ギャンブル問題に関する全米評議会(National Council on Problem Gambling)によると、米国成人の2〜3%がギャンブル依存症にあり、大学生に限ってみると、その割合は2倍(最大で6%)になる可能性があるという。米国では大学生の4人に3人が、直近1年のうちに合法にせよ違法にせよ何らかの賭け事をしたことがあるくらい、ギャンブルが一般的なのだ。マイアミ大学の統計学教授ジェイソン W.オズボーンが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
大学生のおよそ6%がギャンブル問題を抱えているとされている。
John Rowley/The Image Bank via Getty Images
2018年に連邦最高裁が各州にスポーツベッティング(スポーツ賭博)の合法化を認めて以降、スポーツ賭博は拡大の一途をたどり、大学キャンパスも例外ではない。教育心理学者として米国のギャンブル事情を追っている筆者は、大学内のギャンブルはより大きな問題に発展するだろうと見ている。というのも、大学生を含む若者たちは、日々のストレスや不安への対処法として手近で安直な解消法に走りがちなため、ゲーム依存やギャンブル依存の影響を受けやすいのだ。大学側は、学生のギャンブル問題解消に向けた対策を求められている。
スポーツ賭博の広がりでカジノ化するキャンパス
2023年11月時点で、38の州(+ ワシントンDC、プエルトリコ)では何らかの形でスポーツ賭博が合法化されている。26の州ではネット上でのスポーツ賭博を許可している。他の州でも(バーモント州、ミズーリ州、ノースカロライナ州など)、法案が提出され、最近になって可決されている。 技術の発達により、カジノまで足を運ばなくても、だれもがインターネットやスマートフォンからスポーツ賭博に興じることができるのだ。2018年6月〜2023年11月の間に合法のスポーツ賭博で賭けられた金額は2680億ドル(約40兆円)超に上る。全米のギャンブル収益も大幅に増加しており、とりわけスポーツ賭博は年間およそ75%と著しい伸びを見せている*1。これまでに生み出した税収は約39億ドル(約5900億円)にもなる。*1 The Explosive Growth of Sports Betting
スポーツ賭博は大学キャンパスでも利用しやすいものになっている。ニューヨーク・タイムズ紙は、スポーツ賭博企業と大学側が提携し、学生にオンライン賭博を紹介することで、キャンパスが世界の有名カジノと似たような場所になりつつあると指摘している。
収益アップと連動して広告費も増えている。ギャンブル関連広告費は全メディア経由で年間30億ドルに達すると見積もられている。TikTokなどSNS上の広告も増えているため、若者がギャンブル系の広告を目にする可能性も高い*2。英国の調査では、18〜24歳の72%が「SNSでギャンブル系の広告を目にしたことがある」との結果が出ている。
*2 Sportsbet is targeting young women on TikTok to diversify male client base, experts say
広告主は法定年齢にある若い成人をターゲットにしていると主張するが、調査からは18歳未満の未成年もギャンブル関連の広告を目にしている状況が浮かび上がる。2023年初め、マサチューセッツ州検事当局の検察官らが、広告の影響によりスポーツ賭博などのギャンブル行為が大学キャンパスで急速に広がるおそれがあると懸念を表明するなど、SNS上での広告には監視の目も向けられている。
ギャンブル系アプリの台頭により大学内でもスポーツ賭博が広まっている。
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ギャンブル依存症は背景や年齢を問わずあらゆる人がなりうるが、大学生の年頃の若者は発達上の諸要因から衝動的またはリスクの高い行動を取りやすいため、その脅威はより大きいと考えられる。依存性がある他の行動と同じく、ギャンブルも脳の報酬系を刺激するため、負け続けていても止められなくなる。大学キャンパスで飲酒が広まっているのはよく知られているが、これもギャンブルなどの危険行為に走る可能性を高めるだろう。
大学側に求められている予防対策
大学では年間を通じて、野球、アメフト、バスケットボールなど、さまざまなスポーツ競技が開催されている。学生のスポーツ賭博に関する行動について、大学側がチェックする機会はいくらでもある。ギャンブル依存症は適切な治療と支援があれば回復の可能性は十分あるが、依存症に陥らないよう予防することが何よりも大事だ。オレゴン大学をはじめ多くの大学が、スポーツ賭博やギャンブルの普及が学生におよぼす影響を認め始めている。学生たちを守るため、包括的かつ組織的な取り組みが求められている。大学向けの支援情報
米国の非営利団体「責任あるギャンブルのための国際センター(International Center for Responsible Gaming)」:大学側に以下の対策を推奨している。
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ギャンブルに関する明確な方針を打ち出し、飲酒に関する方針と合致した内容とすること。
ユナイテッド・エデュケーターでは、有効な方針の作成について実例を挙げて解説している。例えば、アリゾナ州立大学では同大学に関係するイベントにおいて、合法・非合法を問わずギャンブルを一切禁止し、21歳未満の学生のアルコール所持、消費、酩酊は違法であると定めている。
- ギャンブル依存症は精神疾患であるとの意識を高め、学生向けの支援情報を提供すること。
- 大学のカウンセリングや保健サービスで働くスタッフがギャンブル依存症についてよく学び、依存症に悩む学生たちを適宜サポートできるようにすること。
複数の依存症が同時に発生することもあり、その場合、回復がより困難になる。
- 学生のギャンブルへの受け止め方について調査を行い、意識・行動・判断基準の変化を追跡すること。
https://pausebeforeyouplay.org/
個人向けの支援情報
また、身近な学生がギャンブルの問題を抱えていないだろうかと不安に思う人は、以下の情報を参考にしてほしい。
・メイヨー・クリニック(ミネソタ州に本部を置く総合病院):
ギャンブル依存について 「ギャンブルをやめる・減らそうとすると、落ち着きがなくなり、怒りやすくなる」「悩みがあると、よりギャンブルにハマっていく」「ギャンブル行為やお金を失っていることを隠すため嘘をつきやすい」等。
Compulsive gambling
・「ギャンブラーズ・アノニマス(ギャンブル問題からの回復を目指す人向けの自助団体):
自己診断用の質問リスト
20 Questions: Are you a compulsive gambler?
・ゲートウェイ・ファンデーション:ギャンブル依存症者の支援方法について
How to Help Someone You Know That Has a Gambling Problem
・ギャンブル問題に関する全米評議会:
電話相談サービス
About the National Problem Gambling Helpline
・各州で受けられる支援リスト
Help by State
最後に、筆者が属するマイアミ大学のInstitute for Responsible Gaming, Lottery and Sportでは、合法ギャンブルの劇的な拡大の裏には、ギャンブル業界(ブックメーカーなど)による政策立案者や大学経営陣への事実上の誘導があるとにらみ、調査を進めている。
著者
Jason W. Osborne
Professor of Statistics, Miami University
【オンライン編集部追記】
▽ビッグイシュー基金作成・配布の『路上脱出・生活SOSガイド』より
・ギャンブル、アルコール、薬物の依存症などについての東京の相談窓口
・ギャンブル、アルコール、薬物などの問題について相談したいとき:大阪の依存症相談窓口
▽ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_012/
▽ギャンブラーズ・アノニマス日本のサイト
http://www.gajapan.jp/index.html
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年11月16日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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