有限会社ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、日本有数の進学校である筑波大学附属駒場中・高等学校。ビッグイシュー日本東京事務所長の佐野未来とビッグイシュー販売者がお伺いし、高校2年生の計4クラスの生徒の皆さんにお話させていただきました。
この記事では、講義のエッセンスをお届けします。
「何があっても支えてくれる」と思える社会をめざしたい
はじめに佐野より、ホームレス問題について「ホームレス状態になるまでには、人によって背景はさまざま。100人いれば100通りのストーリーがあって、100通りの抜け出し方が必要だと思っています。」と説明。続けて、ホームレスの定義やカウントの仕方についても課題を指摘していきます。“日本のホームレス人口は、年々減っていると言われています。ビッグイシューを立ち上げた2003年頃は、全国に25,296人以上の方が路上生活をしているとカウントされました。
*ホームレスの実態に関する全国調査報告書の概要 (mhlw.go.jp)
2007年には18,564人、そして2022年には3,484人にまで減ったという結果が厚生労働省の調査でわかっています。すごいですね。
でも一つ危惧しているのはカウント方法。屋外で生活している人を目視で数えるというのが、現状の調査方法です。
でも、私たちの肌感覚としては、ネットカフェ、ドヤ、サウナなどへの宿泊を繰り返して生活している人たちが増えていて、そういう人たちもホームレス状態なんじゃないかと思うんです。
お金がある時にはネットカフェだけれど、ないときは路上生活。そういう人を今、厚生労働省はホームレス状態だとカウントできていません。簡単ではないと思いますが、そこをカウントした上で施策を立ててほしいと伝え続けています。”
“この仕事を始めて20年。始める前はどこかで、自分はホームレス状態にならず、なんとか生活できるだろうと思っていました。でも、“もう一度やり直したい”という数百人の方の話を聞いていると、『この人がホームレス状態になってしまうなら、自分もそうなってもおかしくない』と思うようになりました。
そういう社会の状況を変えていきたいと思っています。これから未来を背負う人たちが『なんかあったらホームレスになるからやめとこう』じゃなくて、なにがあってもこの社会は支えてくれるから、家族がいなくても、1人でも何回だってやり直せるんだと思える、そういう社会になればと思います。”
と、活動への思いを語りました。
家計を支えた学生時代。販売者・ヤマノベさんの半生
続いて、高田馬場駅にてビッグイシューを販売する東北出身のヤマノベさんの半生を語るコーナー。ヤマノベさんの父親は自営業を営んでいましたが、病気になったことを機に廃業。
ヤマノベさんは家族の抱える借金を返済するべく、中学生から新聞配達やガソリンスタンドでのアルバイトをはじめ、家計を支えていました。高校を卒業しすぐに就職しますが、勤務先で大きな事故を起こし、免許が取り消しになる事態に。地方では運転免許がないと移動もままならない状況であることから、父方の祖母を頼り東京に出てきたそう。高度経済成長期の真っただ中、建築現場にて日雇いの仕事を始めますが、時代の変化とともに、業界では資格や専門性を求められるようになり、仕事は減少。収入も減り、路上生活を余儀なくされた経験を語りました。
*ヤマノベさんの体験談はこちら
佐野:「ちょうど日本経済が右肩下がりになり始めて、仕事が減っていった時代ですよね。」
ヤマノベさん:「仕事があるときは飯場(鉱山や大規模な土木・建築工事現場近くに設けられた、作業員用の給食および宿泊施設)で過ごして、帰ってくると、稼いだお金でサウナや漫画喫茶で生活していました。」
佐野:「ビッグイシューにつながったきっかけはなんだったんでしょう?」
ヤマノベさん:「上野から新宿の中央公園に炊き出しがあるので、そこに向かっていた時に、靖国通りにビッグイシューの販売者がいて。僕はビッグイシューの存在は知っていたんですが、『どうせ売れないだろう』と思ってたので、ずっと無視してたんです。でもそのとき話した人の対応がすごく良かったんですね。きちんと場所と連絡先を教えてもらって、『とりあえずなんもなくても、行って話してごらん」って声をかけてもらって。電話をして、次の日いらっしゃいってことになって、登録しました。」
佐野:「販売されてみてどうですか?」
ヤマノベさん:「正直『買う人もいないだろうな』と思ってやってたんですけど、割と買っていただける方がいて。それでご飯を食べたりできるようになりました。」
佐野:「ご飯は食べられたけど、それだけで生活するというのは難しかった?」
ヤマノベさん:「そうですね。なかなか毎日泊まって、食事をして、洋服を買ってっていうところまではいけなくて。次の日も仕入れをしなきゃいけないというのもあったし、季節的にまだ路上で寝られたので、食事と、雑誌の仕入れ代に回してというのを優先してましたね。」
もう一度、自分の部屋を借りて住みたい
佐野:「体調を悪くされたこともありましたね。」ヤマノベさん:「事務所で具合が悪くなって、救急搬送されて。戻ってきて8日後にまた具合が悪くなって。たまたま警察署の前だったので、お巡りさんが救急車呼んでくれて、また医療につながりました。そこで一旦、ビッグイシューを離れる感じでした。」
佐野:「そのときは一命を取り留めたという感じで。ご本人は嫌がっていたのですがスタッフに説得されて生活保護を利用して、医療につながって。本当によかったなと思っているんですけど。その後、その病気は治らないってことがわかったんですよね。」
ヤマノベさん:「そうです、一年半くらい病院を行ったり来たりしたんですけど。脳の血管に問題があって完治が難しい病気だということで、食生活と、日常生活をうまく気をつけながらやってみましょうかという感じですね。」
ビッグイシューの販売を続け、1人暮らしのために貯金も始めていたヤマノベさんでしたが、病気の発症をきっかけに、1人暮らしを一度断念。ケースワーカーと相談し、具合が悪くなったときすぐに対応できるよう、施設に入所していました。
ヤマノベさん:「食べることと、寝ることは更生施設でできます。でも、認知や排泄などの問題など、一人で生活するのが難しい方や、集団生活やコミュニケーションが苦手な方々と一緒に生活するのがしんどくなっちゃって。1年8ヶ月くらい生活したんですが、発作のリスクがあるとしてもやっぱり1人暮らしがしたいと。もう一回、ビッグイシューでやっていこうと決意しました。今年は寒いので、体はしんどい時はありますが、精神的には楽というか。がんばった分だけ食べて、という感じで、このサイクルの方がいいなという感じはします。」
佐野:「今後の目標はありますか?」
ヤマノベさん:「(認定NPO法人)ビッグイシュー基金のプロジェクトに参加して、もう一度自分の部屋を借りたいというのは、あります。」
*ビッグイシュー基金のステップハウス事業
ホームレス経験だけではなく、難病を抱えながらもビッグイシューの販売を続ける当事者からの言葉に、皆さん真剣に聞き入っている様子でした。
次の記事では、筑波大学附属駒場高校での質疑応答の様子をお届けします。
記事作成協力:屋富祖ひかる
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参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。