ダイバーシティサッカー協会は、認定NPO 法人ビッグイシュー基金の活動から生まれたNPO法人。東京と大阪で、「ダイバーシティカップ」を開催するほか、誰もが生きやすい環境をサッカーやスポーツ、芸術を通じて広げていくために活動しています。
「ダイバーシティカップ」とは、ホームレス、ひきこもり、不登校、うつ病、LGBT、ニート、依存症、精神障害、難民など、さまざまな社会的困難の状態にある当事者とその支援者が垣根なく、ネットワークを作りつながっていくフットサル大会です。(2020年と2021年はコロナ禍のため中止)
2015年のダイバーシティカップより(写真:横関一浩)
今回、人間科学部の准教授・岡田千あきさんからのご依頼で「なぜ、困難の当事者にスポーツをする機会が必要なのか?」「なぜ、サッカーなのか?」をお伝えするべく、2021年1月、大阪大学に伺いました。
当日はビッグイシュー基金スタッフであり、ダイバーシティサッカー協会理事でもある川上翔と、ビッグイシュー販売者・吉富さん(ホームレス・ワールドカップ2009年ミラノ大会出場)、そしてダイバーシティサッカー協会事務局長・竹内佑一さんがインタビュー協力で参加し、学生と対話し、考えを深めました。
この記事では大阪大学での対話内容をもとに、多様性(ダイバーシティ)を楽しむ場づくり、居場所づくりとしてのダイバーシティカップにまつわる取り組みについてお伝えします。
数万~数百万人ともいわれる「ホームレス予備軍」
ビッグイシュー基金では、ホームレス状態の方のクラブ活動として、当事者によるサッカーチーム「野武士ジャパン」を2008年に発足させました。野武士ジャパンは日本代表チームとしてホームレス・ワールドカップへ3度出場し、現在も社会的困難を抱える当事者たちの、自立への心の準備をする場となっています。多くのホームレス状態の人は、路上に至るプロセスで、家や仕事だけでなく人とのつながりや生きる目標や希望を失いがちです。物質的な貧困だけでなく「誰にも相談できない」といった孤立状態にもなっています。そして、ホームレス状態から脱するために必要な情報へアクセスすることも難しく、長期化するといった問題があります。
ビッグイシュー基金やダイバーシティサッカー協会は、そういった人たちとのつながりを持つきっかけとして、サッカーやフットサルの練習や大会を行ってきました。
「包み込む社会」の実現に向け、ダイバーシティカップ開催へ
ダイバーシティカップ開催のきっかけは、野武士ジャパンと、うつ病からの社会復帰をサポートするグループとのサッカー交流試合でした。そこからさまざまなつながりが生まれていきました。このつながりの輪をさらに広げていくため、2015年からはホームレスの人にとどまらず、交流の場をより多くの人に広げたいというビッグイシュー基金スタッフの思いから、ニート、ひきこもり、うつ病、LGBTなど、さまざまな状態にある人たち、支援団体へ呼びかけて、最初の大会開催が実現したのです。
自分や他者をありのままに受け止め、その経験を語りあい、多様性(ダイバーシティ)を楽しむ場、支え合い生きていく包摂的な社会を作る。そして勝ち負け重視の競技性スポーツではなく、互いの違いを尊重できるような社会性スポーツを広げていく、これがダイバーシティカップの目的として定められました。
なぜサッカーなのか?
今回の授業では学生が少人数の3グループに分かれ川上、吉富さん、竹内さんの3人にインタビュー。あるグループでは、学生さんからは「なぜ活動としてサッカーやフットサルを選んだのですか?」と素朴な質問から始まりました。
まず、ホームレス・ワールドカップという国際大会があり、そこを目指せたらという思いでスタッフや当事者が集ったのが最初のきっかけですが、サッカーの良いところとして、ルールがシンプルで、チーム分けを柔軟に変えることができるという点があります。それによって、工夫をすれば、例えば運動が苦手な人や初めてサッカーをするという人でも楽しく参加でき、いろんな人に役割や出番を作りやすい点が挙げられます。
また、サッカーは、各ポジションの役割を自分の意思で果たすことが求められます。セルフヘルプ(自助)の努力もありながら、仲間との協力、コミュニケーション能力、向上心、集団行動、ルールを守ることも必要です。
チームスポーツのため、定期的に会う仲間がいて、練習場所もあります。孤立状態にいる人にとって、人とのつながりや生きがいを感じる居場所・目標や希望を取り戻す、大きなきっかけの1つになるのです。
ダイバーシティサッカー協会はこういった理由で、サッカーやフットサルを通じた活動を行っていることを説明しました。
ホームレス状態にある人のためのストリートサッカーの世界大会
2003年より毎年開催されている「ホームレス・ワールドカップ」は、ホームレス状態の人が一生に一度だけ選手として参加できる「ストリートサッカーの世界大会」です。「ホームレス状態を社会からなくすこと、ホームレス状態にある人々が自らの人生を変えるきっかけをつくること」を目的としています。海外で開かれるホームレス・ワールドカップへの出場を目指す過程で、パスポート取得の支援を受け、ホームレス状態になったことで失った戸籍や住所を取り戻し、就職して、ホームレス状態から脱した野武士ジャパンの元選手もいます。
ビッグイシュー販売者の吉富さんもその一人。
サッカーの練習参加をきっかけに、世界の人たちと交流につながっていった過程やエピソードを披露すると、学生さんたちは驚きの反応を見せました。
その他、ホームレスサッカーがイギリスで始まり、日本ではダイバーシティカップへと変化した背景や、吉富さんがワールドカップ・ミラノ大会に参加し帰国するまでの周りのリアクション、対戦相手国の複雑なホームレス事情など、事者にしか知り得ない情報をお伝えした後、学生たちは本日の講義内容をプレゼン資料としてまとめて発表。
「ホームレスの人自身やその人たちの支援者の話は、とても新鮮だった。特に、暗いところで頑張っているようなイメージがあったが、ユーモアや楽しいということにフォーカスして活動しているのが印象的だった」
「ホームレス・ワールドカップなど、日本だけでなく国際的な取り組みとしてサッカーが活用されているというのが興味深かった」
「ホームレスになる前後だけでなく、幼少期からの体験や仕事でのつまずきなど、いろんな要因が絡んでホームレスになるということが分かった」
などの感想をいただきました。
担当の先生である、岡田千あきさんからのコメント
「グループワークの中で、少ない人数に対してお話ししていただいたので、「普段は聞けないような率直なお話を聞けて良かった」「見方が変わった」というポジティブな反応が学生たちに見られました。また、お話の内容のみでなく、プレゼンのための資料の作り方や発表の仕方、伝わりやすさなどの実質的なアドバイスもいただいたと聞いており、教育的な対応をしていただいたことが、一般的な講演会とは異なる良かった点だと考えております。」
「ダイバーシティサッカー協会」では、「ダイバーシティカップなどの大会や練習の運営」、「社会性スポーツの試み」を広げていくために、寄付サポーターを募集しています。活動に賛同いただける方は以下のページをご覧ください。
https://diversity-soccer.org/donation/
あわせて読みたい
・「ソーシャルフットボール」をご存じですか? うつ病や統合失調症、パニック障害などの精神疾患・精神障害のある人など、多様な人が集いフットサルを楽しむ場・「勝つこと」と「楽しむこと」は共存できる。人と人をつなぐ「社会性スポーツ」の新たな試み
記事作成協力:都築義明
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第8弾**
2021年12月6日(月)~2022年2月28日(月)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/12/21589/
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。