孤独感を感じている層といえば高齢者を思い浮かべがちだが、内閣官房孤独・孤立対策担当室が行った「人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)*1」では、60歳以上の高齢者よりも20〜59歳のいわゆる働き盛りといわれる世代で大きいことが判明した。これは日本だけの傾向ではないようだ。『アメリカン・サイコロジスト』誌に Frank J. Infurnaが寄稿した、米国の中年期はヨーロッパの同年代よりも強く孤独を感じている――との研究結果*2を紹介しよう。
なみ/photo-ac
*1 人々のつながりに関する基礎調査
*2 Loneliness in midlife: Historical increases and elevated levels in the United States compared with Europe.
筆者たちが中年期(45〜65歳)に着目したのには理由がある。中年期は労働力の大半を占め、社会の屋台骨となる存在である一方、高齢化する親と自らの子どもの両方をケアしなければならない立場にあり、その状況は年々厳しさを増している。2007〜2009年の世界的金融不況を経た米国の中年期は、1990年代の中年期よりも心身の健康状態が悪化しているとの報告もある*3。ヨーロッパの複数の国と比べても、昨今の米国の中年期は、鬱症状、慢性的な疾患、痛み、障害を訴える人の割合が高いとの先行研究がある*4。
*3 Scientific imperatives vis-à-vis growing inequality in America.
*4 Historical change in midlife health, well-being, and despair: Cross-cultural and socioeconomic comparisons
筆者らは2002〜2020年にかけて、米国と欧州13カ国において、5万3千人以上の中年期を対象に2年おきにアンケート調査を行い、そのデータから中年期の孤独感の変遷を追った。長期にわたる調査により、いわゆる「沈黙の世代(1937〜1945年生まれ)」「ベビーブーム世代(1946〜1964年生まれ)」「X世代(1965〜1974年生まれ)」の複数世代についてのデータが得られた。分析の結果、米国の中年期の孤独レベルは、ヨーロッパのどの国・地域よりも高かった。また、米国、英国、地中海沿岸のヨーロッパでは、古い世代よりも新しい世代で孤独感が強まっていたが、ヨーロッパの他の国々や北欧では、長い間、低いレベルにとどまっており、歴史的な変化も確認されなかった。
孤独担当省庁設立の必然性
人間にはそもそも帰属欲求があり、孤独というそれが満たされない状態にあることは、何らかの影響をもたらす可能性がある。孤独が健康に与える悪影響については、喫煙と同じくらい危険だと主張する研究もあれば*5、疾病、鬱病、慢性疾患、早死の可能性が高まるとも指摘されている。Photo courtesy of Benjamin Disinger on Unsplash
近年は、孤独は公衆衛生として取り組むべき問題との考えも世界的に広がっている。米国の公衆衛生局長官は2023年の報告書で、孤独の蔓延を取り上げ、できるだけ早急に社会的なつながりを強める必要性を訴えた。英国や日本では孤独問題を扱う省庁が設けられ*6、人間関係や孤独の問題を政策に反映させようと取り組みを進めている。
5 *孤独による死亡リスクは、1日15本以上のたばこを吸うのに匹敵するとの指摘。Loneliness worse than smoking, alcoholism, obesity: Study suggests primary care clinicians can offer solutions
*6 あなたはひとりじゃない!(内閣府 孤独・孤立対策推進室)
その中でも、とりわけ米国の中年期が孤独を感じ、心身ともに健康状態を悪化させているのはなぜなのか? 社会的セーフティーネットの不足に原因があるのだろうか? 個人が重視される風潮には、人とのつながりや支え合いが弱まるというマイナス面があり、それが孤独感をもたらすのか? 米国文化の高い居住地移動性からも、地域の関係性の希薄さとの相関を指摘する向きもある*7。社会的・経済的均衡に欠ける米国の現状では、人々が基本的欲求を満たす力を弱らせ、孤独感が生まれやすいのだろう。
孤独感の強まりを示唆する今回の研究結果は、米国人の平均余命が短くなっている*8ことや心身の健康が悪化しているとの先行研究とも合致している。米国の中年期をめぐる心身の健康リスクについて、今後さらなる研究で原因を深掘りしていきたい。
*7 The cultural dynamics of declining residential mobility.
*8 他の高所得国とは異なり、米国の平均余命は2014年以降短くなっている。 High and Rising Mortality Rates among Working-Age Adults
By Frank J. Infurna
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
あわせて読みたい
・社会的孤立を防ぐ「コミュニティ・リビング」の需要高まる・「異世代ホームシェア」。 ひとり暮らしの高齢者と、手頃な住居を求める人がハウスメイトになって語り合い、孤立を予防(オーストラリア)
日本にある異世代ホームシェアーNPO法人「リブ&リブ」
*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
ビッグイシュー・オンラインでは、提携している国際ストリートペーパーや『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの良質の記事を翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。
ビッグイシュー・オンラインサポーターについて
『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。