関西大学・社会学部へ出前授業!-学生から見たビッグイシューの疑問

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。

今回は関西大学千里山キャンパスにお伺いし、社会学部・社会システムデザイン専攻、草郷教授の「人間開発論」の授業にビッグイシュー日本・ビッグイシュー基金のスタッフがお邪魔しました。

『雑誌を買ったことがない』ことがある世代への授業

授業の前に草郷先生がおっしゃるには「今の学生ってね、これまでに『雑誌を買ったことがない』という子がいるんですよ」とのこと。
「雑誌を買ったことがない」がありえる若い世代に、どのような話をしてどのように受け止められたかをご紹介します。

まずは、スタッフが「ビッグイシューのことをなんとなく見たことがある、聞いたことがあるという人はいますか?」と聞くと、60人ほどの教室ではまばらに手が上がります。

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次に「買ったことがある人?」の質問には、ほとんど手が上がりません。
大学生への認知は今一つのようなので、気合が入ります!
最初にビッグイシューが取り上げられたテレビ番組の映像を視聴。

映像のなかで、ビッグイシューはホームレスだけが販売できる雑誌であること、350円のうち180円がホームレスの収入になること、ホームレス支援事業であること、雑誌は世界各国のストリートペーパーのネットワークで記事を共有し合っていることなどの説明に加えて、販売者が登場し、ホームレスになった経緯や販売のこと、今後の目標などが紹介されました。

「ホームレスとビジネス?」と、学生さんたちも興味津々で引き込まれている様子。

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その後、5~6人のグループに分かれて、「映像を見て疑問に思ったこと」をシェア。

路上でものを販売するのは条例や法律に引っかからないのか?」※1

販売場所は大阪だけ?」※2

スタッフが少なそうだったけど、外国の記事の翻訳は誰がやっているの?」※3

足が悪くて立てないなど、雑誌の販売すらできない人にはどのようなサポートがあるの?」※4

10年で1500人の販売者とのことだが、販売できる人の基準はあるのか?」※5

などの質問がどんどん出てきました。適宜スタッフが回答(下記)をしたあと、次に「ホームレス」の理解を深める話をしました。

※1公共の道路上で、通行の邪魔や占拠をせず、すみやかに移動できる状態の販売であれば、問題がないとご理解を頂いています。

※2 販売場所は北海道から熊本まで、全国区です。販売場所はこちら

※3 記事の翻訳は、プロボノ(スキルを活かしたボランティア)や外部の方にお願いをしています。

※4 雑誌販売ができない方にも、ビッグイシュー基金のサポートのもと、公的な支援やそのほかの団体へつなぐなど多面的な支援を行っております。

※5 ビッグイシューの販売者になれる基準は、「ホームレス状態であること」のみです。
薬物やアルコールの影響を受けたまま販売することがあるのかと心配した学生さんもいるようでしたが、ビッグイシューでは「販売のルール」を設けており、そのひとつに「薬物やアルコールの影響を受けたまま販売しないこと」という決まりがあります。その販売者からは購入しないよう、読者の皆様にお願いしています。

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学生さんたちに「ホームレスって、どんな状態だと思いますか」と質問すると、「自立していない…?」との回答が。さらに「自立していないというのはどういうことでしょう?」と質問すると「人並みの暮らしができていないということ…?」という回答がありました。

そこで、「ホームレスというのは、『状態』のことなんです。最初から<ホームレス>という人はいないんですよ。僕もたくさんのホームレスの人たちと出会ってきましたが、おもしろい冗談も言う人もいるし、TOEIC850点取ったことがあるという人もいる。なんらかのきっかけで、<家を失った状態>にあることをいうんです。自立していない人がホームレスと言うなら、実家暮らしで、ご飯作ってもらって仕事している僕も自立してるなんて言えません…」と説明すると、メモを取る学生さんが何人も見られました。

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次に「なぜホームレス状態になると思いますか?」ということを質問すると、「孤立してしまったから・・・?」という回答。そうです、人との関係はとても大切で、家族や友人に頼れない状態は、いざというときにホームレスになる可能性があります。
いざというときの例として「失業」「病気」「介護離職」「依存症」などの例を挙げると、「介護離職など、自分の努力以外の理由でホームレスになるとは思わなかった」という感想を授業後に言っていた学生さんもいました。

また、ビッグイシュー基金の活動として、仕事や就業、住まいのサポートや、路上脱出ガイドの配布活動、野球などの部活、ダイバーシティカップなどについても説明させていただいたのち、実際に学生さんに『ビッグイシュー日本版』を手に取っていただき、「6分間リーディングタイム」を持ちました。

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たぶん、今この瞬間、世界で一番ビッグイシューが熱心に読まれている空間です(笑)
そして、ビッグイシューを読んだ感想をグループでシェアしてもらいました。

授業後様々な感想をいただきましたが、「ホームレスは状態を表す言葉であり、ホームレスという人格はない、という言葉が心に残った。」など、ホームレスへの見方が変わった学生さんもいれば、「恥ずかしながら知らなかった雑誌ですが、内容も国際的な問題、社会問題で興味深いもので、ぜひ購入したい!売っているホームレスの人とお話したいと思いました。」などと、購入意欲を見せてくれる学生さんもいらっしゃいました。

学生さんたちの目が真剣で、ホームレスやビッグイシューへの理解者を一人でも増やし、また何らかのアクションを始めてくれる人を増やしたい…と改めて感じた一日でした。

<授業後に学生さんから出てきた疑問をご紹介>

有限会社ビッグイシュー日本は、営利団体であり、ホームレスをビジネスパートナーとしています。目標が販売者をゼロにすることだとすると、雑誌の売り上げが落ちて会社自体の経営が行き詰まるのではないでしょうか。矛盾しているような気がします。

→ホームレスがゼロになってから考えます…というのは冗談ですが、ホームレスのいない地域には定期購読や、雑誌の記事を再編集して書籍販売も始めています。

ホームレスの人はどのようにビッグイシューの存在を知るのでしょうか。何か知ってもらうための取り組みをしているのでしょうか。

→ビッグイシュー基金では夜回りをして、路上脱出ガイドという冊子を配っています。そのなかでも『ビッグイシュー日本版』のことを紹介しています。また、販売者が、他の販売候補生(?)を連れてくることもあります。

ビッグイシューはなぜホームレスを救おうと思ったのか。なぜ雑誌をホームレスの人に販売してもらうビジネスを始めようと思ったのか。

→「ビッグイシュー日本」代表の佐野章二が「社会を変える仕事をしよう」「ビッグイシューの挑戦」などの書籍を出しています。ぜひ読んでみてください。

実際に社会復帰を果たした人は何人いるのか?

→これまでに総額11億円近い収入を販売者にもたらし、約190人が販売者を卒業していきました。

ホームレスの人たちは全員受け入れてもらえるならば、仕事がなくて困るホームレスはいなくなるということでしょうか。

→ホームレスの人にも仕事を選ぶ権利があります。一日中、暑くても寒くても路上に立ち続けるというのはハードワークですし、また、販売や接客業をしたくない、という方、もっと稼げる仕事をしたい、という人は選ばないこともあるでしょう。

私の知る販売員は、ずっと立ってるだけで、買おうかなという気が起こらないし、怖い感じがするので一人では買うことができません。もうそれは、販売者の責任で、一冊も売れなくてもビッグイシューの企業的には良いのですか?

→よいとは思っていません。ビッグイシューには「販売サポート」が、販売についてポップを提供したり、売れるためのアドバイスをしたりしています。それを受け入れる、受け入れて実行する・しない、できる・できないもまた、販売者によります。
もし気になる販売者がいれば、お手数ですがビッグイシューまでご連絡をいただければと思います。

子どものホームレスはいるのですか?

→実質的には、母子や家族連れでホームレス状態の人はいると思います。(車や、ネットカフェに寝泊まりしている人もホームレス状態です。メディアに取り上げられることもありますね)ただ、子どもが一人でホームレス状態になっている場合は、管轄として厚生労働省管轄で児童養護施設に入るなどの保護が受けられますので、子どもが自分の意思でホームレスで居続けることはできません。

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ビッグイシューでは、高校・大学その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシューまたはビッグイシュー基金までお問い合わせください。

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