15~34歳の若年無業者の数は日本国内に約75万人いるという。その中には、「仕事を探したけれど、見つからなかった」という人もいるだろう。すでにある仕事を担う人を募集する形では、どうしてもマッチングからこぼれてしまう人がいるからだ。
しかし奈良県香芝市にある「Good Job!センター香芝」は、仕事ありきではなく「人ありき」で仕事のほうをつくっているという。好きなことや得意なことを仕事にするとは、どういうことか、そもそもそんなことは可能なのか。スタッフの三輪竜郎さんに話を聞いた。
好きなことや得意なことを「仕事」にする仕組みと環境を
社会福祉法人わたぼうしの会が運営する「Good Job!センター香芝」(以下、同センター)は、「誰もがはたらく喜びを実感でき、主体性をもって暮らせる社会へ」を理念に掲げ、さまざまな障害のある方が、アートやデザインなどの表現活動を、“仕事”にして働いている。全国の福祉事業所から作品の仕入れをして販売する流通業務、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機を使った商品製作、企業や行政、デザイナーと作品をつなげる商品開発、カフェ「Good Job Coffee」の運営など、その活動は多岐にわたる。
「メンバーの中には、いろいろな背景をもつ方がいます。高校を卒業してこちらで働くことになった方もいれば、社会経験をつんだ上で、好きなことを仕事にしたいと、新たな働き方としてここでの仕事をはじめた方もいます。メンバーと話をしていくなかで、例えば『写真が好き』と聞けば、オンラインストアの商品紹介のための写真を撮ってもらったり。お菓子づくりができるメンバーだと知って、カフェのお菓子づくりをおまかせできるようになったり。そうした、それぞれの得意なことや好きなことを活かした仕事づくりを大事にしていますね。」
また、同センターの建物は、2017年GOODDESIGN賞 Best100を受賞。また同年に奈良県景観デザイン賞の知事賞・建築賞も受賞。広い建物内には、商品の販売スペースやカフェだけではなく、製作活動に没頭できるようなアトリエもあるという。
「障害のある人の選択肢を増やしたい」の想いを支える人とのつながり
誰もが好きなことや得意なことを活かした仕事ができる、しかも明るく開放的な空間で-そんな高い理想を掲げても、なかなか実現できるものではない。ここではなぜこのようなことを実現できるのか。「建物を建てるにあたり、館内のサイン類や什器の導入に関して、いろんなデザイナーやクリエイターの方に関わってもらうことを意識しました。いいデザインにするというのも、もちろん大事なのですが、それと同じくらい、共感を抱いて『関わってくれる人を増やす』ことを大事にしています」と話す三輪さん。
『関わってくれる人を増やす』という心がけも、よくあるようでなかなか実現できるものでもないがー。その秘密は、その活動の歴史にある。支援団体である奈良たんぽぽの会が発足したのは、今から約50年前、1973年のことである。
当時、障害のある人が学校教育を卒業した後、働き、活動できる場の選択肢が今よりももっと少ない状況にあった。そんななか、「重い障害があっても学んだり遊んだり、安心して暮らせる場所をつくりたい」と、当事者や家族、それに共感した一般市民が中心となり『たんぽぽの家づくり運動』がスタート。
1976年には、その活動の一つ、「第1回わたぼうし音楽祭」が開催された。障害のある人の詩にメロディーをのせて、歌や演奏を楽しむイベントである。以来、その輪は全国に広がり、活動に共感する人々や地域が増加。今年、47回目を迎えるという。
そんな全国的な活動を続ける中で、知り合った人たちとのご縁を大切に、人のつながりごとに新しい風を取り入れてきた。
2004年には、日本で初めて障害のある人のアートスタジオやギャラリーが併設されたコミュニティセンター、「たんぽぽの家 アートセンターHANA」がオープン。
そこでは絵画や立体造形、テキスタイルなど、さまざまなアーティストの作品の製作や展示を続けていた。「この作品を使った商品を作りたい」という企業とのつながりも生まれ、表現活動が「仕事」につながっていくことが増えてきたという。
こうして、アートを仕事にするための活動拠点が必要となったころ、理念に共感した人から広い土地の寄贈を受けたことをきっかけに、2016年、Good Job!センター香芝が生まれたのだ。
三輪さんは、施設がめざす3つの目標についてこう話す。
「1つは、アートやデザインによって、それを活かしたいと考えるデザイナーや企業とつながり、新しい仕事をつくっていくこと。2つめは、いろんな人が活用できる“プラットフォーム”となること、3つめは、障害のある人が福祉サービスの受け手となるだけではなく、得意なことや好きなことを活かして社会に還元できる仕組みをつくることです。」
「読んだことを誰かに話したくなる」それが新たなつながりをつくる
そんなGood Job!センター香芝の入り口付近、誰でもすぐに手に取れる場所に、雑誌『ビッグイシュー日本版』が置かれている。施設内で運営しているカフェでは、閲覧用の雑誌も置いてあり、試し読みもできるようになっている。「元々、Good Job!センター香芝で働いていた職員が、ビッグイシューでのボランティア活動を志望したことを機につながりができました。こちらとしても、働くメンバーにもビッグイシューの仕組みを知ってもらい、ビッグイシューとつながるきっかけをつくりたいと考えました。施設内では製作物の販売も行っているので、ぜひ一緒に取り扱えたらと、委託販売の問い合わせをしたんです。2018年のことです。」
「入荷すると、まずみんなで記事を読みます。それから紹介用のポップを作ったり、施設のSNSで発信。SNSでは、特集記事の内容に触れたり、メンバーが興味を持った記事を紹介したりと、自分の言葉にして発信してくれているんです。それから、週に1回きてくれるボランティアの方も、ビッグイシューの発売をとても楽しみにしてくれています。雑誌をめくりながら『勉強になるわ〜』と呟いていたり、読んだことを誰かに話したくなるようで、『こんなん書いてるよ』と、周囲の人に教えてくれているんですよ。」
“ここにいない誰か”のことを考える。そのきっかけになってほしい
メンバーやスタッフのみなさんについて、穏やかに語る三輪さん。ビッグイシューを取り扱う上での、こんな想いも語ってくれた。「こちらではたくさんの冊数を仕入れているわけではないのですが、日々、「自分の周りのこと」になりがちななか、障害のあるメンバーやスタッフにとって、ビッグイシューにふれることが、 “ここにいない誰か”のことを考える時間をもつきっかけになってくれたらと思っています。」
ビッグイシューの委託販売を検討している人へ、最後に一言。
「ビッグイシューを置くようになって、それがきっかけで来てくれる人も増えましたし、何より、話が広がり、コミュニケーションが生まれていると感じます。その瞬間、周りがちょっとだけでも平和になる。委託販売を受け入れていることが、自分たちのためにもなっていると思います。」
取材協力:屋富祖ひかる
写真:Good Job!センター香芝
Good Job!Center KASHIBA
〒639-0231 奈良県香芝市下田西2-8-1
Tel:0745-44-8229
Fax:0745-44-8230
※JR香芝(かしば)駅より徒歩5分。近鉄大阪線下田(しもだ)駅より徒歩7分。
HP http://goodjobcenter.com/
オンラインショップ https://goodjobstore.jp/
ビッグイシューの委託販売について
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/
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『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として“雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。