若者支援は職業として確立されていない。(白水崇真子)


『若者政策提案書』
より、若者支援を15年以上行っている一般社団法人キャリアブリッジ代表理事である白水崇真子さんによる、リアルな若者支援の現場の悩みについてです。

若者支援の現場から

若者支援の現場で働いて15年になる。現在、義務教育年齢を超えた若者に公的に認められた支援はほぼ「就労支援」に限定されている。その結果、出会う若者の主流は25~30歳となる。現場ではいつも「学齢期に適切なケアがあれば、こんなに苦しまずに済んだのでは?」と思う。彼らの困難は10代から始まり、放置され、2次障害的に困難を多重化させることが多いからだ。長期化するほど成長・発達・自立への困難さは増す。支援業界では「ひきこもり」からの立ち直りは、その期間の倍はかかると言われる。その期間、経済的に支えられる「家」は貧困の拡大と共に減っている。

若者には安心して相談でき、困難にいち早く気づき解決まで伴走してくれる、多様な若者支援を経験した「人」と「場」が不可欠である。同時に、支援する人(側)にとって必要なのは、継続して若者とつながり続ける「場」と、多様な若者と向き合い、社会資源をつなぐ時間と能力を培うために、継続して経験を積める「環境」なのである。

若者支援業界の苦悩~事業の3要素:ひと・場所・金が継続できない弊害~

私は若者支援業を生業にする団体を経営しているが、単年度事業で人材を育てること、特に20~30代を支援の専門家として採用確保し、教育訓練する難しさを痛感している。

現在、若者支援業は職業としては確立していない。障害者や高齢者、医療などの業界なら法的支援が確立し、公的資金投入があるため、そこに従事する福祉職は職業として安定し、高収入も望めるため進路として人気が高い。例えば臨床心理士など専門教育を受けた大学院卒者たちは、無資格の間は若者支援にも来てくれるが、資格試験に合格すると「収入」と「キャリア」を理由に福祉業界へと転職してしまう。

職業として認知されないため、大学などの教育機関に「若者支援職養成」科目もなく、若者支援の歴史も浅いため、未経験者を採用することが多くなる。対人援助最大の資産は人材であるが、教育機会は団体内のOJTのみという結果になる。しかし単年度契約の継続雇用保障がない職場で、労働者はキャリアアップを望むだろうか。経営者は、引き続き雇用できるかわからないスタッフの教育訓練に時間と費用を投入できるだろうか。しかも、若者支援の委託事業は、職員の教育研修費をほとんど計上できない現状にある。受託団体が利益を生むような有料事業を並行するのは望ましくないとされ、教育研修費の捻出だけでなく、継続雇用、安定経営には何重もの困難が付きまとう。もちろん、若者の非正規化、貧困化が進む中、無業の若者に個人負担を要求するのは無理な話だ。このように業界には、「ひと・場所・金」を継続・発展させる条件は未整備である。

ユースパーソナルサポーター=恒久的に必要な職業としての認知と確立のための制度・根拠法を!

若者たちの支援現場を継続できないことは、「状態の不安定さ」への対応を困難にし、課題の解決を遅らせ、成長自立の機会を奪うことになりかねない。不登校が常態化する前、ひきこもって無業状態が固定化する前、離職してすぐのタイミングならば、課題の解決も早く本人の負担も減ることはわかっているのだ。そのためには、適切なケアを提供できる熟練した「ユースパーソナルサポーター」と、いつでも相談に行ける「恒久的な場(ユースセンター)」が必要不可欠なのである。

若者を継続的に支援できないために、対応が遅れ、本人の幸せや自立を遠ざけ、社会的負担を増大させてきた。私たちの試算では、15~25歳の登録者41名について、支援をすれば30年間で、納税額約6千3百万円、生活保護費と医療費の歳出削減額はそれぞれ約3億8千万円、約3億4千6百万円となり、合わせて約7億9千万円の金銭効果があると考えられた(※2013年度における「くらし再建パーソナルサポートセンター(専門家チーム)@いぶき実績レポート」より)。負のスパイラルは断ち切ることができる。長年若者支援の現場を見つめ、経営者として苦しんできた立場からも、若者支援の根拠法を切に望む。