パン屋さんから「営業時間内で売りきることができなかったパン」を卸してもらい、「営業時間外にパンを食べたいお客さん」に販売する「夜のパン屋さん」の取り組みをビッグイシューが始めて3年目。
photo:浅野カズヤ
自分の地域でも「夜のパン屋さん」のような活動をやってみたいという方のために、「夜のパン屋さん」事務局スタッフの光枝さんに話を聞きました。
Q:必要なものは何ですか?
「販売する場所」と「販売するパン」ですね。東京では、神楽坂・飯田橋・田町に3店舗があり、いずれも軒先などの場所をお借りする形で、全国22か所のパン屋さんからパンを仕入れて販売しています。
備品としては、パンを並べるテーブル、釣銭、可能なら看板やのぼりがあるとよいですね。
SNSでの広報ができるとよりよいと思います。
Q:パンを売る場所はどんな場所がいいですか。
また軒先を提供する形で協力してくれる店をどうやって見つけたらよいですか。
まずは人通りが見込める場所であること、それも販売時間帯である夕方~夜の人通りがあることが大切です。そして、お店の軒先などをお借りする形なので、雨や雪が降っても商品が濡れないように、庇(ひさし)があるところがベターです。
また、すぐ近くにパン屋さんがあるところは避けたほうが良いと思います。「こちら(本店)のパン屋さんが閉まっても、あっち(夜のパン屋さん)で売ってるから大丈夫だ」と思われてしまっては本末転倒なので…。
そのうえで、軒先などの場所をお借りするのは「フードロスを減らしたい」「困っている人に働く機会を提供したい」といった夜のパン屋さんのコンセプトに共感してくださる方だといいな、と思います。。儲けることよりも、そういう場所がまちに増えることを面白がってくださるような。
地域にそういう方がいたら打診してみたらよいですし、心当たりがない場合は、よさそうな場所のイメージを持ってここはどうかな?と打診していくことになると思います。
最近は、大学のゼミなどで、大学構内で学生さんがチャレンジされるケースもあるようです。
Q:営業日はどうやって決めたらいいですか。
まずは軒先を貸してくださる方のご都合が優先で、そのあとは働く人の都合でよいと思います。神楽坂は火・木・金の19:00~21:00、飯田橋は火曜の16:30~19:30、田町は水・木の17:30~20:00と、バラバラです。お客さんや卸してくださるパン屋さんのためにも、無理のないよう、いきなり頑張りすぎず、続けられるペースで始めるのが良いと思います。
Q:パンを提供してくれるパン屋さんはどうやって見つけたらいいですか。
夜のパン屋さんはそもそもフードロスを減らすためにやっている取り組みなので、廃棄が多そうなところから仕入れられたらと思うのですが、大きなチェーン店などは、たいてい営業時間が長く、閉店時間が夜中で取りに行けなかったり、1店舗の判断では参加できなかったりという難しさがあります。 一方、個人でやってるパン屋さんは「いいですね」と言ってもらえることは多くても、そもそもそんなにたくさんロスが出ないようにうまくやりくりされているということも多く、どこにご協力いただけるかはお話してみないと分かりません。なので、とにかく打診してみるという感じでやっていますね。ただパン屋さんもお忙しいですし、店主さんなどの判断できる方がお店にいらっしゃるとは限らないので、SNSのDMやメールなどでご説明・ご連絡してからお伺いできるとよいのかなと思います。
1号店のオープン前は、代表の枝元なほみが自身の人脈を辿ったり、飛び込み営業をしたりして、数多く打診しましたがほとんどのお店に断られていたと聞いています。いまはメディアにも出るようになったので、その頃よりは理解はしてもらいやすくなったのかなと思います。
Q:パン屋さんにお願いする内容としてはどんなことになりますか。
・表示ラベルの準備をいただくパン屋さんが自分のところで作ったパンを販売する分には原材料などのラベル表示をしなくてよいのですが、製造者と販売者が異なる場合は「原材料名」「添加物」「内容量」「賞味期限」「保存方法」「販売者」「製造者」をラベルとして商品に貼り付ける必要があります。 そのため、卸していただくパンには、必要事項が書かれたラベルを貼り付けていただく必要があります。
(詳細は最寄りの保健所にお問い合わせください)
・卸していただくパンの種類に制限があることに了承いただく
屋外で販売するということもあり、暑い時期はタマゴや生野菜などを使った冷蔵が必要なパンは販売できません。
・ピックアップが必要なときにご連絡をいただく
営業時間内で売り切れなさそうだなという時にご連絡をいただく形なのですが、あまりに数が少ないとピックアップに伺う交通費だけで赤字になってしまうことがあるので、ある程度数がたまるまで冷凍しておいていただくか、クール便で送っていただく場合もあります。
原則、定価の半額ほどで卸していただいていますが、都度の引き取りは納品書という形で、月末にまとめて精算させてもらっています。いろいろとお約束ごとはありますが、お取引を始める前にお店の方と打ち合わせをして、そのお店の一番負担が少ない形を一緒に考えて、スタートしています。
・寄贈するケースがあることもご了承いただく
また、夜のパン屋さんでは売り切れが続いていますが、もしも売れ残ってしまったときには、ホームレスの人にお声がけをする夜回りや生活困窮者の支援をする団体、子ども食堂などに無料で寄付させていただくことがあり、その分はお支払いができない旨もご了承いただいたうえで、卸していただいています。
Q:夜のパン屋さんの運営にはどのくらいの人数が必要ですか。
なんなら一人からでも始められますが、卸してくださるパン屋さんが増えてきたら、パンをピックアップする人も必要になってきます。売れ行きを見て少しずつ仲間を増やしていくとよいのではないでしょうか。
仲間が増えてきたら、会計やシフトをコーディネートする役割の人がいるとスムーズです。
Q:現場で働く人はどんなふうに集めていますか。
夜のパン屋さんの1号店を始めるときは、ビッグイシューの販売者に雑誌販売以外の“小商い”の選択肢のひとつとしてお願いしていました。ただ長引くコロナ禍によりアルバイト・パート先がなくなった学生さんやフリーターの方などに働きたいと言われることが出てきたりと、だんだん働く人の幅が広がってきています。
フルタイムで社会にコミットするのが難しい人やもう少し働きたいという方に「ちょっとした小商い」を提供するのも夜のパン屋さんが大事にしたいことではありますが、いかんせんこれだけで生活できるほど稼げるお仕事に、現時点はできていないことが懸念です...。
コミットできる人を広く募集するのではなく、お店に関わってくれる人の知り合いなどに少しずつお声がけしていただく形だといいかもしれませんね。
ちなみに、東京の夜のパン屋さんでは、パンのピックアップは1軒あたりの報酬をお支払いし、店頭に立っていただく方には場合は最低賃金よりほんの少し多い時給でお支払いしています。
なお雇用となると源泉徴収の計算や、国税庁の定めた雇用期間による税率の違いなども配慮した計算が必要なので、フードロス削減以外にも「働く場所を作る」ということにきちんと力を入れたいのであれば、経理や労務が得意なスタッフさんがいると安心だと思います。
Q:どんな支出がありますか。
パンの仕入れ、パンのピックアップにかかる交通費や送料、軒先利用させていただいている方への賃借料、働いてくださる方へのお給料などですね。いま私たちは22のパン屋さんとお取り引きしており、ありがたいことに最近は売り切れが続いていますが、まったく儲かっていはいないです(笑)
全部売れて、トントンくらい。
でも、儲けることはできないけれど、経済を回すことはできています。
そして誰も傷つくことのない、とても楽しい仕事ですよ。
Q:やりがいは?
雑誌『ビッグイシュー日本版』販売の場合は、路上で一人で販売するスタイルですが、夜のパン屋さんで店頭に立つ人は、みんなでわいわいと相談しながら販売することができます。効率や利益の追求が目的ではない場所で、ゆっくりと打ち解け、いろんなことを共有しながら、その人のやりたいことや「その人らしさ」がだんだん見えてくるというのはとても楽しい取り組みだと思っています。
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