目が不自由な人のための音声・点字版など、「障害者向けの水害ハザードマップ」を作成している自治体は、国土交通省の調査に応じた1591自治体のうち、2.6%にとどまることが判明した*1。平時に障害者の存在が想定されていないのなら、有事に障害者が取り残されてしまうであろうことは目に見えている。

※以下は2022/01/27に公開した記事を加筆・修正した記事です。
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RAEng_Publications/Pixabay

*1 参照:障害に対応した水害ハザードマップ に関するアンケート調査結果(国土交通省)

災害時の避難に際して、障害者は他者の支援を必要とする人が少なくないのは確かだ。しかし、ただ要救助・要介護者としてみなすのではなく、障害のある人々の関与を増やし、もっと能動的かつ有意義な役割を担ってもらうことはできないだろうか。

現地の障害者組織が活躍した東ティモールの事例

国際的な人道支援組織(特に発展途上国での災害時は、救助活動において大きな役割を果たす)と現地の障害者組織(DPO: Disabled People’s Organization)が連携を深め、障害者の存在に光を当てた東ティモール*2での実践事例を紹介しよう。

*2 インドネシア東部に位置するティモール島の東部に位置する国。人口は約120万人。

東ティモールを代表する障害者組織「RHTO(Ra'es Hadomi Timor Oan)」では、2018年より国際支援団体オックスファムと連携し、障害者ニーズも想定した災害リスク低減に取り組んでいる*3。そして、2020年3月に国内の最大都市ディリで起きた洪水が、政府主導の災害対応に障害者組織が積極関与した最初の事例となった。

*3 オーストラリア政府によるオーストラリア人道パートナーシップの地域プログラム「Disaster READY 」の一環としての取り組み。

RHTOは、政府による実態調査や災害対応の支援、ならびに被災した障害者の特定作業を担った。災害後には、障害者が取りこぼされない災害調査や災害対応について意見書を提出した。さらに、障害者の住宅再建にあたっての助言も行った。当初は、政府側も障害者組織側も連携に不安を感じていたようだが、オックスファムの支援もあって、双方ともに学びを得られ、この経験が、障害者の存在を前提とした「インクルーシブな災害対応」の基盤となった。

2021年4月4日、東ティモールはサイクロン「セロジャ」に襲われ、国内のすべての自治体が豪雨による地滑りや鉄砲水の被害を受けた。死者は32名、3万を超える世帯が被災した。しかし、政府や開発支援組織との関係性が構築されていたおかげで、RHTOの職員やボランティアスタッフ(全員が障害を持つ当事者)は、洪水発生から数時間のうちに、障害者の避難、実態調査などの支援を開始させ、避難所の使いやすさのモニタリング、物資の配布、政府調査への障害者の積極参加などをサポートした。

政府も、障害者を“特定のニーズを持つ人々”であると同時に、“災害対応の実践者”とみなした。例えば、RHTOからの要求に応えて、オーストラリア政府からの支援金の一部を、障害者向けの支援物資の購入に充てたため、RHTOは、他の国際機関や他国政府に先駆けて、障害者向けの物資を配布することができた。

障害者に関する正確なデータ不足と構造的要因

災害時に障害者が取り残されるリスクが高くなる原因には、「障害者に関するデータが不十分」であることも関係している。障害者ならではのニーズや能力をしっかりと把握した上で、計画的な活動ができていないのだ。「インクルーシブな防災活動」を推進するには、まず信頼できるデータ収集が必須となる。

しかし、とくに発展途上国では、文化的要因も災いして、障害者の存在が地域社会の中で「隠されて」しまうことも少なくない。国勢調査など国家レベルの調査でも、障害者の実態把握が難しく、災害対応に必要となるデータも古かったり信頼性に欠けがちだ。

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TilenHrovatic/Pixabay

東ティモールの災害後の調査においても、「洪水被害を受けた住民の約6.7%が障害者だった」とされている(東ティモール国民保護省発表のデータより)が、障害者調査の標準手法「ワシントングループの質問群*4」を使用していたわけではないため、そのデータも正確とは言い切れない。

*4 参照:Washington Group on Disability Statistics

さらに、障害者が災害の悪影響を受けやすいのには、多くの構造的要因も関わっている。障害者の貧困率はおおむね高く、実際、東ティモールでも災害リスクの高い場所ーー地滑りが起こりやすい丘陵地や川の近くなどーーに住んでいるケースが多い。

よりインクルーシブな災害対応に向けて

東ティモールでの事例からは、政府や人道支援組織が、災害発生前から地域の障害者組織と連携し、しっかりと関係性を築いておくことで、より「インクルーシブな災害対応」が展開できる可能性が示された。こうした活動実績を積むことで、障害者に対する社会的偏見の打破にもつなげていけるはずだ。

By Thushara Dibley, Aaron Opdyke, Amanda Howard and Pradytia Putri Pertiwi
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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Photo by Shefali Lincoln on Unsplash

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