有限会社ビッグイシュー日本では、ビッグイシューの活動やホームレス問題への理解を深まるため、高校や大学へ出張講義をさせていただくことがあります。
ビッグイシュー日本スタッフ・吉田と、販売者の近藤さんが向かったのは、大阪府立桃谷高等学校。前回から2年ぶりに、定時制課程に通うみなさんにお話する機会をいただきました。


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困った時に「助けて」と伝えることが大事

はじめに吉田より、雑誌『ビッグイシュー日本版』のバックナンバーや『路上脱出生活SOSガイド』を配布し、内容を紹介していきます。『路上脱出生活SO Sガイド』は、認定NPO法人ビッグイシュー基金が作成しており、路上生活から抜け出し、自立した生活をするために必要な情報をまとめた冊子です。

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吉田は、どのようにホームレス状態になっていくのか、ホームレス状態に陥るパターンや背景は、人によって様々であることを説明。一度ホームレス状態になると、1人では抜け出しにくい社会構造であること、何度でもやり直せる社会の仕組みを作っていくことが必要であることもお伝えしました。

「安定している仕事をしていても、少し歯車が狂えばホームレス状態になりうる。頼れる人がいなくなって、健康ではなくなって、仕事がなくなると、ホームレス状態になってしまうんです。だから、困った時には『助けて』と言うことが大事。でも困った時、どこに相談していいかわからないという声も多い。『路上脱出生活SOSガイド』には、どこに相談に行ったらいいか、炊き出しの場所や、医療が必要になった時の窓口なども書いてあります。そうした情報がなるべく行き届くようにいろんな場所でお渡ししています。いろんな支援団体がサポートしてくださっているので、こうした仕組みが充実した社会になれば安心かなと思います。」

路上脱出・生活SOSガイド

販売者の体験談「自転車操業のような生活。頼るわけにはいかないと思った。」

兵庫県・西宮北口駅でビッグイシューを販売している近藤さんは、和歌山県出身で、小学生のときに大阪へ転居。父親はサラリーマン、母親も共に暮らし、近藤さん曰く「普通の家庭」で育ったといいます。高校卒業後、1年浪人して大学へ進学。大学時代はバブル経済が崩壊する前であり、いわゆる「売り手市場」での就職活動だったそう。就職先はスムーズに決まり、卒業後はコピー機の製造・販売を行う会社の正社員となりました。入社後は、商品管理や製造の部署を経験しますが、徐々に会社の様子が変化していくのを感じたといいます。

「コピー機が倉庫に溢れ、売れていない状態だったんです。生産数だけでなく、従業員も減らさなければならない雰囲気を、現場で感じていました。所属していた製造部の人数も減らすことになって、営業部に異動になったんです。製造部の仕事があっていると思っていたんですが、異動したら外回りで飛び込み営業をしなければいけなくなったりして、きつかったですね。『売れてないのに、給料をもらってる』と思うと居づらくなりました。」

退職後、電機系の製造会社に正社員として再就職しますが、人間関係に疲れてしまい、退職にいたったそう。その後は派遣社員として転職を繰り返します。

「会社によっては、締日から給与がもらえるのが1ヶ月後だったりしますよね。本当にお金がなくなってくると、派遣の仕事だと日払いとか週払いの仕事があるので助かるんですよ。でもそういうところって、3日とか1週間しか仕事がなくて、長期の仕事がないんです。そうなると、結局お金が残らない。自転車操業のようで。だんだんお金がなくなって、家賃が払えなくて、家も出るしかなくなりました。」

親しい友人を頼り、借金や居候をさせてもらうなど、何とか生活を回していこうと考えた近藤さんでしたが、長らく頼るわけにはいかないと、程なくして路上生活に至ったといいます。

「初めて路上で寝たのは、京阪守口駅の駅前のベンチ。広くてひらけていて、安全かなと思ったんです。恐怖心もあって、夜は駅前のベンチでも眠れなかったですね。怖くてなかなか眠れないので、昼間に図書館で眠ったりしていました。そういう生活をしているうちに、梅田でビッグイシューを販売しているのを思い出したんです。」

こうしてビッグイシュー販売の仕事につながった近藤さん。

「販売してよかったことは、いろんな常連さんと知り合えたことですね。優しくて、真面目な方が多いなと。悩みごとを話してくれる人もいらっしゃいます。そういう関係がつくれたのは、よかったなと思います。最初は恥ずかしかったですね。『何の本かな?』と、じっと見られたりするので。」

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「こういう不況のなかで450円の雑誌を買ってくださることが本当にありがたいと思います。お客さんには丁寧に対応したいですね。あとは清潔を心がけるなど、とにかく不快感を与えないように気をつけています。」

高校生からの質問「炊き出しを利用することもありますか?」

続いて、会場からの質問のコーナー。ホームレス状態を経験した近藤さんへ、どんなふうに生活をしていたのか、質問があがりました。

Q.食事は炊き出しなどを利用するのでしょうか?

近藤さん「販売が終わってスーパーへ行くと、半額のお弁当などがあるので、それを買って食べていますね。ホームレス状態の時は、両親や親戚は頼れなかったのですが、友人は多いほうだったので、友人にも頼ることはありました。」(近藤さんはホームレス状態から、ビッグイシュー販売の仕事でコツコツお金を貯め、今はアパートに入居できています)

Q.携帯電話は持っているのですか?

近藤さん「お金がなかった一時期は持っていませんでした。でも、携帯電話がなかったら、仕事をすることはほとんど無理。連絡先がないからと、面接へいってもほぼ断られていましたね。」

吉田「連絡先がないと採用にはなりにくいことが多いので、食費を削ってでも携帯電話代は切り出すという方、多いですね。ビッグイシューの仕事は、携帯電話がなくても始められますが、就職活動には必要になるので、ビッグイシュー基金や他団体と連携しながら携帯電話を持つための支援をしています。」

Q.生活保護を受けるという選択肢はなかったのでしょうか?

近藤さん「生活保護を申請すると、扶養照会をされるんです。それが嫌でした。」

吉田「扶養照会というのは、親や親類の方に行政から連絡をして『この人を養えませんか?』と確認をする制度。親や兄弟に今の自分の状況を知られたくない人は、扶養照会をされるのではと恐れて生活保護を利用しないことも実は多いです。」

「なんぼ強がっても、1人で生きるのは無理だと思った」

最後に、近藤さんからみなさんへこんなメッセージが。

「これから就職される方もいらっしゃると思うのですが、自分のやりたくないことを無理してやらないことが大事かな。昔は『大きな会社に入って安定しなければならない』という考えも強かったと思いますが、『こうあらねばならない』という考え方は、今はしなくてもいいんじゃないかな、と。仕事は好きなことをやるのが一番かなと思いますね。」

吉田「ホームレス状態を経験する前と後で、考え方は変わりましたか?」

「だいぶありますね。人間は1人では生きていけないなというのがわかりました。なんぼ強がっても、1人ではやっぱり無理だなっていうのを、(ホームレス状態を経験して)より痛感しました。今でもそうですけど、いろんな人の支えがあって生きてこれたなと思います。」

「ホームレス問題を、自分と地続きの問題として考えてほしいと思った」

今回、講演を企画してくださったのは、山本先生。ビッグイシューの出張講義を依頼したきっかけについて聞いてみました。

山本先生「人権について学ぶ授業にキャリア教育の要素も取り入れたいと考え、今回の講演を企画しました。

この授業の対象が卒業予定の4年次生が多く、進路を考えるタイミングでもあり、たくさんの人の価値観や思考へ触れてもらいたかったのも背景にあります。生徒が進路を考えるタイミングで、路上生活経験者のお話を聞くことで、ホームレス問題を自分と地続きの問題として捉えてもらえる気がしました。自分もホームレス状態になる可能性があることや、どのような支援があるかを学ぶことはもちろん、日常では関わらない人にも、それぞれの考えや生活があるという実感を持つことが、社会参画につながるのではないかと思います。」

「生徒からは、感心した・面白かった・近藤さんたちを尊敬する、といった声や“こうでなくてはならないという考えにとらわれすぎないことや、本当の友達と出会うことの大切さを感じた”という反応があり、生徒なりの気づきや学びがあったのではと感じています。」

取材・記事:屋富祖ひかる

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「生活保護」は、働いていても、若くても、持ち家があっても、車があっても申請可能です


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ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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