“10代の心(実年齢問わず)を刺激する古本屋”をコンセプトにした古本屋がある。大阪市阿倍野区にある「大吉堂」だ。立ち読み自由、おやつつき。なんなら、本を読まずボーっとしても、スマホをいじっていてもいい。
今回は、店主の戸井律郎さんに、お店のなりたちやビッグイシューとの関わりについてお話を伺った。
 

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児童書や一般文芸書に埋もれがち。だけど“10代”に向けた本があると伝えたい

築90年以上の古民家にある大吉堂の店内には、懐かしのYA*向けの文庫やライトノベル、児童書などが、所狭しと並んでいる。

*ヤングアダルト。子どもと大人の間の世代。


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年々書店の経営が難しくなっている時代に、さらにニーズが限定的な “10代”向けに焦点を当て、古本屋をやっているのはなぜか?それは戸井さんご自身の経験にルーツがあった。

「小学校5年の2月に家庭の事情で引っ越すことになり、転校したんですね。小5の2月って、周りはすでに友人関係ができあがっていますよね。なかなかそこに入っていけなくて、すごくしんどかったんです。その当時は不登校という選択肢もなかった。保健室で休むことはありながらも、なんとか通学していました。」

“みんなが仲良く一緒に何かしよう”という風潮のなか、クラスの輪に入れなかった戸井さんの居場所は、学校の図書室だった。しかし中学生になると、図書室には児童書がなくなり、何を読んでいいか全くわからなくなった。そんな戸井さんだったが、高校生でライトノベルと出会い、「おもしろい!」「なんで教えてくれなかったんだ!」と夢中になったという。

一般的な書店や図書館が10代向けの棚に並べない理由として、戸井さんはこう語る。

「絵本や児童書などの、幼児や小学校低学年向けの本は親が買ってくれる場合も多いんですが、中高生向けとなると、学習参考書を買ってもらえることはあっても、“本”を保護者が買ってくれる機会は減ってしまいます。書店は、中高生が読む本を扱っても(その購買力を考えると)商売にならないんですよね。そうすると中・高校生がほったらかしにされてしまう。それがずっと引っかかっていたんです。」

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前職は児童館職員だったという戸井さんは、児童館でも同じような状況を感じていた。

「児童館は18歳以下が対象としながらも、ほとんどのプログラムは未就学児や小学校低学年向けなんです。中高生に来てほしい!というプログラムを企画したとしても、それは「ボランティアとして来てください」とか「小さい子どもと遊んでね」とか、“おにいさん”、“おねえさん”として来てください、という内容が多くて、これまでの信頼関係もないのに来てくれるわけもなく。“中高生が子どもとしていられる場所”が少ないと感じていました。」

そこへ、たまたま興味の持てる物件との出会いがあって、転職を決意。

「 “10代の”という言葉を謳って、あなたたちの場所がここにありますよ、大人はちゃんと用意していますよ、あなたたちのために書かれた本がありますよ、と示したかったんです。」

ただ、新刊書店として10代向けの書籍を扱うのはハードルが高かった。自己資金が限られていたこともあり、“今、部屋にある本からでも始められる”と古本屋を選んだという。

とはいえ、ただでさえニーズが限定的な中高生向けの書籍、さらに一昔前のものとなると、読みたいという人はさらに減る。商売としては厳しい。図書館ですら、10代向けの書籍の取り扱いをしていても、時代の流れとともに早々に書庫にしまわれてしまうことが多く、「10代向け書籍」がずらっと並んだ棚を維持することは難しいのだという。

それゆえに、10代向け書籍の古書を専門に「実際に手に取って読める本」として扱う店は、「知る限り他にはない」という。商売として難しいからこそ、競合がいない。

「ぼくは自分がやりたいこと・自分が好きなことしか、ようせん、という“社会不適合者”なんです。そういう、“何をして生きていけてるのかようわからん大人”がこの街には多いんですけど、『こんな大人でもやっていけるよ~』って、中高生、若い世代に見せるのも大切かなって(笑)」

1人でも好きなように過ごせる居場所がほしかった

こうして古本屋を始めてから、2024年9月で10年を迎える。はじめはアーケード商店街の中にある古本屋で、“居場所”となるスペースはなかった。転機になったのは、コロナ禍に入った頃のこと。

「新型コロナウイルスが感染拡大し始めたとき、学校が休校になって、その次に閉まったのは図書館でした。そのとき“中・高校生の行くところがなくなってしまった”と思ったんです。」

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今まで以上に中・高校生の居場所がない。戸井さんのなかで、もともと考えていた居場所づくりへの気持ちがさらに大きくなっていった。

当時の店舗は本棚を置くのでいっぱいで、座って本を読めるスペースは設けていなかった。“居場所づくりをやりたい。もっと広いスペースが欲しい”と、地域の人たちにも話をしていたとき、話が舞い込んだ。

「大家さんに、“この家の1階を改装するけど、どうや?”と声をかけてもらって、今の場所につながったんです。居場所づくりをしたいという目標で、クラウドファンディングの活動もしました。それからこの店舗で営業を始めることになったんです。」

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戸井さんの考える「居場所」はこうだ。

「僕自身が今の言葉でいうと、コミュ障であったり陰キャという感じでした。そんなんやから、自分が中・高校生の頃には、“仲間をつくろう”のような、キラキラ輝いて見える場所には行けなかったな、と思って。そういう想いでこの店をやっていますね。ここは、ただ来て、ゆっくりしていい場所。好きなように過ごしてもらいたいんです。」

路上でビッグイシューを買いたくても、踏み出せない人の一歩になりたい

「大吉堂」は雑誌『ビッグイシュー日本版』の委託販売も行っている。その理由を聞いてみた。

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「実家から店に通う途中の駅で販売者さんを見かけていて、ビッグイシューのことは知っていました。なかなか勇気がなくて買う機会がなかったのですが、あるときヤングアダルト文学が特集された号(296号)があるとネットで知って。そのときに初めて購入して、それから興味のある号を買うようになったんです。そのうち委託販売制度があると知って、問い合わせてみたのが始まりでした。」

「路上で販売者から買おうと思っても、なかなか踏み出せない人もいることは知っています。自分がそうだったので。それなら、この店で最初の1冊を買ってもらって、ビッグイシューを面白いと思ってもらえたらと。その手伝いができるならと思い、販売を始めました。」

実際に販売を始めてみると、来店するお客さんやSNSから「販売者から購入するからこそ支援につながる雑誌なのに、お店で販売していいの?」という心配の声もあるそうだ。

戸井さんはその度に、ビッグイシューを支える方法は販売者から購入する以外にもさまざまであるという考えを伝えているという。

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戸井さん「ビッグイシューを購入する方は、40代以上の方が多いかな。特集記事を目がけて遠方から来てくださる方もいれば、毎号のように“一番新しいの”と言ってふらっと買ってくださる方もいます。大阪では、ビッグイシューに身近な感覚を持っている方が多いのかなと思いますね。」

大吉堂で仕入れているのは、毎号3冊ずつ。完売するものもあれば、バックナンバーは残りつつゆっくり売れていくものもあるそうだ。

「単身、一人暮らしの人が、個人事業をやっていると、社会との接点がとても少なくなるのですが、ビッグイシューは“社会とのつながり”なんです。それだけでなく、“誰かが社会とつながるための窓になる”という、そこも面白いなと思っています。寄付やボランティアのようなかたちだけではなく、ちょっとお店に雑誌を置くだけで支援になるというのが面白いなと思います。」


●大吉堂

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〒545-0021 大阪府大阪市阿倍野区阪南町3−12−23
営業時間 11時〜19時
定休日 不定休
URL https://daikichidou.web.fc2.com/

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https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。