安全な住まいを得られない人々のストーリー、そして人々をホームレス状態に追い込むシステムの不備を正確なデータで指摘する、を目的に、2021年12月に米国で創設された組織が「ハウジング・ナラティブ・ラボ(Housing Narrative Lab)」だ。「困窮者は家を持てない社会」の問題点について、ラボの代表マリソル・ベッロが語る。(聞き手:国際ストリートペーパーネットワーク(International Network of Street Papers/INSP)北米支部)

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『メイドの手帖』で世間が知ったシングルマザーの厳しい現実

ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーとなった自叙伝『メイドの手帖』で、著者のステファニー・ランドは時給9ドルのメイドの仕事をしながら、幼子を連れてホームレスシェルターに身を置かざるをえなかったシングルマザーの実情を赤裸々に描き出した。メイドの仕事で得られるわずかな収入では娘に食べさせるのがやっと、自分は空腹に耐えなければならなかったこと、家賃どころか通勤のガソリン代すらやっとの思いで支払っていたこと等々。彼女のストーリーはNetflixでもドラマ化され、米国で住まいを確保し続けることがいかに大変で、個人の努力だけではどうにもならない現実を見せつけた。

安定した住まいを求めて公的支援を利用しようとしても多くの障壁が立ちはだかる。そのしわ寄せを受けているのがシングルマザーたちだ。最もセーフティーネットを必要とする人たちが救済を受けられていないのだから、国のシステムに欠陥があると言わざるをえない。

米国では、ステファニーのように安定した住まいを手にできない人々が増え続けている。危機的ともいえるその状況はコロナ禍でさらに悪化。新たに何百万もの人々が失業し、路上生活に追いやられ、住まいを確保する困難に直面している。



ホームレス当事者の声を政策に結びつけるために

誰もが「わが家」と呼べる場所を持てるようにするにはどうしたらよいのか。国を挙げての議論がこれまで以上に必要とされており、そうした議論を促すためにハウジング・ナラティブ・ラボが設立された。草の根のホームレス支援団体や権利擁護者たちと協力しながら、ホームレス状態にある当事者たちのストーリーを伝え、現実的なソリューションにつなげていく役割を担うために。

ラボが昨年実施した調査によると、米国民が考える重要政策として、新型コロナウイルス対策、雇用創出、医療へのアクセス向上に次いで、「住宅危機への対応」が4番目にランクインした。政治家はもっと真剣に“あらゆる人が住まいを持てるようにすること”に取り組むべきで、この問題への取り組み姿勢を見て投票する候補者を判断している国民が大勢いることを念頭に置くべきだろう。

解決が難しいと言われるホームレス問題だが、できることはたくさんある。まずは、人々が購入(賃貸)できる住居を数多く提供する。住宅や家賃補助を行う地域プログラムやサービスに政府が投資するといった確実な解決策を人々は求めている。人種や育ちや豊かさにかかわらず、「住まいは(水や食料と同様)基本的ニーズ」なのだ。

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Images courtesy of the Housing Narrative Lab

私たち一人ひとりが力を合わせれば、誰もが住まいを持つことができる政策を推進できるはずだ。州レベルでの動きもみられる。例えばテキサス州ヒューストンでは、住宅バウチャーや誰にでも手の届く住居を供給するための財源が確保されている。オレゴン州ポートランドでは、住民投票により住宅建設や住居アクセス向上のために資金が投入されることになった。

こういったアクションを加速させるには、ホームレス状態にある人、家族や知人の家を転々とせざるを得ない人、シェルターに身を寄せている人、車中生活や路上生活を余儀なくされている人たちの声をすくい上げ、具体的なソリューションにつなげていく必要がある。家族が不自由なく暮らせるようにしたいという思いは万人共通だ。たとえ生活が苦しい状況になってもホームレス状態に陥らずにすむ社会にしていかなければならない。

Housing Narrative Lab
https://housingnarrativelab.org

By Marisol Bello
Courtesy of INSP North America / International Network of Street Papers

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Images courtesy of the Housing Narrative Lab

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