高級ファッションブランド「プラダ」では、毎月、限定商品を先着順で提供する「プラダタイムカプセル」を開催してきた。2022年6月からはそこに、プラダの独自NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のオーナーとなれる新たな試みが加わった。第1弾アイテムは、アーティストのカシアス・ハーストとコラボした100点限定のボタンダウンシャツ。このアイテムを購入すると、NFTが手に入るしくみだ。トップブランドによるNFT市場参入について、バーミンガム大学マーケティング学部准教授アキレアス・ボウキスが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。


有名ブランドからデジタルアート作品までNFT市場が急騰中

有名ブランドがこぞって、ビジネスに新たな価値を加えるべくNFTを実験的に取り入れ始めている。プラダの他にも、ナイキのデジタルスニーカー、サッカークラブACミランのデジタルアイテムなどが登場。グッチは、本物のバッグの値段3400ドル(約46万円)を上回る4,115ドル(約65万円)のデジタルバッグを販売した*1。上記プラダのNFTも、転売されればかなりの高値で取引される可能性がある。

*1 当然ながら実生活では使用できず、オンラインのゲームプラットフォーム「Roblox」のみで利用できるデジタル通貨となる。

NFTに関してメディアでよく取り上げられるのが、高額アートオークションだ。例えば、米国のデジタルアーティスト、ビープル(Beeple)による巨大なデジタルコラージュ作品「Everydays」は、デジタルアート作品の過去最高額となる約6,900万ドル(当時のレートで約75億円)で落札された*2。退屈(ボアード)そうな猿をモチーフにした1万点ものデジタルアートのNFTコレクション「ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club:BAYC)」も多くの人を熱狂させている。有名ブランドの参入が大きな話題を呼び、NFTの2022年度総販売額は900億ドル(約11兆円)と、2021年度の倍以上に達する見込みだ。

*2 参照:Beeple sold an NFT for $69 million

NFT市場の今

NFTは“偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ”。現在は、デジタルアート作品や映像などに利用される事例が主流だが、今後は物理的アイテムにも関連付けされる可能性がある。「オープンシー(OpenSea)」、「ルックスレアー(LooksRare)」、「マジックエデン(Magic Eden)」といった市場で購入・販売ができ、2021年、前述のビープルのニュースや、ヒップホップMCで俳優のスヌープ・ドッグ、プロバスケットボール選手のレブロン・ジェームスといった著名人のNFTが登場したことで、マーケットが急拡大した。

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OpenSeaで販売されているCLONE Xのアバター
OpenSea


NBAやNFLといったスポーツ組織も早い段階でNFT市場に乗り出した。有名アスリートたちのトレーディングカードや、過去の名シーン動画、選手たちのサイン入りジャージーなどをNFTとして販売。熱心なファンたちにレアアイテムを提供することで、利益を生み出している。

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プロのスポーツクラブなどもNFTを活用している。
Maurice NORBERT

今後は、メタバース空間で使用できるNFTも増えていくだろう。高級ファッションブランド「バレンシアガ」はそのパイオニアで、人気ゲーム「フォートナイト」でキャラクターが身につけられるNFTアクセサリーのコレクションを提供している。

ナイキのデジタルスニーカーが約180万円で取引

特に先進的なのがナイキだ。2021年12月、ファッション分野におけるNFT活用の先駆者で、アニメ調の3Dキャラクター「CLONE X」のNFTコレクションで知られる「アーティファクト(RTFKT)」を買収。いまやデジタルスニーカーが数万ドルで取引されている。

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今後は本物のスニーカーよりもデジタルスニーカーに思い悩む機会が増えるのだろうか。
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2022年2月、「CLONE X」の所有者たちに、「モノリス(MNLTH)」と呼ばれる謎めいたデジダルボックスのNFTが無料配布された。側面にナイキのロゴがあしらわれ、中身が分からないにも関わらず、すぐにNFTマーケットプレイスで売られ始め、1万ドル(100万円)超の値がついた。4月にナイキは、「モノリス」の開封ができるようになったことを発表。その気になる中身は、「クリプトキックス(CryptoKicks)」と呼ばれるデジダルスニーカー、そのスニーカーをカスタマイズできるアイテム「スキンバイアル」、新たな謎めいた箱「モノリス2」だった。その後、13万4千ドル(約180万円)で取引されたモデルもあるという。

オンラインプラットフォームでは、NFTを使用できる場がどんどん増えている。米メタ社(Facebookの新社名)は、FacebookとInstagramにNFTの投稿・共有ができる機能実装を進めている。音楽ストリーミングサービスSpotifyも、ミュージシャンやレコード会社の新しい収入手段となるよう、同様の取り組みを行なっている。

問われるブランドイメージとの一貫性

こうして有名ブランドがNFTの可能性を広げる一方で、大きなリスクがあることも理解しておくべきだ。2022年6月1日現在、株式や暗号通貨などさまざまな市場の低迷に合わせて、NFTマーケットも取引価格や取引量が著しく減少している*3。大きく下落した資産を、なすすべなく塩漬けにするNFTコレクターも少なくないだろう。

*3 参照:NFT prices crumble as crypto market enters downturn

レアル・マドリードのような歴史あるスポーツクラブがファンたちに損をさせてしまうかもしれない。ファンとの関係性を傷つけないよう、クラブはなにかしらの補償をすべきなのだろうか?あるいは、ファンたちがデイトレーダーさながらにNFTを売買して金儲けを始めたら、そんなギャンブルさながらの行為を奨励したのはクラブではないのかと責められないだろうか?

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NFTのカジノも登場
Pixelart

企業が第三者に資産を委ねることで、望ましくない波紋が生じる危険性もある。例えば、アパレルブランド「パタゴニア」のNFTを、化石燃料の強力な推進者によって所有・利用されたなら、パタゴニアの顧客たちは、同社の特徴である持続可能性の追求や活動家的姿勢に違和感を覚えないだろうか。 NFTが実際の商品の販売に悪影響を及ぼす可能性もある。すべてのブランドが、プラダやグッチほどの希少価値を持っているわけではない。手頃な価格帯が売りのファストファッションブランドがNFTを発行しても需要が見込めず、結果として企業イメージを損なうかもしれない。

NFTを発行する企業は、今後さらなる変化を求められるだろう。NFT所有者とどんな関係性を構築すべきか、世間からの目に向き合いつつ、新しい役割を模索していかなければならない。進歩的な文化を持つ企業であっても、NFTの売り上げに注力して投資会社のようになってしまったら、倫理的に問題視されかねない。

とはいえ、このNFT市場が今後どのように発展するのかは興味深い。こうしたリスクを敏感に察知しながら、NFTを短期的なビジネスチャンスではなく、じっくり探究すべき新たなマーケットと捉えられる企業にこそ、成功の可能性があるのだろう。

著者
Achilleas Boukis
Associate professor, University of Birmingham


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2022年6月1日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
The Conversation

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