米コロラド州デンバーのサウス・ブロードウェイは、歴史がありながら常に進化を続ける、この街の魅力を語るには欠かせない通りだ。レストラン、バー、コーヒーショップ、古着屋、ガーデニングショップなど新旧さまざまな店が建ち並び、朝から晩まで楽しめる。新たなビジネスが次々と生まれるこのエリアで今注目を集めているのが、2021年半ばのオープン以来大盛況の「カオス・ブルーム劇場」だ。コメディや即興劇の上演だけでなく、コメディアン養成コースも提供している。(『デンバー・ボイス』掲載記事より)

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Photos by Cat Evans

女性による指揮がまだまだ少ない舞台芸術の世界

カオス・ブルーム劇場はどの部屋も凝ったデザインがほどこされている。トイレの壁面は芝生で覆われ、ステージと教室をつなぐ壁にはデンバーの街並みが大胆に描かれている。この細部にまでこだわった風変わりなデザインを手がけたのは、昨年から共同オーナーを務めているエイミー・ゴーリッチだ。

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Photos by Cat Evans

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Photos by Cat Evans

舞台芸術の世界で指揮をとるといえば大抵は男性で、女性がクリエイティブ施設の顔となり采配を振るう機会はまだまだ少ない。女性アーティストの活動支援団体ウーマンアーツも、「アートやメディア業界では、女性は大きな雇用差別を受けている」と主張している。今後この状況がどう変わっていくかは分からないが、ひとまずここカオス・ブルーム劇場では先駆的な女性が指揮を取っている。

コロナ禍のピンチで掴んだチャンス

2001年、ニューヨークの即興劇場アップライト・シチズンズ・ブリゲートでキャリアをスタートさせたゴーリッチ。数々の舞台を踏んだ後、2016年にロサンゼルスに拠点を移した。ウェストサイド・コメディ劇場の養成クラスで教えて3年が経った頃、新型コロナウイルス感染症が拡大し、すべての活動がストップした。「オンラインで教えるだけではやっていけない」と痛感したゴーリッチが新たなチャンスを模索し始めた矢先、カオス・ブルーム劇場の共同オーナーの一人ジャスティン・フランシンから「デンバーに来て、養成ディレクターをやってみないか」と声がかかったのだ。


他の仲間たちと無給で奔走すること数カ月、工夫を積み重ね、このユニークな空間が完成した。パンデミックで全てが停滞していたので、時間だけはあった。資金集めを進めながら、夏の間は劇場の正式オープンに先駆けて、劇場近くの路地で即興ショーを開催。最初のロックダウン解除直後ということもあり、毎晩、大勢の人がつめかけて大当たりだった。「時間をかけながら、いろんな変革を起こしていくさまをジャスティンも見てくれていました」と言うゴーリッチ。

努力の甲斐あり、ゴーリッチは共同オーナー(計4名)として迎え入れられることになった。「それぞれの特技を寄せ集めたからこそ、ミャオウルフ*1のミニ版みたいなスペースが出来上がりました」と話す。コロナ禍での劇場づくりについては、むしろ時間の余裕があってよかったと語る。「準備にじっくり時間を割けたので、満タンに給油され、メンテが行き届いた機械を手に入れたようです。この場を大切に育てていきたいです」。ワクチン接種が義務化されたおかげで、小さなスペースに人が集まることへの不安を和らげられたとも。「劇場に来る人は全員ワクチン接種が済んでいるので安心です」

*1 体験型のアート&インスタレーションを制作する米ニューメキシコ州サンタフェ発のエンターテイメント集団。https://meowwolf.com

長引くパンデミックで、エンターテイメントへのニーズも高まっている。「いろんな事があり、笑いが足りていない人が多いです。みんなで発散させていかないと!」

カオス・ブルーム劇場の存在は口コミでどんどん広まっている。「業界の人というよりも、地元のいろんな人が来て常連になり、その人たちが友人を連れてまた訪れてくれています」

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Photos by Cat Evans

ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなど米国各地で研鑽を積んできた演者と講師が揃い、毎週いろんな公演やワークショップを開催している。「即興、コント、スケッチコメディ*2、どれを取っても高いレベルです。私が頭をひねって考えたカリキュラムを受講していただければ、誰でも挑戦でき、腕を磨いてもらえます」とゴーリッチは胸を張る。

*2「スケッチ」と呼ばれる短い(通常10分以内)シーンまたはビネットで構成されるコメディージャンルの一つ。

人気公演「RELATIONSH*T(ヘンテコなデート)」では、コメディアンが観客の1人に過去の変なデート体験を聞き出し、それをもとに即興でコントを繰り広げる。「昨夜は満員御礼で、泣く泣く入場をお断りしたほどです。どの公演でもコメディアンとお客さんの距離が近いので、和気あいあいとした温かい空間が生まれています。同じ方が何度も足を運んでくださるのがうれしいです」と話すゴーリッチ。

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Photos by Cat Evans

現在、カオス・ブルーム劇場では初級から上級まで幅広いレベルのクラスを開催している。例えば、「スケッチコメディ101」というクラスは、6週間で受講費150ドル(約2万円)。スケッチコメディの基礎から、ネタづくり、台本起こし、演技への落とし込みまでを学ぶ。「他ではないクラスを提供しています。どうすればもっと面白くできるだろうと頭をひねらせて考え出したカリキュラムですから」と自信たっぷりだ。「未経験の人からプロまでいろんな人が参加できる講座をゼロから作る、こんなチャンスをもらえて光栄です」

新しい人を歓迎し、多様性に富んだ場づくりを心がけている。「私たちはいわば“開かれた学校”です。ステージに立つ人を見て、観客が『まるで自分みたい』と共感してもらいたいんです。届けるべき声とそうでない声、そして、どんな言葉を使うのがよいかにも配慮しています。人々の期待にしっかりと応えられるよう、自分たちにできるステージ作りをして、さらに良いものにしていきたいです」

エネルギッシュな劇場は幕を開けたばかりだが、仲間たちと笑いと共感に包まれる空間が確かに培われている。

カオス・ブルーム劇場
http://chaosbloom.com

By Cat Evans
Courtesy of Denver VOICE / International Network of Street Papers


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