第6次エネルギー基本計画(エネ基)の素案が公開された。これはエネルギー政策基本法(2002年)に基づき、日本のエネルギー需給に関する基本的な計画を定めるものだ。およそ3年ごとに見直しが行なわれ、今回は6回目の改訂となる。経済産業大臣がエネ基を定める時には、審議会の意見を聴くことが法定されており、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で審議されている。




国会の審議なく制定。脱炭素求める30代以下

 エネ基は閣議決定を経て国会に報告される。しかし、筆者はこれは日本の重要な政策であるから、国会で十分に議論するべきだと考えている。

 審議会委員の構成が産業界寄りであること自体に問題はあるが、それはさておき、審議の過程では原発の新増設を書き込むことを求める意見が声高だった。素案には電力供給に占める原発依存度を可能な限り低減すると書かれており、新増設には触れていない。

 素案が出されてからも、報道によれば経済4団体や自民党内から新増設を求める声があがっている。最終的にどうなるか危ういところだ。他方、審議中から国民の意見を受け付ける「意見箱」が設置されている。素案が公表された7月21日の段階では、485件の意見が寄せられており、原発からの撤退を支持する意見が254件に対して、新増設の支持は31件であった。また、30代以下の意見が約3割もあり、多くは脱炭素を求めるものだった。近年の温暖化と脱炭素化の流れの結果だと受けとれる。


再エネ率36%は達成可能。パブコメで意見を届けよう

 素案にみる2030年時点での電源構成の割合を表に示した(下図)。再生可能エネルギーの野心的な増加に対して困難だとの評価もあるが、できないわけではない。むしろこれまで原子力への過度な依存が再エネの進展を妨げてきた面がある。たとえば、電力会社が自社の原発の再稼働を前提として、再エネの受け入れを拒んでいるケースがあるのだ。他方、原子力の割合は前回と変わっていない。

414_genpatus


 この素案の達成を危ぶむ声もある。現行の太陽光発電がいまだ6%程度であることからすれば当然の危惧である。賛否が沸騰している原因の一つに、エネルギー需給に対して、従来とは異なるアプローチがされているからだ。それは、2030年時点での温室効果ガスの削減量の目標を46%と、菅義偉総理大臣が4月に行なわれた気候変動サミットで公約してきたことにある。第5次エネ基では2030年時点で26%の削減としていた(いずれも2013年度比)。これが再エネ進展などを考慮して積み上げた結果だとすれば、46%は2050年カーボンニュートラル(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)を達成するための中間地点としてこの程度になっているべきだとした数値である。

 そのような数値であることから達成困難といった批判も出され、第6次の電源構成は「野心的」な計画とも言われている。しかし、私たちや産業界がこれまで以上に省エネや再エネに積極的に取り組んでいけば、達成できる。

 また原子力については、新増設はないが、廃炉になっていない原発すべての再稼働を前提にしつつ、運転期間の60年への延長も前提となっている。非現実的な想定と言わざるをえない。無理をすれば事故の危険性がいっそう高まる。原子力依存度を可能なかぎり低減するという方針とも矛盾する。
 8月4日に最終素案が審議会で了承された。本誌が出る頃(9月1日)にはエネ基のパブリックコメントが実施されているだろう。原発からの撤退の声を政府に寄せてほしい。(伴 英幸)

経済産業省
第6次エネルギー基本計画策定に向けて御意見を募集します


414_H1_SNS_yokonaga


(2021年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 414号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/





**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第7弾**


2021年9月4日(土)~2021年11月30日(火)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/09/20562/













過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。