに住んでいるケースが多い。生活環境の整備(ケーブルテレビやインターネットの種類、食料の保管庫、共用スペースの利用など)については、入居者の投票で決定される。

デンバーで最近話題となっているのが、家を所有することのあたらしいかたちを打ち出しているスタートアップ企業、コウ・オウン・カンパニー(The Co-Own Company)*5の取り組みだ。入居者は、建物を所有する企業の所有権株を購入し、「オーナー」になる。何年か住んだ後に退居する場合は、その株を市価で売却し、リターンを受け取るというもの。

2021年秋に入居が開始する物件は、景観豊かで、街へのアクセスも良い人気エリア、ヒルトップ地区に開発した24戸から成る住宅プロジェクト「ホーリー・ストリート・タウンホーム」だ。遮光性と防音性にすぐれたレンガ造りの外観。軽食が作れるコーヒー・バー完備のトイレ付き個室、共用のリビングスペース、ダイニングスペース、コワーキングスペース、キッチン、屋上デッキがある。共用の電気自動車や、太陽光発電など最新の環境に配慮したエネルギー設備、犬を飼えるスペースなど、充実した設備がある。(参考購入価格:約1600万円、賃貸の場合:家賃約17万円)

*5 The Co-Own Company

また、食事やお互いの生活サポートなど“共同生活”を中心とした集合住宅もある。2015年から運営されている「クイーンシティ・コラボラティブ」では現在、7人の大人と赤ちゃん1人が一緒に暮らし、“Facing the world together(世界にともに立ち向かおう)" をモットーに、食事はもちろんのこと、生活のさまざまなことを親密に助け合う協同生活をしている。

他人と費用を分担してでも仕事と生活を両立させる空間が必要

新型コロナウィルスによって、従来のオフィス勤務の文化が大転換したため、今後は、共同で住む形態がますます注目を集めるだろう、と世界経済フォーラム(WEF)の経済学者たちも指摘している。依然、若者層には都市部の不動産が人気だ。都市居住者は2050年までに70%にまで増えるだろうとの予想もある。そのため、世界各地の都市は、家で仕事がしやすい賃貸生活者のニーズに応えていく必要がある。「コミュニティ・リビング」のかたちが今後増えていくだろう。

「パンデミックで働き方が変わった人も多く、仕事と生活を両立させられる空間へのニーズが高まっています。この流れが衰える気配はありません」カウパーウェイトは言った。

By Giles Clasen and Robert Davis
Courtesy of Denver VOICE / INSP.ngo

あわせて読みたい
「異世代ホームシェア」。 ひとり暮らしの高齢者と、手頃な住居を求める人がハウスメイトになって語り合い、孤立を予防
高齢者の孤独死を防ぐ「多世代シェアハウス」。30年夫婦で住んでみたドイツ元州首相の感想

*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて


**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第6弾**


2021年6月4日(金)~2021年8月31日(火)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/06/19544/








過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。