有限会社ビッグイシュー日本やNPO法人ビッグイシュー基金では、教育機関や各種団体などに出張して講義をさせていただくことがあります。

今回の行き先は大阪府立豊島高校。身近にある人権問題に関心をもち、自分の問題として考えるきっかけとする「テーマ別人権学習」の講師としてご依頼を受け、有限会社ビッグイシュー日本スタッフの吉田と、大阪・千里中央のビッグイシュー販売者である入沢さんが伺いました。

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事前のアンケートによると2/3の生徒さんが「ビッグイシューについて全く知らない」、そしてホームレスの人たちに対するイメージは「おおむねネガティブ」。そんな生徒さんたちに向け、今回はこんな話から始めました。

どうしてホームレスになるのか?

実際のビッグイシューの販売者の例として、営業職で支店長代理まで務めていたNさんのケースを紹介。親の介護で離職したNさんが介護を終えた時には、年齢や景気が原因で再就職がかなわず、頼れる人もなく路上生活になってしまいました。

Nさんのような介護離職だけでなく、多くの人が派遣切り、リストラ、倒産、災害、病気・ケガなどが原因で仕事やお金や住まいを失っています。そしていったん路上に出てしまうと自力で住所や仕事を得るのはたいへん難しいのです。

これは「個人」の問題というより、「社会の仕組み」の問題です。
憲法で定められている「人権」ですが、その権利は社会的弱者から侵害されやすいことなどについても触れ、ホームレス問題の解決に必要なことは何かを一緒に考えました。

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“ホームレス”は、「状態」をあらわす言葉、社会的弱者の権利を守るとは?

“ホームレス”という言葉は、たとえば“賃貸暮らし”と同様「状態」をあらわすものに過ぎず、本人の意欲や人となりには関係がありません。

現在の社会の仕組みでは、「住所」がないことにより、住まいや仕事を得るハードルが非常に高くなっているため、路上生活となるような社会的弱者であっても、住まいや仕事を得られる「仕組み」が必要です。

そのため、ビッグイシューが「ホームレスの人がいつでもできる仕事」として、ビッグイシュー日本が雑誌の路上販売の仕事を用意していること、また、生活や健康の支援をする団体としてビッグイシュー基金がサポートしていると説明しました。

正社員からリストラ、実家を出て…。入沢さんの話

吉田の話の後には、大阪・千里中央で販売している入沢さんの体験談。

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神奈川県綾瀬市出身の入沢さんは、大手電機メーカーの子会社に正社員として入社。上司や先輩に恵まれ、職場環境は大変よかったのですが、会社が赤字になり2年半後にリストラに遭ってしまいます。

その後就職活動をするも、思うように仕事は見つからず。やっと見つけた短期の派遣の仕事では、いきなり「明日から来なくていい」といわれてしまうことも。同居していた親からは「バイトではだめだ、正社員になれ」と迫られ、だんだん実家に居づらくなり、ある時ささいなケンカがきっかけで家を出てしまいました。

そのときの所持金は10万円。「やばい」「自分は(社会に)必要ない」と感じつつ、自暴自棄でいろいろな場所を転々とするうちに、ついに手持ちのお金が尽きてきました。100均でブルーシートを購入し、代々木公園でベンチの上でシートにくるまって眠ったのが初めての野宿体験だったと語ります。

しばらくして、他のホームレスの人に声をかけられ、ビッグイシューを紹介されました。 その後コツコツビッグイシューの販売でお金を貯め、アパートに入居することができました。今は中古のパソコンを購入し、情報収集しているとのこと。

*参考:入沢さんの一日


そんな入沢さんに、生徒からざっくばらんな質問がありました。

Q:「家出して以降、服はどうしていましたか?」

「1週間くらい同じ服を着ていました。汚れたらコインランドリーで洗っていました。」 (後になって多少の着替えを持っていたのを思い出したようです)

※ホームレスでいることにより、家のある人と比べて割高になることのひとつに「衣服」があります。しまっておくスペースもなければ洗濯機もないからです。そのため、ビッグイシューでは、寄付いただいた服を希望者にお譲りすることがあります。
https://bigissue-online.jp/archives/1061862529.html


Q:今住んでいる家に入るまでのプロセスは?

「ビッグイシュー基金が提供している『ステップハウス』を利用しました*。その後、なかなかアパート入居するための初期費用を捻出するのがたいへんだったのですが、コロナ禍で生活が苦しくなった人が家を借りるときの初期費用を助成してくれるプログラム『おうちプロジェクト』を利用しました。それで今はトイレとお風呂がついた1Kのアパートに住むことができました。」

※ステップハウス 
低家賃で、次のステップへの資金も積み立てられる。

Q:髪の毛はどこでカットしてる?

「今は安めの床屋さんでやってもらっています。」

※ビッグイシューでは、散髪をしてくださるボランティアの方に来ていただくこともあります。
「ホームレス状態で困ること」例5つ&その解決をサポートするボランティアの人々


高校生へのメッセージ:「親孝行できる状態なら、ぜひ親を大事にしてほしい」

ささいなケンカが原因で実家を出てしまった入沢さんですが、その後父親が脳卒中で倒れてしまったそう。
父親は母親を識別できなくなってしまったそうですが、お見舞いに行った入沢さんには「来てくれたんか」と声を振り絞ったのを見て「こんなに心配させてしまったのか」と強く後悔。そのまま父親は帰らぬ人となってしまった。

「自分は親不孝してしまったと後悔している。いろいろ家庭の事情もあると思いますが、もし皆さんが親孝行できる状態なら、ぜひ親を大事にしてほしい。」と話すと、生徒の皆さんからはそれぞれの親を浮かべたような拍手が起こりました。

先生がビッグイシューに講演を依頼された理由と期待

今回の講演会を企画してくださったのは豊島高校の増田先生と長(おさ)先生。

増田先生が今回の講師としてビッグイシューを選んでくださった理由は、「“ホームレス問題”について無知でいることで、生徒が加害者になってしまう可能性がある」と感じたからだそう。

ホームレス問題について知ることで、「資本主義社会の矛盾と、矛盾の中に自分たちが置かれていることに気づくことができるのでは」との期待を持ち、現代社会や政治・経済の教科書や資料集にも取り上げられているビッグイシューの活動なら信頼がおけるうえ、生徒も街中で販売者を目にすることがあるから、と話してくださいました。

長先生は、「事前授業の時に、ホームレスの人たちについて印象を聞いてみると、“汚い” “髭や髪がボーボー”など、表面的な回答しか出て来ませんでした。資料映像を見て少し議論の時間も持ってみたのですが、あまり深い議論には至りませんでした。

しかし、講演当日はホームレス問題を個人の問題ではなく社会の問題として捉えられるように話してくださった。それで話が進むにつれ、自分たちにも関係のある問題であることを認識したのか、真剣な表情の生徒が増えたように感じました。

講演の内容をまとめた発表の時間では、ホームレス問題を社会の問題とした発表を行っていたので、生徒たちの捉え方は確実に変化したと感じています。」とお話ししてくださいました。


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 








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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。