有限会社ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。
今回は筑波大学附属駒場中・高等学校の高校2年生の皆さんへ、ビッグイシュー日本東京事務所長の佐野未来と、販売者がお話させていただきました。
佐野よりホームレス問題の解説や、雑誌『ビッグイシュー日本版』の仕組みを紹介し、販売者の体験談を語ったあとは質疑応答の時間。率直かつ深く考えさせられる質問がいくつもあがり、真摯に対話をする販売者ヤマノベさんと生徒さんたちの姿がありました。
Q:ホームレスになって傷ついたことはありますか?
ヤマノベさん:「通りでくすくす笑われたり、指さされたりすることはよくあります。いいように言われることはまずないので自分のことは気になりません。でも、家族のことは好きじゃなかったんですけど、それでも家族のことを言われるとしんどいことはありますね。」Q:貯金はできていますか?
ヤマノベさん:「体を壊す前は貯金ができていたんですが、電気代の高騰などでネットカフェなどの値段が上がってしまい、今はなかなか貯金ができていないです。でも、ビッグイシューで積み立てのしくみがあるので、売上が良かった時にはそこで貯金するようにしています。」*認定NPO法人ビッグイシュー基金の「ステップハウス」事業では積み立てたお金を、アパートに入居する時に本人にお渡ししています。
Q:生活保護費を搾取するような支援団体もあるのでしょうか?
ヤマノベさん:「以前は炊き出しの場などに、仕事をあっせんしてくれる手配師がいて仕事を紹介してくれたものですが、いまは生活保護をあっせんする団体が多いです。そういう団体の中には、誰でもいいから一人生活保護の需給を増やせば利益になるので“ご飯食べて寝てればいいよ”と誘う人もいるようです。」Q.ヤマノベさんにとって、人生の幸せってなんですか?
ヤマノベさん:「人にとっての幸せって、それぞれ違うと思うんですけど。家族とはあまり縁がなかったこともあって、やっぱり自分の部屋を持てたら、ちょっとは幸せかなと。人によって、ゴールって違うと思うんです。皆さんがこれから結婚して、子どもができて、おじいちゃんになって天命を果たすっていうのが、もしかしたら幸せ感があるのかなと思いますけど、僕はちょっとだけ小さくても、自分の場所を持てたら幸せかなと思います。」
Q.“親ガチャ”という言葉をどう思いますか?
ヤマノベさん:「事前にいただいていた質問のなかで一番難しくて、ずっと考えていました。虐待されるような子どももいるけど、子どもは親に与えられたものを着て食べるしかない。親は子どもを手放す選択肢もあるかもしれないけど、子どもは親を選べない。だから“もうしょうがない、このままいくしかない”っていうふうに生きてきました。」
―今振り返って、親を選べたらよかったと思いますか?
ヤマノベさん:「当時、もらってたお小遣いやお昼代とか、明らかに他の人とは違っていたし、中学1年生から新聞配達とかやらなきゃいけない状態だったので、『なんでかな』『この家じゃなくて他の家に生まれてたら』とは感じていました。
大学に行く選択肢もなかったので、もし大学に行くことができていたら、ここで皆さんにお話するような状況になっていただろうかと思います。
ただ、東日本大震災があって、友達から実家のあったエリアについて『もう家がほとんどないよ、その地区は』と聞いた時から、あまり考えてもしょうがないと思うようになりました。」
Q .生活保護を受ける人が少ない理由は?
佐野:「ビッグイシューの事務所に相談に来て初めて生活保護という制度を知って受給する方もいますし、知っていても、一番大きなハードルになっているのが“扶養照会”という制度*。『その人を養うことができますか?』と、親やきょうだいに行政から問い合わせるんですね。
そう聞かれて“扶養できる”と回答するのはまれなんですが、窓口で『扶養照会をします』と言われると、例えばDVを受けていて身を隠している人はそのことで危険な状況になる場合もある。暴力を受けているなどがなかったとしても、家族と関係がよくない人は、家族がそのときは『養います』と答えたとしても、実際に帰ってみたらまた放り出されるっていうのも、よくあるパターンなんです。家族に連絡が入って、迷惑になるならもう利用しないで、自分で頑張る、と。それはすごく大きいハードルですね。
あとは、生活保護の窓口でされる説明が難しくて諦めて帰ってきちゃう人もいれば、過去に貧困ビジネスに騙されてひどい目に遭い、何も信じられなくなってしまった人など、本当に色々あります。」
*参考記事:3人に1人は「家族に知られるのが嫌」で生活保護を利用しない。困窮者を生活保護から遠ざける扶養照会とは
Q.実際、誰のせいでホームレスになったと思いますか?
個人的には、自己責任だと思いつめなくてもいいと思うのですが。
ヤマノベさん:「これも人それぞれ考え方があると思いますが、僕は自己責任の部分もあるかなと。親とかきょうだいのことがあって、それを避けてて、コミュニティも少なくなっていったので…それを避けないで、ぶつかっていたら、ちょっとは違ったのかなとは思います。」
ー避けたのは昔の自分であって、その時の判断を今の自分が否定するのはどうなんでしょう?
過去にした選択が今存在している自分や世界に繋がっているのだから、その選択は間違いじゃないはずなのに。
佐野:「日本ではホームレスになるのは自己責任だって多くの人が思っているけれど、そう思わせられる社会ってなんなんだろうっていつも思います。ホームレスになってしまったけれども、過去は間違いではないし、いくらだってやり直せるし、自分はそれでいいんだって思えるのがベストだと思います。そう思える人は素晴らしい。
でも、そういうふうに思えない人生を送ってきた人がたくさんいて、辛いなって思います。ヤマノベさんは、“自己責任。家族とぶつかればよかった”って言ってるけど、実はすごく大変な家庭で、子どものときから親の借金を背負って働いていて。でも、それがなんで自己責任なんだろうって。」
ヤマノベさん:「そのとき、楽なほうを選んだわけではなくて、ただ他に選択肢がなかったんです。 もう一度戻っても、当時の状況だとそうするしかない。もうちょっと頑張れば…という気持ちがだんだんなくなっていく、こうするしかないんだと思って生きてきたんです」
Q.40年くらい前の高度成長期は、自然に給料も上がるような時代だったけれど、これからの日本社会、努力しても結果は出ないし見合わないことも多くて、貧困に陥る人が増えるんじゃないかと思います。佐野さんはどう思いますか?
佐野:「そうですね。このままだと貧困状態の人は増える可能性が高いし、貧困家庭に生まれて選択肢がない人も増えて、格差は広がり、社会状況は悪化するだろうと危惧しています。だけど、今だったらまだ、そこまで行かない方向に持っていけるんじゃないかなとも思っていて。社会状況や、人の生き方が変わっていくなかで、そこに合わせたセーフティネットを整備しておけばよかったのでは、と思うこともあります。それを怠った大人の責任は大きいなと。だけど、まだなんとかなるし、なんとかしなきゃいけない。今からでもきちんと解決するというのは、日本の大人が未来の人たちに向けてきちんとするべきところなのではと考えています。」
次回は、筑波大学附属駒場中・高等学校の生徒さんたちからの授業振り返りアンケート結果をご紹介します。
記事作成協力:屋富祖ひかる
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・(この記事の前編)中学時代から親の借金返済、そして難病…ビッグイシュー販売者が高校生に語った半生/筑波大学附属駒場中・高等学校へ出張講義
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。