野菜づくりを通じて、環境や体にやさしい「食」を届けるため、自然と向き合っている店がある。千葉県流山市にある「街を耕す八百屋&カフェ 真澄屋」だ。夫の吉田篤さんが野菜を作り、妻のまささんが八百屋を運営している。併設しているカフェの運営には娘のくるみさんが携わり、一家で野菜と関わっている。
環境を守ることも、自然食品店の大事な仕事のひとつ
今回は、真澄屋の開店までの経緯やビッグイシューとのつながりについて、吉田まささん、くるみさんにお話を伺った。40年以上前、インドやヨーロッパ各国を旅して回っていた吉田篤さんは、日本に帰国して改めて四季の美しさを実感し、自然や生き物を守りたいと考えるようになったという。どうやって自然を守るのか-その答えは、農業にあるのではと考えた篤さん。
畑を借りて無農薬栽培の農家だった知人ともにさまざまな野菜の栽培を始めた。始めた当時は、採れた野菜をリアカーに乗せ、街で引き売りするスタイルだった。
無農薬野菜の栽培を始めてしばらくした頃、農協で働く知り合いから「田んぼが余っている」と話を聞き、一反分の畑を借りて仲間と共にお米の栽培も始めた。
「田んぼって、機械がないと大変なんですよね。でも機械もないから、みんなで人の手で一生懸命やって…というところが始まりでした。そこから『ここの畑も空いてるぞ』『あそこも空いてるぞ』と、だんだん広がっていきました。」と、まささん。
こうして、「街と畑をつなぐ八百屋」をコンセプトに真澄屋が開店したのは、1981年のことだった。
「うちのような自然食品店って、環境を守ることも大事な仕事の一つだと思うんです。」とまささんは語る。
「農業を始めた当初、ソラマメにいっぱいアブラムシがついてしまって、しょうがなく、吟味していちばん弱い農薬を選んで撒いたけど、結局ソラマメは全滅してしまって。結局使わなくなったんだけど、ある日見たら(撒いたわけではないのに)農薬の瓶の周りに小さな虫が死んでいるのを見て、やっぱり使わないほうがいいかなって。」
それからは農薬を使わず、多品種の野菜を栽培し、収穫できたものを販売するようになった。
野菜の栽培も多様性がポイント、注力するのは「土」
「無農薬栽培だと、当然収穫する前に病気になるとか、虫が出てダメになることもある。同じ種類ばかりつくっていると、1種類がダメになったら全部ダメになるから、多品種作るようにしているんです。『この野菜はダメだったけど、これはいい出来だったぞ』って。夫は、常に新しい品種を多く作りたい人。冬はあずきとかね。選別は大変だけど、作っちゃうんだよね。」「うちの畑、本当に草だらけだよ。でも、草とも共存できるからいいなと思っていて。しっかり草むしりしてしまうと、土がどんどん乾燥して品種によっては育たなかったり。始めた頃は、とても売れるものではなかったよ。レタスも白菜も穴だらけ。とっても悩んだんだけど、土づくりを一生懸命やるようになったら、外側は穴だらけでも、中は綺麗に作れるようになった。それは、誰かに習うというより体で感じて覚えるしかないことだったなと思うんです。」
無農薬栽培ならではの大変さがありながらも、多い時には140種類もの野菜づくりをおこなっていた篤さんとまささん。季節の変わり目など収穫できる野菜が入れ替わる”端境期“である現在は、23〜24種類の野菜の収穫を予定しており、本格的な夏野菜のシーズンになると約50種類もの野菜が採れるそうだ。
これから農業を始める人へ『場所』より『意思』をつなぐ
流山地域は土地開発が進んでいる地域のため、吉田さんが借りていた畑も、約6割は開発で使えなくなったという。また、農業の担い手不足も全国的な課題の一つ。くるみさんは、「父は、誰かに農業を継いでほしいというより、自分が楽しいから野菜を作っているという人。もともと、畑は借りものですし、農業を教える活動もしているので、これから農業をしたいという人には『場所』よりもその『意思』をつないでいくイメージなのかな。」と語った。無農薬野菜と、ふつうの食卓をつなぐカフェ
2016年には八百屋と併設してカフェをオープンし、畑で採れた野菜や無添加の調味料を使った料理を提供している。くるみさんは「無農薬野菜の店や自然食品店のなかにもいろんなコンセプトのお店がありますが、うちは母と私で小さく運営しているので、庶民的に、生活に寄り添ったお店だと思います。たとえば、毎日全部をこだわりの食材…とは無理でも、『この野菜だけは無農薬のものを』『おしょうゆはこだわりのもので』と、無理のない範囲の選択をするお客さんが多いですね。」と語る。
「父は年間100種類以上の野菜を作っています。そのなかにはあまり馴染みのない野菜もあるので、カフェではそういう珍しい野菜を作って出して食べ方を示すとか、賞味期限があるものは調理して提供することで廃棄を減らす目的でやっています。
地域の方からも『この野菜ってこんな食べ方ができるのね』という声をもらうこともあります。家ではオーガニックのものは使わない方も、週に1度だけでもカフェで料理を食べてもらうことで『やっぱり人の手をかけたお野菜って美味しいんだね』と実感するきっかけになっているのかなと思いますね。」
店の「想い」とビッグイシューの記事はつながっている
真澄屋は、雑誌『ビッグイシュー日本版』の委託販売も行っている。「ビッグイシューを、お客さんが『これ、本として面白いから、お店に置いてよ』と言ってお店に持ってきてくれたのがきっかけでした。読んでみたら、内容がすごく面白いなと感じて、買ってもらうことが支援になるなら尚更いいなと思って、販売を始めました。」
「お客さんも、全員ではなくても社会課題に関心が高い人が多いですし、興味を持ってくれる方はいらっしゃいますね。都内に行かないと買えなかったり、近くで売っているところもあまりないので、遠方から買いにきてくれるお客さんもいます。お店では“食”を提供していますが、それがビッグイシューで取り上げている記事と繋がっている部分もあると思うので、お店に置く意義は充分にあるのかなと思います。」
最後に、雑誌『ビッグイシュー日本版』を取り扱おうか迷っているお店の方へのメッセージを。 「ビッグイシューを取り扱おうとするお店は個人店が多いと思うのですが、店主のもつ意識がお客さんとマッチしてくるのかなと思います。会話をしなくても、お店で取り扱っているものから価値観を感じ取ってお店とお客さんの関係が続いていくのかなと。なので自分が面白いと思うものを取り扱い続けることで、共感してくださる方、買ってくれる方は、必ず繋がってきてくれると思います。」
取材・記事作成協力:屋富祖ひかる
●街を耕す八百屋&カフェ 真澄屋
・住所 千葉県流山市平和台3−2−16
・TEL 047−159−5328
・営業時間
<真澄屋> 10時〜19時
<百笑カフェ おおきなかぶ>
ランチ 11時〜15時
カフェ 11時〜17時
・URL http://masumiya.info/
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●ビッグイシューの委託販売制度について
https://www.bigissue.jp/sell/in_your_shop/
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。