福島第一原発の廃炉で発生している汚染水を海へ捨てる計画が進行している。政府は“処理水”と言い換えたが、多核種除去設備(ALPS)で処理してもトリチウムを含む30種の放射性物質が取り除かれるわけではない。薄まるとはいえ、放出が始まるとそれら放射性物質の放出が30年以上続く。海洋環境が放射能で確実に汚染される。
放出始まると30年以上続く
太平洋諸国、中国・韓国は懸念
海洋放出には海外でも関心が高く、中国政府は反対の姿勢を崩していない。また、太平洋島嶼国フォーラム(PIF)も懸念を表明している。全米海洋研究所協会(NAML)や核戦争防止国際医師会議(IPNNW)なども反対の姿勢を示している。
懸念を示している韓国政府は日本へ現地視察団を派遣して安全チェックなどを継続しており、IAEAが6月中に示す最終報告を受けた上で判断するとしている。しかし、韓国国内では反対のうねりが起きている。釜山ではアースデイにあわせて今年4月20日に海洋投棄阻止を求める大きな集会があった。また、筆者は5月8日から10日まで韓国を訪問。済州島の道議会と海女さんたちのグループと汚染水海洋放出に反対する立場から講演を行なった。
道議会では6野党が合同して海洋投棄阻止対策委員会を結成しての開催だった。海女会の女性たちは、放出されればそれだけで魚介が売れなくなり生活できなくなると、次々に危機感を訴えた。麗水市では環境運動連合やYWCAなどが主催した。漁業の盛んな町で、海洋放出には強い反対の声がある。韓国全魚連代表のキム・ヨンチョルさんも参加してくれた。最後は韓国国会議員会館での講演だった。ともに民主党、進歩党、正義党などの主催で開催された。済州ではグリーンピース国際のアジア担当ショーン・バーニーと一緒だった。ソウルではエネルギーと環境調査研究所(IEER)のアージュン・マキジャニ氏が加わり3人が話した。
福島県漁連は反対の特別決議
相次ぐ市民集会やデモ
どの地域でも受けた質問は、「どうして日本政府は反対を無視して強行しようとしているのか」というものだった。筆者は、5月16日に東京で開催された海洋放出反対集会の午後に衆議院議員会館内で行われた催しで、同席していた経産省にその質問をそのままぶつけた。この日の集会は、「これ以上海を汚すな!市民会議」と「さようなら原発1000万人行動」との共催で開催され、午前に東京電力本店前で要請書の手交、夜には日比谷野外音楽堂で集会とデモが行われた。
5月16日に行われた衆議院議員会館での院内集会の様子
5月16日に行われた衆議院議員会館での院内集会の様子
政府は廃炉を着実に進めるために海洋放出が必要という考えだ。しかし、燃料デブリの取り出しにいつ着手できるかは見通しが得られていない。海洋放出で廃炉が着実に進むわけではない。国内外の漁民や市民にとって、海洋放出で得られるメリットは皆無といってよく、他方で放出による被曝のリスクが避けられない。私たちには害こそあれ一利もないといえる。
全国漁業者協同組合連合(JF全漁連)と福島県漁連は2015年に政府・東電との間で、「漁業者団体の理解なしにいかなる処分も行わない」との文書を交わしている。海洋放出への反対姿勢は今も変わらず、今年の総会で反対の特別決議を挙げている。
政府・東電は、漁業者の合意が得られないままに、着々と放出準備を進めている。放出口への1kmのトンネル工事は終了し、中に海水を入れる次の段階へ進む予定だ。そして8月にも放出を開始するとしているが、このままでは漁業者との約束を反故にすることになる。それは許されない。(伴 英幸)
(2023年7月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 458号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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