長引く「コロナ禍」とそれに伴う経済の停滞で、困窮する人が減少する兆しが見えません。
東京の炊き出し現場では、毎回400人を超える人が列を作っており、年代・性別を問わず人数が増え続けています。




この記事は2022年1月30日(日)オンラインで放送されたBIG ISSUE LIVE #10『コロナ禍と貧困、炊き出し現場のいま』の内容を元に再構成したものです。

炊き出しから見える現状や本当に必要な支援について、東京・池袋を中心に路上生活者・困窮者支援活動を展開するNPO法人「TENOHASI」の事務局長 清野賢司さんにビッグイシュー基金 川上翔がお話を伺いました。

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約500人が並ぶ炊き出しの行列は公園の外にまで

―――「TENOHASI」の活動について教えて下さい。 

「TENOHASI」は2003年の設立です。現在は東池袋中央公園での炊き出しを、毎月第2・第4土曜日夜6時から行っています。さらに毎週水曜日の夜回り活動や医療・生活相談支援など、困窮者の路上脱出、安心できる自分らしい生活に向けた支援活動を行っています。

―――現在の炊き出しの状況について教えて下さい。

コロナ禍ということもあり、炊き出しではなくお弁当の配布です。さまざまな寄付や「パルシステム」さんから供与していただいたパンやお菓子、果物などを袋に詰めて、お弁当と一緒に手渡ししています。

年明けの1月22日は497人が集まりましたが、これは池袋で過去最多の人数でした。間隔を保って並んでもらうので、500人ともなるともう公園に収まりません。長年、池袋で活動してきたので、定点観測とも言えるのですが、これまではリーマンショック後の2009年が、最多の年平均330人で、2019年には166人まで減りました。しかし、2021年からまた一気に300人、400人に増えて、その後も止むことないこの大波が一体いつ終わるのかなと。


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お弁当やパンをスタッフとボランティアがひとりひとりに手渡しする


 ―――炊き出し(配食)はどうやって準備しているのですか?

巣鴨のお弁当屋さんのご厚意でかなり格安で請け負っていただいています。それでも450人分を用意するのに、費用は22万円もかかってしまいます。

2019年までは、自分たちで40~50kgほどのご飯を炊いて、ダンボール20箱ほどの野菜と鶏肉10kgを刻んで煮て、どんぶりに「汁かけご飯」として食べてもらっていました。その頃は多くて300人分ほど必要でしたが、野菜もお米も寄付で賄えたので、一回の炊き出しにかかる費用は1万円以下で済んでいました。

―――なぜこんなに炊き出しに並ぶ人数が一気に増えたのでしょうか?

これは推測ですが、ホームレス状態ではなく、どこかに居住する家や部屋があるけれど、困窮している。食費が厳しくて、検索で知って来た人などが多数派になっている、ということでしょうね。

―――炊き出しに並ぶ人の年代には、どんな変化がありましたか?

明らかに20代、30代の人が増えました。また、これまで女性は全体の1~2%、高齢の方が多かったのですが、今は若い女性も10%くらいいます。実際は困窮している女性はもっと多いはず。並びたくても、抵抗がある人も多いのかなと思っています。

―――炊き出しでは医療相談も受けられますか?

炊き出しでは、医師、看護師にも参加してもらっていますので、必要に応じて相談することができます。市販薬はその場でお渡しできますし、福祉事務所あてに生活保護を通じた、医療施設への紹介状を書くこともできます。豊島区と連携して、接種券や身分証なしでも炊き出しの会場でワクチン接種の予約ができるようにもなっています。

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会場に「はり・きゅう・マッサージ・整体」の専門医もいて無料で施術を受けられる。

―――炊き出しに関わっているボランティアの数はどれくらいですか?

炊き出し(配食)に30~40人、医療従事者10~20人、生活相談約10人、はり・きゅうなど約10人です。メディアに取り上げられることも増えたので、TENOHASIが大きな団体かのように思われますが、スタッフは5人です。活動は多くの献身的なボランティアの力によって支えられ成り立っています。

路上生活者殺害事件をきっかけに、差別問題への取り組み方を自問した

―――清野さんは中学校の社会科教員だったということですが、どういった経緯で支援活動に携わることになったのですか?

きっかけは2002年に東村山市で起きた、中学生による路上生活者殺害事件です(※注1)。この事件が起きる数年前まで、犯人の中学生たちが通っていた学校の隣の中学校に勤めていたこともあり、非常にショックを受けました。

※注1: 2002年、東京都東村山市に当時あったゲートボール場で、野宿していた50代の男性が、1月25日夜、3度にわたって地元の中学2年生4人と高校2年生2人の少年たちに暴行され、死亡した事件。事件の前日、中学2年生の少年3人は、市内の図書館で騒いでいたのを男性に注意され逆恨みし、高校生らと共謀し暴行におよんだとされる。

自分がかつて暮らしていた町で、やがて差別による殺人が起きようとしていたのに、当時それに気づけず、自分も差別する側ではなかったのかと。教員として差別問題に取り組んでいたつもりだったのに、何もできていなかったのではないかと。

この問題を授業で取り上げたいと思い至って、団体を立ち上げ、啓発DVDを制作するなど頑張ってはみたのですが、教員同士のあいだでは思ったほど広がらず、実際は難しいところがありました。

「ホームレス」を怖がる中学生、中学生を怖がるホームレス当事者

それから2年ほど過ぎた頃、池袋で活動していたTENOHASIに、「ホームレス当事者と講師を学校に派遣して授業してもらえませんか?」と申し出て、勤務する学校で100人の生徒たちを前に授業をやりました。

―――授業を受けることになった生徒たちの反応はどんな感じでしたか?

生徒は怖がっていましたね。学校に招待したホームレス当事者の方2人は、40代か50代くらいの普通のおじさんなんですが。生徒たちには「何でもいいから質問してみて」って言ってあげました。

生徒から「ホームレスをやっていて怖かったことって何ですか?」という質問が出て、男性2人とも「中高生が襲ってくるのが怖い」と。中学生は「ホームレスが怖い」と言っているのに、ホームレス状態の人は逆に「中学生が怖い」と思っている。ここから生徒たちや私たちも、大きな気づきがあったと思いますね。

その後TENOHASIは、解散の危機など、立て直すときがちょうど来ていた時期でした。私が手伝いましょうかと申し出て、事務局長となりました。

困窮者に本当に求められている支援とは何か?

―――路上生活から脱出するために本当に必要なことは何でしょうか?

路上に出て、心身にダメージを負った困窮者が、無料低額宿泊所(※注2)のような相部屋で、見ず知らずの人と集団生活を強いられることがスムーズに自立につながるかといえば疑問です。

※注2: 路上生活者が生活保護を申請したとき、窓口で紹介される福祉施設。本人の生活保護費から経費や居室使用料(=実際は2段式簡易ベッドの1つのみ使用可)を徴収され、本人の手元には1日あたり300円程度しか残らないこともあり、自立が難しい。

私たちも試行錯誤をしてたどり着いたのが、ホームレス状態にある人にまず安心できる住まいを確保する「ハウジングファースト」という考え方です。それも普通のアパートの居室、鍵をかけることができる個室を提供し、誰にも干渉されない部屋にまず入ってもらって、ほっと息をついて、そこから次のステップに移る。これは誰でもニーズは共通しています。

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シェルター実践経験から、ワンルーム居室から恒久的な住まいへ移行する方法へ行き着いた。

こうしたハウジングファースト型支援では、ハウジングがファースト、見守り・相談がセカンドでセットです。このような継続した支援をやっていくことが重要だと思います。そうすると、この生活を維持したいと皆さん頑張るんですね。

必要な情報にたどり着けない、という問題

東京都での1回目の緊急事態宣言時、ネットカフェを追い出され路上に出た人たちは、都が借り上げたビジネスホテルに無料で泊まることができました。

しかし、すでに仕事を失っていた路上生活者の方たちの中には、ひたすら仕事探しのみにスマホを使い、無料提供されていたホテルの情報にたどり着けず、ずっと路上生活を続けていた方たちがいました。スマホやWi-Fiがあっても、必要な情報にたどり着けない、情報の貧困という問題です。

退去してからではなく、住む家があるうちにSOSを発してほしい

「住む部屋があるのに、わざわざ炊き出しに並ぶ人なんて」という意見をもらうことがあります。しかし、家がない状態になってしまうと、家がある状態にもう一度戻るまでに相当な年月がかかります。

家がある状態のうちに、支援や相談を受けていただくことが重要です。真面目な方ほど、「家賃を滞納してしまうと家主に迷惑がかかるから、退去するしかない」と考えます。多くの人たちは、家を失くしてしまって、ぎりぎりの最後のところで私たちのところに来ます。

そうではなく、「退去する前に役所や支援団体に行って、相談してください」とお願いしたいです。

そして、こうした支援活動に興味のある方は、私たちTENOHASIや、他にもさまざまな支援団体が連携をとっていますので、ご自身に合った活動を見つけていただいて、ぜひこの輪に加わっていただきたいと思います。

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清野賢司(NPO法人TENOHASI 事務局長)
1963年埼玉県生まれ。東京都内の中学校の社会科教員時代よりホームレス問題に関心をもち、TENOHASIの活動にボランティアとして長年参加。2017年、55歳の時に教員を退職し、活動に専念。事務局長および代表理事を務める。
記事作成協力:都築義明

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。