東日本大震災の際に、避難区域からペットたちを救出する活動をした人たちの存在はニュースなどで取り上げられたが、他国の戦争・紛争における動物支援活動には光が当たりにくい。ウクライナでの動物保護活動を追ったチェコのストリートペーパー『ノヴィ・プロスター』誌の記事を紹介しよう。
ハリコフの犬/Sarah Ashton-Cirillo/iStockphoto
ロシアのウクライナ侵攻以降、国連によると1200万以上の人々が自宅を離れざるを得ない状況が続く。おかげで、飼い主にやむなく見捨てられ、行き場をなくしたたくさんのペットたちがいる。「廃墟となった家で、もう戻って来ない飼い主を待っている動物がたくさんいます。爆発で目や耳がやられてしまい、自分の身に何が起きているか分かっていないのかもしれません」と語るのは、チェコ拠点の動物救助団体「アニマルレスキュー・ウクライナ」のメンバー、ユリヤだ。
戦争開始以降、同団体では何万匹もの動物を救助し、5トン以上のエサを被災地に届けてきた。そもそもペットは人の手がなければ生きていけないのだから、ケガ・火傷・寒さに苦しむ動物たちの支援活動はとりわけ重要だ。しかしその活動は、長引く戦争や厳しい寒さ、さらには法律にも妨げられているという。
複数の動物保護団体によって急遽立ち上がった「アニマルレスキュー・ウクライナ」
この取り組みは、ロシアによる侵攻開始からまもなく、複数の動物保護団体が結集して始まった。動物保護施設バルボスの所長とともに、ウクライナ各地にボランティアのネットワークをつくったユリヤは、「急遽結成されたチームですが、エサの配給など、諸外国の団体にも引けを取らないくらい効率的に支援を展開できています」と胸を張る。被災地域からの避難、保護施設の手配、動物の輸送、「国境なき獣医師団」による無料診療なども行っている。連絡はSNSで取り合い、支援先確認も抜かりない。「おかげで、あまり費用をかけずに、スピーディーかつ効果的な支援ができています」とユリヤ。
Courtesy of Pomoc zvířatům UA (Animal Rescue Ukraine)
動物保護施設だけでなく、路上をさまよう動物たちにエサを与え続けている個人や、ペット同伴で避難生活を送っている人たちにも支援を届けている。「爆撃から守るため、動物を地下室にかくまっている人たちも少なくありません。食料を探しに出て、帰らぬ人となった人もいます……」。ただでさえ厳しいウクライナの冬を動物たちが生き抜けるよう、個人や国内企業から物資や飼料の寄付が届く。国際的なNPO、基金、慈善団体も活動を支援してくれている。ただ開戦当初と比べると人々の関心は薄れつつある、とも同団体は感じている。
足かせとなるチェコの法律、動物支援団体は「人道支援団体」と認められない
しかしチェコの法律では、動物支援団体は「人道支援団体」と認められていない。戦争開始直後に同団体からも働きかけたが、事態は変わらなかった。「そのため、戦地で活動するボランティアの安全確保や、国境を渡る際の交通が課題になっています」とユリヤは言う。人道支援団体と認められれば複雑な手続きも効率化できるが、現在は国境で何十時間も待たなければならず、支援物資の運搬中に命を落とした人もいる。「大きな危険と隣り合わせのなか、支援を届けるべく、100名以上のボランティアが命がけで活動しています。彼らのすさまじい勇気には、感謝してもしきれません」加えて2022年3月中旬、ウクライナからチェコへの動物の移送が禁止された。「国に許可を求めましたが、答えはノーでした。私たちと協力して、チェコ国内での支援が可能になるような方策を模索しようともしていません」。そのため同団体は、ウクライナ国内のハルキウ、ザポリージャ、ミコライウなど、大きな被害が出ている地域の動物保護施設での支援に注力している。「ご存じの通り、再び多くの地域が攻撃にさらされているので、運搬手段の変更やボランティアの安全確保に柔軟に対応したいと思っています」 。とはいえ、戦争の長期化・激化で保護すべき動物の数は増え続けている。保護施設には空きがないなど、状況は困難を極めている。「人であれ動物であれ、助けられる人が助ける。その策を模索することは、人としての道徳的義務のはず」と、ユリヤは法制度の理不尽さに苦言を呈する。
犬猫以外の動物、家畜、海洋動物
現在は犬や猫の保護に取り組んでいる同団体だが、今後は馬や豚など家畜のサポートにも力を入れたいと考えている。「飼育者を失い、重傷を負って路上をさまよう家畜たちも助けていきたいです。家畜保護施設も複数ありますが、十分なキャパシティがありません」戦争で命を落とした動物の正確な数を知ることは難しいが、その数が日々増加しているのは間違いない。ペットや家畜だけでなく、オオカミやイノシシなどの野生動物を含めると、何万もの動物に被害が及んでいるだろう。「戦争の影響は海の生き物にも及んでいます。水中爆発や潜水艦の超音波探知機によって、海洋動物の距離や方向などを知る能力(反響定位)が損なわれているのです」。黒海では、戦争開始から5千頭ものイルカの死体が見つかったとも報じられている*1。「死傷した海洋動物の総数は、想像を絶するでしょう」 とユリヤ。
*1 More than 5,000 dolphins die in Black Sea as a result of Russia’s war
過去の戦争でも、膨大な数の動物たちが不幸な運命をたどってきた。第一次世界大戦中には、馬、ケッテイ(ウマ科の雑種動物)、ラクダ、雄牛が50万頭近く命を落としたとされている(英国動物虐待防止協会の推計)。第二次世界大戦初期の英国では、空襲や資源不足を恐れた人々によって、ざっと75万匹の犬猫が殺されたともいわれている。戦争に苦しめられるのは人間だけではない。そして動物の場合はとかく、その死や支援の必要性が忘れられがちだ。
By Mariana Petřáková
Translated from Czech via Translators without Borders
Courtesy of Nový Prostor / International Network of Street Papers
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