ウクライナの戦闘が激しくなる中、2番目に大きな都市ハルキウ*1では、大勢の市民の生活拠点が地下に移されたままだ。
ロシア国境からたった15マイル(約24km)しか離れていないウクライナ北東部のこの街では、大勢の市民が地下鉄の駅構内での生活を強いられ、1カ月以上が経つ。今や、ホームレス支援にあたってきたスタッフや、戦争が始まるまでホームレス状態で“支援を受ける側”だった人たちもが、命を危険にさらして同胞たちの命を守る活動にあたっている。(『ビッグイシュー英国版』2022年4月3日掲載記事より)
ロシアのウクライナ侵攻が続く中、ハルキウでは何百人もの人々が地下鉄の駅で避難生活を強いられている。
写真: Depaul International
*1 外務省の発表(2022年3月31日)を受け、当記事以降、地名のカタカナ表記はウクライナ語由来を採用します。
昼夜問わずの爆撃、ガスも電気も水も停止
\ ホームレス支援の国際的な慈善団体デポール・インターナショナルは、ウクライナにも支部を持つ。ウクライナ各都市に支援物資を届けた後*2、ハルキウで1週間半過ごした理事のヴィタリー・ノバク牧師は、戦闘により街はほぼ破壊されてしまったと話す。「ハルキウの現状は全くもってひどいものです。昼夜かまわず爆撃があり、巨大なガス管が爆破されたので、街のおよそ半分はガスも電気も水も使えません。私が過ごした1週間半で、静かな夜は1日たりとてありませんでした」*2 過去記事「ウクライナ国内のホームレス支援団体はいま」
「戦闘下にある人たちは、これが毎日続いているのです。朝、自宅を出て、会った人に『さようなら』と言う。それが永遠の別れとなるかもしれません」
「毎朝、そして支援物資を配り終えた夕方にハグをかわす、その一瞬一瞬がとても大切なものに感じられます。毎日、国内のあちこちで大勢の人が殺され、生活が破壊されているさまを目の当たりにしているのですから」
食料、水、医薬品が不足する中、地下施設で生活している人たちが生き延びられるよう、デポールなどの支援団体が必需品を届けている。電気や明かりが使えないときもある。ノバク牧師とボランティアたちは、調理や貯蔵設備がある地下シェルターでは、70リットルもの温かいスープやミルクを、設備がないシェルターには缶詰の食べ物を届けている。しかし、こんな悲惨な状況下にありながらも、大人たちは料理を用意するのを手伝い、子どもたちは支援スタッフへの感謝をこめて絵を描くなど、コミュニティ意識や慈悲の心が強まるようすを目にした、とノバク牧師は言う。地上の脅威にもかかわらず、ここでも人々の生活は営まれ続けている。
地下で避難生活を送る子どもたちが支援スタッフに絵をプレゼントしてくれた。
マーシャ(6歳)が描いたこの絵には「勝つ、勝つ、勝つ」の文字も。写真: Depaul International
ホームレスの人々がより厳しい状況の人たちを支援
チームメンバーの多くが家族を守るためにウクライナを去ったが、その穴を埋めたのは意外な顔ぶれだった。ホームレス状態にあり、戦争前にはデポールの支援によって生活していた人たちが、地下に避難している人たちの支援に力を貸してくれているのだ。「これまで私たちの支援を受けてきた人たちが、行動を起こしています」とノバク牧師。「戦争前から私たちが運営するホームレス用シェルターで生活していた人が、自分よりも切迫したニーズを抱えている人たちの支援にまわってくれています」「彼らがまとまって動き、スープを作り、ホームレス用シェルターからすぐ近くにある地下鉄の駅に避難している母親や赤ちゃんに配る、を毎日行っています。これは実に素晴らしく、奇跡的な変化だと感じています。人は人を助けようとするものなのです」
デポール・インターナショナルのCEO、マシュー・カーターもコメントした。「1カ月前に戦争が始まってからウクライナの生活は一変しました。とりわけ、ハルキウのようにロシア軍に包囲された都市では、食料が不足し、誰もが一瞬にして家を失いかねません。
デポールが運営するシェルターの入居者たちも、支援物資を載せたトラックが到着すると作業に加わり、困っている人たちの家に届けるなど、支援物資の配布を手伝っています。出産したばかりの女性など、どうしても自宅を離れられない人たちがいます。先週末、そんな人たちにボランティアスタッフたちが、缶詰、野菜、パン、トイレットペーパー、おむつを届けました。戦闘が起きている街で、これは途方もなく勇気のいる行為です。
シェルター入居者たちをとても誇りに思います。体の不調やメンタルヘルスの問題、過去のトラウマ体験など、複雑な問題を抱えた人たちです。“ホームレス”だからと差別や偏見にさらされてきたでしょうに、自分よりも大きなニーズに直面している人たちを助ける強さを示してくれています」
「死ぬかもしれなくても、できるだけのことはしたい」
今後について確かなことは言えないものの、デポールでは、ハルキウとオデーサでさらに6カ月間は人道支援を続ける計画がある。具体的には、ホームレス用シェルターの運営と、毎日250人以上の人たちにソーセージ入りシチューとパンの配給を行う。生き延びられる支援だけではなく、爆撃が終わったあかつきには、暮らしを立て直す支援も実施していく計画だ。“ホームレス問題”はどんな紛争よりも長く続くことを百も承知しているからだ。目下、ノバク牧師は自らの命を危険にさらしながら支援活動を続けている。それ以外の選択肢はないと語る。「何かできることがあるなら、リスクはついてまわります。ときに、自分の命という最も価値のあるものが危険にさらされます。よく分かった上でそのリスクを受け入れています。自分が命ある限り、できるだけのことをしたいのです」
Depaul International
https://int.depaulcharity.org
By Liam Geraghty
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