15年前から、ビッグイシューとの交流が続いているアウトドア・フットウェアブランドのKEEN。その軌跡を振り返りながら、KEEN JAPANのヒルダ・チャン代表と高木雅樹さんが、原点にあるものづくりに対する考え方や社会貢献活動「KEEN EFFECT」について語った。
KEEN JAPANのヒルダ・チャン代表(左)と高木雅樹さん
つま先をけがから守る創業モデル
広告予算1億円を災害支援に
KEENは米国オレゴン州ポートランドを拠点とするアウトドア・フットウェアブランドだ。ビッグイシューとの出合いは2008年。KEEN JAPANの高木雅樹さんは、こう振り返る。「友達が『雅樹、ビッグイシューって知ってる? 一緒に何かやったほうがいいよ』と提案してくれて、ビッグイシューにいきなり電話をかけたんです。そこで、路上生活の方たちの“二大困り事”が、なかなか歯の治療ができないことと、靴の問題だと知りました。販売者さんは1日に長い距離を歩くけれど、足に合った靴がなかなか買えなくて、足を悪くする人が多いというので、それなら僕たちの靴を提供したいということで、おつき合いが始まりました」高木さんがすぐに行動に移したのは、KEENには「Do the right things(自分が正しいと思ったことを行動にうつす)」という経営理念があるから。米国の本社もビッグイシューに対する取り組みに共感し、資金面でサポートしてくれたという。
KEENが全社的に取り組む社会貢献活動は「KEEN EFFECT」と呼ばれている。その始まりを、昨年10月にKEEN JAPANの代表に就任したヒルダ・チャンさんが説明してくれた。「KEENが創業したのは2003年。創業者のローリー・ファーストが、アウトドアで活動中につま先をけがから守るサンダルをつくれないかと考え、“ニューポート”というモデルを開発しました。アウトドア・トレードショーに出品したところ高評価を得て、販売も順調に推移しました」
2023年4月、アースデイを前にシティ・クリーンアップ。KEEN社員の毎年の恒例行事だ
そんな中、04年にスマトラ島沖地震が起き、現地は甚大な被害に見舞われた。「ちょうどその時、KEENは1億円の広告予算を確保していたのですが、それをそのまま災害支援に回すことがその場で決まり、この出来事がKEENのDNAとなって、“KEEN EFFECT”が始まりました」 日本でも、災害支援のボランティアネットワーク「オープンジャパン」と連携し、売り上げの一部を寄付したり、災害現場で使用する作業用の安全靴を提供するなどしている。
オープンジャパンとともに各地の災害支援に社員も参加
「自分たちが暮らし、遊び、働く場所を守る責任がある」というKEEN EFFECTの考え方は、自然環境への負荷をできる限り抑えた「地球と人にやさしいツクリカタ」にも反映されている。「たとえば、撥水加工に多用される有害な化学物質“PFAS”を使用しない製品づくりを私たちは徹底していて、他のシューズメーカーにもPFASフリーに取り組んでいただけるよう、すべての情報を公開しています」
西表島の環境保護、映画の制作
子どもたちにアウトドア体験
KEENは環境保護にも力を入れてきた。世界自然遺産に登録された沖縄・西表島では「Us 4 IRIOMOTE(アス・フォー・イリオモテ)プロジェクト」を展開。これは、17年に商品撮影のために現地を訪れたKEENのスタッフが、オーバーツーリズムや環境破壊、イリオモテヤマネコのロードキルなどの課題を知り、この美しい島のためにできることがないだろうか、と立ち上げたプロジェクトだ。西表島を起点に「エシカルな旅」の啓蒙活動を続ける
「西表島は海だけじゃなく、亜熱帯の森やマングローブが広がる川など、奥の深い豊かな自然と、そこで暮らす人々の間で継承されてきた文化が息づく島」と、最近訪れたばかりのヒルダさんは言う。 「チャリティーグッズの売り上げで基金をつくって、ツーリストに向けて旅先への敬意と思いやりを忘れない“エシカルな旅”を提唱しています。また、環境のダメージを最小限に抑えてアウトドアを楽しむ環境倫理プログラムを提案する『リーブノートレース・ジャパン』と連携して講習をしたり、動物・自然保護団体の支援もしてきました。西表島の自然と暮らしをテーマにしたドキュメンタリー映画『生生流転(せいせいるてん)』も3年かけて制作し、KEEN公式YouTubeチャンネルで無料配信しています」
今年の1月には、ヒルダさんにとって、忘れがたい出会いもあった。
「KEENは長年児童養護施設で暮らす子どもたちにアウトドア体験を提供する『みらいの森』の活動をサポートしているのですが、新潟県津南町で開催されたイベントに私も行ってきました。1泊2日のプログラムではかまくらづくりやそり遊び、“雪上のサーフィン”とも呼ばれている雪板にチャレンジしました。初めてたくさんの雪を見た子どもたちのびっくりした表情が忘れられません。最後に『ありがとうございます!』と言われた時には、涙がこみ上げてきました。私にも4歳半の息子がいますが、子どもたちは明るい未来そのもの。このような体験は、子どもたちが成長していく中で、きっと人生にプラスの影響を与えてくれると思います」
児童養護施設に暮らす子どもたちにアウトドア体験を提供
続くビッグイシューとの交流
寄付、コラボ商品、イベント
KEENは今年、設立20周年を迎え、ビッグイシューも9月に創刊20周年を迎える。段階を踏んで進んできたビッグイシューとの交流を高木さんが改めて振り返る。「販売者さんへのシューズのご提供は14年続けてきました。毎年社員が販売者さんお一人おひとりにフィッティングをさせていただいて。社員もみなさんとの交流を毎年楽しみにしています。その他にも、チャリティー物販をイベントで行ったり、限定のトートバッグを作り、その売上の全額を寄付させていただいたこともあります。そして、新しい取り組みとして、この8月からKEENとビッグイシューのコラボバッグが発売されることになったことをうれしく思っています。このバッグは工場に残る端材を有効活用しアップサイクルした商品で、販売者さんから直接購入していただくと、その売上の一部が販売者さんの収入となります。また、KEENなどでご購入いただいても売上の一部が寄付となります。前回の限定バッグよりも売り場を増やすことで、ビッグイシューのことを広く知っていただくことに貢献できればと思っています」
以前から、「ホームレス状態の方への炊き出しや募金の手伝い、病気に苦しむ子どもや環境保全のための寄付など」には積極的に参加してきたというヒルダさん。しかしKEENの場合は、「寄付だけにとどまらず、パートナー団体とのコラボ商品やイベントなどを通して多くの人を巻き込み、そのパートナーシップが長く続いていくのが特徴」だという。
そしてこの夏から、KEENが「LIFE IS KEENキャンペーン」で掲げているのが「もう一歩、外に。」というキャッチフレーズだ。「香港の街なかで育った私が初めて日本に来た時、一番驚いたのは、こんなに近くに豊かな自然があること。一歩外に出て自然を体験してもいいし、社会に出てアクションに参加してもいいし、新しいことにチャレンジして自分の価値観を変えてみてもいい。一歩踏み出すことで、ポジティブな変化が生まれると思うので、これからもKEENはみなさんに、そんなきっかけをつくっていけたらと思っています」
KEEN × ビッグイシュー日本 20周年コラボ企画
ともに2023年で創立20周年を迎えたKEENとビッグイシューのチャリティ・コラボ商品が発売される。工場に残る端材を有効活用しアップサイクルしたトートバッグとサコッシュの2種。販売者から直接購入するとその売上の約40%が販売者の収入となり、KEEN公式オンラインサイトや直営店などでの購入分も収益の一部がビッグイシューへ寄付される。8月15日から販売開始。(詳しくはKEEN公式オンラインサイトkeenfootwear.jpをご覧ください)
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。