公園のベンチにただゆっくり座るのもいいが、もしこれから設置するなら、パズルなどの夢中になれる仕掛けを組み込むなど、子どもの主体性や注意力などを育む工夫を盛り込んではどうだろうか。学びを促進する遊び場のあり方を研究している米ペース大学心理学准教授ブレンナ・ハッシンガ―・ダスたちによる『The Conversation』寄稿記事を紹介しよう。

遊びと子どもの成長について研究している筆者は、公共空間(パブリックスペース)のあり方をどのように変えれば、子どもたちが学校の外で過ごす時間に楽しみながら学べる機会にできるだろうかに関心を持っている。2021年7月に学術誌『トレンズ・イン・コグニティブ・サイエンス』で発表した論文では、子どもたちが遊びながら学べる公共スペースを創造するため、専門家と地域社会の協力のあり方について解説した。

公共の遊び場が子どもたちの学びをサポートするには、新しい情報を最も効率よく吸収できるようにするという視点に基づき、6つの原則に沿って設計されなければならない。

この6つの原則とは、
・子どもたちの活動が自発的であり、受動的とならないこと。
・子どもたちの注意・関心を引きつけるものであること。
・子どもたちがすでに持っている経験や知識と関連させること。
・保護者や友達との社会的交流を促すこと。
・反復することで成長につながり、理解を深めるものであること。
・子どもたちが楽しめて、ポジティブな感情や驚きを生み出すものであること。
次に紹介する公共スペースプロジェクトは、実際にこれらの原則を取り入れた実例だ。最初の2つのプロジェクトに対しては、筆者たちが科学的知見から助言を行ない、こうした活動から非営利組織「Playful Learning Landscapes Action Network」の設立につながった*1。

*1 https://playfullearninglandscapes.com

バス停留所が楽しい学びの場に

フィラデルフィアのベルモント地区では、「アーバン・シンクスケーブ」プロジェクト*2によってバス停留所が楽しい学びの場となった。心理学者、建築家イータイ・パルティ(建築・デザイン事務所HUMEのディレクター)と地域住民による協力。地元住民や市の指導者、非営利組織がチームを組み、1965年にキング牧師が「今こそ自由を」と演説を行った場所を再設計した。

photo1 (2)
回転パズルは、子どもが空間能力を育み、物体間の関係性を理解するのに役立つ/Sahar Coston-Hardy Photography, CC BY-NC-ND

「ストーリーズ」は、本や太陽といったなじみのある模様が刻まれた木製のデッキで、登ることができる。子どもたちに自分たちだけの物語を創造し、語ってもらうのがねらいだ。「隠されたもの」は金属の構造物。中に果物など物体の輪郭や、さまざまな図形が隠されており、子どもたちの空間能力を育てる。地面に映った影を見ながら、家族一緒に形を探すこともできる。太陽の位置が変われば、影の形もまた変わっていく。「ジャンプする足」は、けんけんぱの遊びの一種で、注意力、記憶力、自制心といった「実行機能」の使用を促す。「パズル・ウォール」は4つのパズルからなり、地元の市民団体が選んだ重要な人物や出来事が描かれており、空間能力を育むことがねらいだ。

photo2 (1)
いろんなパターンでジャンプできる、新しいスタイルのけんけん遊び/Sahar Coston-Hardy
Photography, CC BY-NC-ND

地元住民たちに協力してもらい、このスペースを利用する大人や子どもたちを観察してもらったところ、設備の設置前と比べて、お互いに触れ合い、スペースでの遊びに熱中する子どもや保護者が増えたことが分かった。実際、数ブロック離れたところにある公園にいる人たちと同じレベルで遊んだり交流したりする姿が見られたという。

*2 URBAN THINKSCAPE http://urbanthinkscape.com



遊びと学びの図書館

フィラデルフィアには、児童図書館3館が「遊びと学びの空間(Play-and-Learn Spaces)」プロジェクトによって再設計された。非営利組織スタジオ・ルド、建築デザイン事務所ディグソーが設計を率い、スミス・メモリアル・プレイグラウンド&プレイハウスのサポートのもと進められた*3。まず最初に、図書館によく訪れる家族に、児童図書館にこんなものがあればという案を考えてもらった。

その意見を踏まえ、子どもたちは登るコースによっていろいろな言葉を作れるクライミングウォールが設けられた。また、大きなパズルのピースを動かして組み合わせられる腰掛けスペースもつくられた。壁にある磁石の文字を並べかえて、自由に物語をつくれるスペースもある。

photo3 (6)
フィラデルフィアのセシル・B・ムーア図書館には、ローマ字をあしらったクライミング用の壁がある/Halkin Mason, CC BY-NC-ND

利用者がどのようにスペースを使っているかを観察した研究者たちは、他の図書館利用者と比べて、単語を発する、つづりを言うなど、言語に関する会話が増えることを明らかにした。また、物が何かの上にある、または下にあるといった空間に関する会話も増えていた。さらに、ポジティブな感情、からだを使ったやりとりも増えていた。携帯電話やタブレットの使用時間は減っていた。

*3 スタジオ・ルド: https://www.studioludo.org ディグソー: http://www.digsau.com

家族で算数について話す機会を増やす「マストーク」の取り組み

マサチューセッツ州ケンブリッジのポート地区では、非営利組織マストーク*4と地域住民が協力し、歩道沿いに6つの遊び場を設計した。身のまわりにあるいろんなものの数を数える・測る、また、サイモンセッズ*5 のようなゲームができるような仕組みを取り入れている。また、いろんなジャンプやスキップをしながら計算や図形について学べる仕組みもある。

マストークでは地域住民を観察およびインタビューを行い、この遊び場でのアクティビティが算数に関する学びにいかに役立っているか報告書をまとめた。日常生活の中で算数に触れる機会を増やす成功事例を踏まえ、その後、図書館、病院など他の場所でもこの取り組みを展開させている。

*4 MathTalk https://math-talk.com

*5 英語圏の一般的な子ども遊び。サイモン役が「サイモンセッズ……」から始まる命令を発し、全員がそれに従う。「サイモンセッズ……」で始まらない命令に従ってしまった場合は失格となる。

6つの原則に基づいて、地域コミュニティと協力しながら、日常空間に家族で楽しみながら学べる遊び場をつくる。これらのプロジェクトがよいモデルケースとなろう。

著者

Brenna Hassinger-Das
Assistant Professor of Psychology, Pace University
Jennifer M. Zosh
Professor of Human Development & Family Studies, Pennsylvania State University
Kathy Hirsh-Pasek
Professor of Psychology, Temple University

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年9月9日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

上記の記事は『The Conversation』の記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて


**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第7弾**


2021年9月4日(土)~2021年11月30日(火)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/09/20562/








過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。