女子が女子少年院に入る理由と、出た後のこと-矯正施設スタディツアー見学レポート

 “女子少年院に入る女子”というと、あなたはどんなイメージを持つだろうか。

ひと昔前の「不良少年・不良少女」を題材にした漫画に出てくる「自分の言いたいことを主張する、素行の悪い少女たち」を想像する人も多いかもしれない。大人になってから「私も昔はワルやっててさ…」と振り返るようなイメージだ。

しかしそのイメージは、実際に「女子少年院」を見学してみると変わるだろう。
今回は大阪府交野市にある「交野女子学院」を見学したレポートをお届けする。


 ※この見学は、「働きたいけど働けない」若者が「働く」機会を得て、「働き続けられる」よう支援を行う「認定NPO法人育て上げネット」が主催する「矯正施設スタディツアー」および、「社会的な支援が届かない人々」が罪を犯し、出所後の「社会的受け皿がない」ことで犯罪を繰り返す実態の改善を目指す「よりそいネット」の研修ツアーにより実現しました。

京阪郡津駅から徒歩で20分ほどの場所にある交野女子学院。正門から緩い坂道を上がる途中で、野菜を作る畑が見える。
事情を知らない人が見ると、全寮制の女子校のような雰囲気だ。
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女子少年院に入る理由は「窃盗」「傷害」「薬物」「虞犯*」など

交野女子学院には、近畿地方と中部地方の家庭裁判所で”保護処分”が適当と審判された14歳から20歳までの女子少年のうち、処遇上必要のあるケースの女子少年が送致されてくる。

少子化の影響で、少年院送致される少年・少女の数は全国的に見ても減少傾向にあるそうで、最大収容人数が91名の交野女子学院も、現在は収容人数の半分以下の30名ほどの女子少年が収容されているとのことだった。

ここに来ることになった理由は、4割弱ほどが「窃盗」。2割が「傷害」、「薬物」や「虞犯(ぐはん)」(*)がそれぞれ1割、その他横領、住居侵入など。

*虞犯(ぐはん):将来罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれがある状態。女子の場合は売春、家出なども含まれる。

少年院送致される少年・少女の数が減少傾向にあるからといって、問題行動の内容に変化がなかったり、マイルドになったりしているというわけではない。最近の女子少年の起こす傷害は、リンチやタイマンなど、男子少年の起こす傷害と同じくらいに凶暴性の高いものもあるという。

そして「薬物」(覚せい剤)の使用での収容も増加傾向にある。少年や成人男性の薬物使用と異なる点としては、売人から購入して手に入れるのは稀で、男性と付き合う間に薬物を打たれてしまうなど、異性との交遊が密接に絡んでいることが多い。

母親との相互依存関係、家族からの虐待などにより、自己肯定感が著しく低かったりする女子少年も多い。希死念慮、自傷行為、摂食障害などの問題を抱えて入所する女子少年も少なくない。

かつては「反社会」的な少女が送致されてきていたのが、「非社会」的(社会とのつながりがない、他者とコミュニケーションが少ない)女子少年が増えてきているそうだ。記事冒頭にお伝えした「自分の言いたいことを主張する、素行の悪い少女たち」ではなく、「自分の言いたいことを表現しない・できない少女たち」という印象である。

ふとしたきっかけで誰ともコミュニケーションを絶ってしまうなど、職員が女子少年に接する際には、一人ひとりの対応にかなりの注意と配慮が必要だという。

また、男子の場合は比較的数が多いため、発達上支援の必要な少年が送致される少年院はある程度決められているが、女子少年院は全国に9施設しかないため、支援が必要な女子少年もそうでない女子少年も、一緒に送致されてくる。

施設関係者には、家庭環境などに問題があり、適切な教育を受けられなかった女子少年たちへの根気強い伴走だけでなく、幅広い発達に関する知識やノウハウ等も求められている。

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交野女子学院の職員の説明を聞くツアー参加者たち

入院時の年齢は15歳~19歳。一度入院したときの教育期間は11カ月が目安

入院時の年齢は15歳~19歳。構成比は
15歳 13%
16歳 20%
17歳 29%
18歳 19%
19歳 16%

となっており、以前は16~17歳が7割と若年が多くを占めていたのが、最近は成年に近い女子少年が増えている。施設職員によると、かつては「大人になるまでに悪いことは辞める」「適当な年齢で足を洗う」といった風潮があったが、そういった価値観がなくなり、成熟度が低くなっている傾向にあるのではないかということだった。

矯正施設になじみのない方にとっては、少年院は刑務所の少年版と考えているかもしれないが、刑務所が入所する期間は罪により人それぞれなのに対し、少年院はあくまで矯正のための教育施設なので、一度入ると出るまでには1年弱という単位がほとんどである。

交野女子学院の場合は11カ月という単位がベースとなる。

入院から出院までの流れは、3級から始まり1級を迎えると審査があり、出院となる。3級は「自己の問題改善への意欲の喚起を図る指導」として約2カ月、2級は「問題改善への具体的指導」として、職業指導なども含めた教育がなされるのが約6カ月、1級は社会生活への円滑な移行を図る指導として3ヶ月を過ごす。

問題行動を起こすことなく優良な成績で過ごしていれば各級の期間が短くなることもあるが、逆に問題行動があったり、社会生活への移行が懸念されたりする場合などは延長されることもある。

女子少年院でのある一日の生活-「社会に移行するのに必要なスキルを身につける時間」

交野女子学院の少年たちは、平日は下記のように過ごす。
男子の少年院と比べて、時間割はさほど変わらないが、職業訓練の内容に介護福祉や手芸、体育授業の中にエアロビクスのメニューがあることなどが、ぱっとプログラムを見てわかる少年院との違いだ。
(一般的な例)
7:00 起床、洗面、清掃
7:30 朝食
9:00 朝礼・運動
9:30 職業指導、教科指導
12:00 昼食、余暇時間
13:00 生活指導(特定指導課、社会適応訓練講座、被害者講座、集会、進路講話)、体育指導
16:00 洗濯・入浴
17:00 夕食・休憩
18:00 課題学習・余暇時間・日記記入等
21:00 就寝
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4人部屋の例(写真は浪速少年院のものだが、おおむね同じ造り)

生活指導は、薬物、家庭、交友関係、暴力など、本人が送致される原因となった問題別のクラス編成で、薬物非行防止指導・社会適応訓練や、親子ワークショップ、性教育など、一人ひとりが出院した後に再犯をしないために必要となる知識や行いについて学んでいく。

たとえば被害者心情理解のために、被害者の等身大のパネルと写真、遺品や遺族からのメッセージを展示し、被害者や遺族の気持ちを学ぶ「生命のメッセージ展」を開催するなどしている。
参考リンク:いのちのミュージアム

また、男子の少年院が職業訓練にかなり力を入れているのに対して、女子少年院では「マインドフルネス」(自分の身体や気持ちに気づく力を育む手法)や自分も相手も大切にする自己表現法を学ぶ「アサーショントレーニング」など、心の在り方や対人スキルについての教育にも多くの時間が割かれているように見受けられた。

男子年院を出た少年たちも、出所後の就職に苦労するケースが多いと聞くが、それがさらに女子少年であるとどうなるかを想像してほしい。少年院入所経験がない女性でも正社員率が低く、低賃金の傾向がある日本社会においては、仕事で自立していくのは相当に厳しいと考えられる。そこで職業訓練と同じくらい「対人コミュニケーション」を磨いておく必然性が出てくるのであろう。

「プログラミングなど、これからの社会のニーズに合わせた職業訓練はできないのか」と感じる方もいるかもしれない。前回の浪速少年院の見学ツアーの時にも触れたことだが、「中卒程度の教育レベルの女子少年たちでも、11カ月以内に習得できる教育であることが条件」となると、難易度が高すぎるものは適切でない。また、各科の技能を教えるのは、法務省の公務員である。
数年ごとに他の少年院等への異動があるなかで、少年・少女たちの矯正教育に心を砕きつつ、時代のニーズに合ったスキルのキャッチアップと、その職能を教えるスキルを常にアップデートしていくというのは、かなり困難であると思われる。

現場とニーズのギャップを埋めることはどの教育機関においても悩ましいところだと思うが、この問題は少年院だけでなく、他の機関や団体とも連携し、考えていきたいところだ。

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施設にあしらわれた「毛糸玉」のモチーフ「おりふしのうた」。
四季折々の母の仕事を毛糸玉や縫い糸で表現し、やがて母となる少女たちの幸せを願って描いたものである。昭和56年3月 作者:田中茂生(行動美術協会会員)

再犯防止に必要なものとは

施設職員は再犯防止に必要なものとして次の3点を挙げる。
・居場所の確保(安心、安全の確保)
・責任の自覚 (自分、家族、社会とのつながりを考える)
・出番の提供(才能の発見と活用)

責任や出番に気づくには、安心・安全な居場所が土台となる。少年院を出たあとは家族のもとに帰るのが理想的なのだが、家族のもとに帰すことが安心・安全でないケースも多い。実親が子離れできておらず、虐待や犯罪に巻き込まれてしまったり、家族による性的虐待に遭ったりするケースも少なくないというのだ。

少年であれば家庭に問題がある場合、家庭以外の場所で仕事に就くケースもある。しかし女子少年の場合は、少年院を出た女子が住み込みで安定して働ける場所が絶対的に少ないのである。そうした女子少年たちの受け皿となるのが性風俗産業となっているのが実情だという。

「家庭環境のせいにするな」「性風俗でなくても頑張っている女性もいる」という声もあるかもしれないが、親に依存・虐待・レイプされ、そんな家を離れたくても仕事に就きづらく、男性と付き合うと薬物依存症にさせられてしまうような環境にある女子少年たちにこれ以上いったい何を求めようというのか。

職員いわく、身元引受人が一人で責任を背負うのではなく、地域のなかで「職場のこと」「生活のこと」「その他困りごと」を相談できる場があり、それぞれ連携して本人をサポートすることが再犯防止につながりやすいのではないかということであった。

大阪の場合、今回の見学ツアーの主催団体のひとつである「よりそいネット」のように、受刑者・矯正施設を出た人々をサポートする団体もある。
http://yorisoi-osaka.jp/

東京・埼玉・神奈川・大阪などで無業の若者を支援する「育て上げネット」も心強い。
https://www.sodateage.net/

各地域で活動する上記のような団体に、人々の関心や、支援の人手が届くことが望まれる。

少年院・女子少年院は見学できる

少年院・女子少年院は見学可能なので、興味のある方は下記から各少年院に問い合わせてみてほしい。

法務省 全国の矯正管区・矯正施設・矯正研修所一覧
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse16-04.html

認定NPO法人育て上げネット
https://www.sodateage.net/

市民に開かれた「矯正展」

また、全国の刑事施設(刑務所等)では、刑法に定める所定の作業として改善更正生を目的とした刑務作業を実施している。
「矯正展」では刑務作業の現状と重要性を広く周知するため、刑務作業の広報、刑務所作業製品の展示・即売のほか、少年院や少年鑑別所の広報も行っている。

法務省:矯正局の「その他 お知らせ」で各地の矯正展の開催スケジュールがわかる。
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_index.html

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