NPO法人ビッグイシュー基金では、ホームレスの当事者が中心の実行委員会とともに、例年この時期にホームレス当事者や読者、スタッフなど200人ほどで、大阪市中央公会堂に集まり、様々な出し物や食事を楽しむクリスマスパーティを開催している。しかしコロナ禍により昨年は中止。今年は初のオンライン開催となった。


本来であれば顔を合わせておいしい料理や交流を楽しみたいところだが、オンライン開催になったからには、対面ではできないことにチャレンジしたい。
そこで今回、北は北海道、南は九州まで販売拠点がある雑誌『ビッグイシュー日本版』の販売者や関係者と読者・支援者がオンラインで繋がる形となった。

有限会社ビッグイシュー日本には、東京・大阪に事務所があり、そこで販売者への雑誌の卸を行っている。それ以外の全国の販売者へは、ボランタリーな関わりの「サポーターズ」の皆さんによる販売者のサポートや雑誌の卸しなどによって様々な地域でのビッグイシュー販売が実現している。全国の販売者や関係者、そして読者が繋がる企画は初めてということもあり、実行委員の販売者やスタッフは企画や準備・進行に駆け回った。

熊本から札幌までのビッグイシューリレートーク

熊本:「常連の皆さんのおかげで頑張れた」

リレートークのトップバッターは熊本の販売者中西さんと、彼を支える「ビッグイシューくまもとチーム」の皆さん。九州で唯一の販売者、中西さんは7年前から販売者として「びぷれす熊日会館前」で販売をしている。

01

「コロナで人通りは減ってしまったが、常連さんが買いに来てくださったので、なんとか2年間頑張ってくることができた。来年はさらに飛躍の年にしたい。若い人にもビッグイシューを買っていただけるように努力したい」と話した。
びぷれす熊日会館前の販売場所
「ビッグイシューくまもとチーム」

参考記事
「続けること」が、まだ見ぬ誰かの役に立てる/ビッグイシューくまもとチーム代表、中村さん
※肩書き等は、記事執筆時点のものです


大阪:「スーパーのレジが機械化され、両替すら難しい時代が悲しい」

大阪からは、肥後橋の販売者、Sさんが最近の想いを語った。

02

販売中に50円玉が足りなくなり、これまで両替ができていたお店で「機械で自動的にお釣りが出るようになったので無理」と断られるようになってしまったという。
「経営者から見たら、効率、利便性、コストといいことなんだろうけれど、そればかりを求めてしまっている。両替ができなくても生きてはいけるけど、“両替すらできない”ということが悲しく感じた」と訴えた。
肥後橋の販売場所

名古屋:「名古屋に来たら寄ってください」

名古屋は販売者2人と卒業生、「ビッグイシュー名古屋ネット」の皆さんが登場。 卒業生である佐藤さんが営む「50円おにぎり食堂」から接続した。

名古屋写真

コロナ禍で人通りが減り、苦労した2人だったが、「がんばっていきます」「様子を見ながらやっていきます」と前向きなコメント。そして卒業生である佐藤さんは「ビッグイシューを販売して1年半でアパートに入居できました。その後アルバイトなどをして、おにぎり食堂の運営をさせていただいています。お店は、誰でも入れる地域のコミュニティ食堂になりつつあると感じています。名古屋にお越しの際はいらしてください」と話した。
JRゲートタワー(旧松坂屋)前の販売場所
三越久屋南口ポスト付近の販売場所

50円おにぎり食堂
ビッグイシュー名古屋ネット

金沢:「ビッグイシューの卒業後もつながりがある」

金沢の小坂さんは、ビッグイシュー販売を卒業し今はアパートに入居している。
このエリアでは唯一の販売者だったため、卒業後もビッグイシューを定期購読したいというお客さんにはサポーターとして配達を続けているそう。また定期購読してくださっていた病院から声をかけてもらい、福祉車両の送迎の有償ボランティアをするなど、ビッグイシュー販売を通して知り合った人たちと繋がりが続いているという。「雪も雷も厳しいけれど、来年も病気もなく生きていけたら」と話した。

仙台:「かなり厳しい状況。支援があってなんとか続けている」

「仙台ビッグイシュー・ソサイエティ」は2005年7月に発足し、販売者もサポートメンバーもほとんどその頃から変わらず関係が続いている。

東北の玄関口のハピナ名掛丁商店街アーケード付近で販売する橋本さんは「コロナでさんざんな一年でしたが、ビッグイシュー日本からの支援、応援でやって来れました。一日も早くコロナが収束してほしい。」と話し、クリスロード・イオン仙台店付近で販売する鈴木さんも、「コロナ禍の影響で一日に1冊売れるかどうかという日もありました。販売者を辞めようかとも思いましたが、だんだんイベントも再開されてきているので、数多く足を運んで(販売して)いきたいと思っています」と語った。
ハピナ名掛丁入口の販売場所
クリスロード・イオン仙台店付近の販売場所

札幌「販売拠点の一つが緊急事態宣言で販売できなくなった」

最後は北海道。「ビッグイシューさっぽろ」の事務局長平田さんよりビデオメッセージが届いた。

03

「コロナの影響で厳しい状況が続いていました。
札幌で一番よく売れる場所は地下歩行空間という、地下歩道でブースを設け、案内業務をしながら販売する場所。ここは公共施設扱いなので、緊急事態宣言に合わせて70日間、クローズしないといけませんでした。そこの販売者さんの売り上げのダメージが大きかったです。
やっと最近復活してきましたが、他の路上販売の販売者さんも、人通りが減って売れなくなりました。もう来年もコロナが今年みたいな状況にならないといいなと願っています。
札幌としてはまだビッグイシューが知られていないので、ボランティアとしてはもっと多くの人に知っていただく活動をしていきたいと思っています。
来年の希望としては販売者さんが、高齢化してきているので、3人の販売者が健康で来年も続けてくれたらいいなと思っています。
全国の皆さん、札幌は長い冬が始まりました。寒い季節になったのでお元気でお過ごしください」と語った。
ビッグイシューさっぽろ

参考記事:
  「フツーの主婦」が「ビッグイシューさっぽろ」の事務局長になったワケ-それぞれの心に充填されていく「弾丸」


クリスマスパーティの売り上げは、「炊き出し」に並ぶ人達へのプレゼントに

今回のオンラインイベントの参加費は、「扇町公園炊き出しの会」と「大阪北教会」による2つの炊き出し会場に並ぶ人たちへのクリスマスプレゼント*に充てさせていただいた。
*プレゼントの内容はマスク・手袋・カイロ・アメニティセット・お風呂セット(銭湯の入浴券つき)と飲み物・食べ物。2会場で123人に配布した。

今回のオンラインイベントでは、2つの炊き出し会場でのプレゼント配布の様子や、炊き出しを運営する「扇町公園炊き出しの会」の代表石黒さんと「大阪北教会」の牧師の森田さんへのインタビュー動画を紹介。

「扇町公園炊き出しの会」の代表石黒さんは、妻子を病気で亡くした経験から、「二人を助けられなかった分、路上で亡くなる人をなくしたい」との想いで20年前から炊き出しや寝袋配布にかかわるようになった。扇町では毎週月曜に50人から70人におにぎりなどの食料や服を配っている。

04

来年で炊き出しを開始して丸20年になるという「大阪北教会」の牧師の森田さんにもお話を伺った。 いまは第1・第3水曜日に炊き出しを実施。現在毎回70食くらいを作って配布している。
最初は全部自前でやっていたが、いまでは様々な方から支援をいただけるので、自分たちとしては勤労奉仕をさせてもらっています、と語った。

05

各団体への応援は随時受け付けている。
扇町公園炊き出しの会
「大阪駅前炊き出しと掃除の会」※旧名称です
三井住友銀行 御堂筋支店 普通口座 7668540
郵便振替口座 00900-7-91995

日本キリスト教会 大阪北教会
郵便振替口座 00900-7-278939
(炊き出し専用)日本キリスト教会大阪北教会
TEL:06-6441-4466
炊き出し情報(ビッグイシュー基金のホームページ)
大阪の炊き出し情報
東京の炊き出し情報

販売者の得意技を披露するコーナーも

また、一昨年までと同様、今回のオンラインクリスマスパーティでも、それぞれの販売者が得意技を披露するコーナーが設けられた。

・「歩こう会」の中継
2007年から通算124回となる「歩こう会」を主宰している梅田の販売者、濱田さんによる難波から大阪までの「歩こう会」の様子を実況中継。

06


・書道ライブ
かな書道師範の資格を持つ淀屋橋の販売者、松井さんがオンラインライブパフォーマンスとして書道を披露。

07


・オリジナル講談
2019年7月に結成された「ビッグイシュー講談部」は、四代目・玉田玉秀斎さんの指導のもと研鑽を積み、メンバーは「玉玉亭」の亭号と、それぞれの名前をいただいて高座に上がっている。
今回は玉玉亭壱秀(いっしゅう)の亭号を持つ生駒の販売者・吉富さんが、オリジナル講談をお披露目。

08


全国の販売者と読者が交流―「一人ひとりが灯りを持ち寄り社会は明るくなる」

歓談タイムは「ブレイクアウトルーム」を使い、5~6人のグループに分かれ全国の販売者や関係者、読者が交流した。遠方の読者などクリスマスパーティ初参加の方も多く、 「午後の時間のオンライン開催は、参加可能で嬉しかった」「コロナの中、何もできないのではなく『何ができるか』という企画を考えていただきありがとうございました。普段交流のない地域の状況も教えていただき、輪が広がりました。」と好評だった。

最後に、ビッグイシュー基金共同代表稲葉剛が挨拶。

「コロナ禍が長期化し、暗い中を歩いているような日々が続いているが、人間の社会は急に照明がつくようには明るくはならないものだと思う。

小さなろうそくを持ち寄る人が一人ひとり増えていくことによって、気が付いたら明るくなっているのだと思う。
この場に参加されてる方は明かりを持った方だと思っています。
この一つひとつのろうそくの火を消すことなく、仲間を一人ひとり増やしていけたらと思っています。ご参加ありがとうございました。」

09


年末年始、全国の都市で路上生活されている方、困窮されている方の食料支援や相談会といった支援活動が行われる。ビッグイシュー基金・ビッグイシュー日本では、各地の支援団体と連携して、当事者が安全に、温かく年を越せるよう活動を続けていく。

ビッグイシュー基金
https://bigissue.or.jp/
ビッグイシュー日本
https://www.bigissue.jp/





過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。