東京電力の旧経営陣4 人に対して総額13 兆3210 億円の賠償を命じる判決が出た。東京地裁(朝倉佳秀裁判長)の2022年7月13 日の判決である。訴えたのは東京電力株主の有志たちだ。「経営陣たちは福島原発事故を引き起こした責任があり、会社に損害を与えた」として、事故による損害額22 兆円の賠償を求めたのだった。提訴は2012 年3 月5 日。10 年越しに勝ち取った判決に原告らは「満点判決」と評価した。
7月13日報告会(参議院議員会館)東電株主代表訴訟 HPより
株主有志が2012 年に提訴
事故関連支出は推計22 兆円
賠償額22 兆円は政府が福島原発事故による損害として認定した金額である(2016 年12 月)。被災者への賠償、廃炉・汚染水関連費用、除染費用、中間貯蔵費用の将来に発生する分も含めての推計だ。しかし汚染水の海洋放出や溶けた燃料デブリの取り出しなど、廃炉費用の不確実性を考えれば、この程度で済まないだろう。それはともかく、判決の総額はそれらのうち現在までに支出した費用の合計である。
賠償額は前代未聞の多額であり、経営陣の責任を認める判決も電力関係では初めてのことだった。賠償責任を負ったのは勝俣恒久元会長、清水康隆元社長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長の4 人である。武藤氏と武黒氏は原子力部門のトップだった。
事故は敷地高を超える津波により電源系統が浸水して、原子炉の冷却ができなくなり炉心溶融から水素爆発に至った。そこで、敷地高を超える津波が予測できたか、またそれに基づく回避策によって事故を防ぐことができたかどうかが最大の争点となった。
巨大地震と津波への対策取らず
管理者としての注意義務違反
政府の地震調査推進本部(以下、推本)は2002 年に長期評価を公表し、東北地方の太平洋側に巨大地震と津波が起きる可能性を示した。原子力安全・保安院(当時)は東電に具体的な評価と対応を求めたが、東電は対応しなかった。08 年になると東電内部でも、福島第一原発を襲う津波が15 mを超えるとする評価結果が出ていた。これに対し武藤氏は直接の対策を指示せず、土木学会に再評価を依頼する対応をとった。
勝俣氏と清水氏は「原子力部門が対応すべきで自分らに責任はない」と主張。武藤氏と武黒氏は「推本の評価は信頼に足るものではないので、これに基づく対応を取らなかったとしても責任はない」と主張していた。
判決はまず原発は万が一にも過酷事故(※)を起こさないように最新の知見を活用して対策しなくてはならないと強調した上で、「専門家を集めた推本の評価は信頼できる」「土木学会の評価結果を待つとしてもその間、建屋の浸水を防ぐ水密化などの津波対策工事が可能であり、それを行っていれば、事故を防ぐことができた」と判断した。
※原発施設などにおいて異常事態が発生し、炉心を冷却・制御できず炉心溶融や格納容器の破損に至る事象
※原発施設などにおいて異常事態が発生し、炉心を冷却・制御できず炉心溶融や格納容器の破損に至る事象
武藤氏や武黒氏は取締役として指示すべき津波対策を怠った。また、勝俣氏や清水氏は、津波対策の先送りに合理性があるか確認すべきところ、これを怠った。4 人は会社法が定める管理者として注意すべき義務に違反した(善管注意義務違反)と断じた。
23 年1 月には東電の刑事事件の高裁判決が予定されている。地裁判決は、東電旧経営陣に刑事責任はないとしたが、今回の判決が何らかの影響を与えると考えられる。
(伴 英幸)
(2022年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 438号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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