ケニアのマサイマラ保護区(※)で小型飛行機を自ら操縦し、象牙・銃器の探知犬、密猟者の追跡犬とともに、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する滝田明日香さん。2023年、ケニア政府から麻酔銃の所持許可書を得て、野生動物治療が可能になった。今回は、絶滅危惧種クロサイの個体識別のため、耳に刻みパターンを入れるオペレーション(イアノッチング)に、パイロットとして参加。上空からクロサイを見つける役目に挑戦している。
※ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系は同じ。
イアノッチング終了の個体ばかり
オセロ・ソピアの美しい光景
その辺鄙さで有名なオセロ・ソピアの山々の間を飛んで谷間が見える場所に辿り着いてみると、その美しい光景に圧倒されてしまった。高い山の側面の下には、サンドリバーと呼ばれる川底が白い砂でできている川が見えた。その川の中には巨大な岩が立っている。あまりにも綺麗な風景で、私はクロサイどころではなく、景色に見惚れてしまった。
その隣で、ナエクは山の側面に生えるブッシュ(茂み)の中から一生懸命にクロサイを見つけようと飛行機の横から顔を出して風にビュービュー吹かれていた。私の飛行機はコクピットが封鎖されず、前方にファイバーグラスのシールドしかない。なので、顔を横に出すともろに風の威力がすごく、目が乾く。この仕事の数ヵ月後、風景の写真を撮っていた時に、私の携帯も吹っ飛んでなくなってしまったほどである。
私もコクピットの横から顔を出しながら飛んで、無線でグラウンドチームに「目が乾いて痛い」と言うと、「ゾウの目薬つけて目を開いてサイを探せ!」との指令が……。
目がカラカラになりながら、山の側面を何度も飛び回っていると、ナエクが大声で「サイが2頭!!」と叫んだ。私も彼女の見ている機体の右側を見てみるが、時速110㎞近いスピードが出ているので何も見えない。先にあるエリアでUターンをして、今度は私が山の側面が見える位置になり、同じエリアを飛んだ。再びナエクが「そこそこ! 母親と子どものサイ!」と叫ぶ。私も今度はゆっくり飛んでいるので灰色のクロサイが2頭、上空を飛ぶ飛行機の音に驚いて立ち往生している姿がちゃんと見えた。
山の側面で右ターンをしながら、無線でヘリコプターを呼んだ。しかし山が無線電波を遮っているのか何度も無線で呼んでいるのに、ヘリコプターから返信がない。その後30分ほどして、他の機体を通してダーティングのヘリコプターにやっと連絡がついた。あと20分後に、こちらに着けると言う。クロサイを発見してからヘリコプターが到着するまで1時間、ずっとグルグルとタイトな円を気流の乱れる山の側面で描きながら飛び続け、首が右に回ってむち打ち症になりそうである。
同じ場所で旋回しながら
実際にグラウンドチームが現場に到着したのは、私たちがサイを見つけてから3時間近く経っていた。実際にダーティングが始まる前に、オペレーション燃料は後30分しか残っていないと伝えた。30分の燃料を残しておかないと、燃料ドラムが置かれている滑走路まで辿り着けない。ダート(麻酔矢)が入ると、イアノッチングの候補サイである母親サイが暴走を始めた。ヘリコプターの上をまたさらに円を描き続けて飛びながら、グラウンドチームが麻酔で眠ったサイに駆けつけるのを確認した後に私とナエクは最後の候補のサイを見つけに行くために、その場を去ったのである。
燃料補給で滑走路に着地すると、ナエクは頭を両腕で抑えながら地面に寝っ転がって、「目の前がグルグルするー、気持ち悪いわー」。さすがに4時間近く助手席に乗ってグルグル回って飛んでいると飛行機酔いするだろう。
「アフリカゾウの涙」寄付のお願い
関連記事
滝田さんの連載の中でも人気の野生のキリンとのエピソードはこちら
「野生のキリンが逆子で死産…引っかかって出てこない胎児。どうする、レンジャー!?」
▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
イアノッチング終了の個体ばかり
クロサイを探しに山のある地域へ
最終日の朝10時近くになると、スーパーカブのパイロットがキーコロックロッジの滑走路からナイロビのウィルソン空港まで飛び立っていった。それをマサイマラの無線周波で放送するのが聞こえた。スーパーカブがいなくなって、残るのは私の飛行機とヘリコプターの2機となった。
毎朝、朝日が昇って滑走路が見える時間帯に離陸
ヘリコプターの燃料はとても高値なので、延々とサバンナを飛んでサイを探す仕事は固定翼機の役目になる。ヘリコプターの主な仕事は、クロサイを麻酔銃で打つ(ダーティング)のと、麻酔がかかったサイが走り出した後に、麻酔によってあまり目が見えなくなったサイが谷間や水のある場所に暴走するのを止めることである。
なので、サイ探しは固定翼機パイロットの仕事だ。今までずっと2機で飛んでいたが、私一人しかいないとなるとかなり責任が大きいが、がんばるしかない。ナエクと一緒に「やるしかないね!」と意気込んで、キーコロックロッジの滑走路から飛び立った。
しかし、平たいサバンナに生息するクロサイは、ほとんどがすでにイアノッチングが終わっている個体ばかり。見つかっても背中にペンキで番号が書かれているイアノッチング済みのサイであり、がっかり。気流が乱れる山々がある地域には行きたくはなかったのだが、クロサイが見つからないので、山の側面も探さないといけなくなってしまった。
しかし、時間はすでに昼近く。風も強くなっているし、暑い空気が上昇する時間帯なので、さらに気流が乱れ始めている。サイが好きなエリアの一つに、タンザニア国境に近いオセロ・ソピアという山に囲まれた中に平たい草原の広がる場所がある。ちょうどお鍋の底のような形の谷で、上から流れてくる風で谷底の気流がものすごく乱れる場所である。本当だったら避けたいエリアだったがサイが好むエリアで残っているのがオセロ・ソピアのみだったので、行かないわけにはいかなくなった。
オセロ・ソピアの美しい光景
母親と子どものクロサイを発見
オセロ・ソピアは、私の働いているマラコンサーバンシーが昨年レンジャーステーションを建設する契約を取った場所。オセロ・ソピアに入ったワーカーみんなが「携帯の電波が届かなくて地の果てだ!」と文句を言っていたのを思い出した。ケニアの携帯電波よりもタンザニアの電波の方が入ってくると有名だった。
その辺鄙さで有名なオセロ・ソピアの山々の間を飛んで谷間が見える場所に辿り着いてみると、その美しい光景に圧倒されてしまった。高い山の側面の下には、サンドリバーと呼ばれる川底が白い砂でできている川が見えた。その川の中には巨大な岩が立っている。あまりにも綺麗な風景で、私はクロサイどころではなく、景色に見惚れてしまった。
サンドリバー
Photo: Reto Buehler/Shutterstock.com
その隣で、ナエクは山の側面に生えるブッシュ(茂み)の中から一生懸命にクロサイを見つけようと飛行機の横から顔を出して風にビュービュー吹かれていた。私の飛行機はコクピットが封鎖されず、前方にファイバーグラスのシールドしかない。なので、顔を横に出すともろに風の威力がすごく、目が乾く。この仕事の数ヵ月後、風景の写真を撮っていた時に、私の携帯も吹っ飛んでなくなってしまったほどである。
私もコクピットの横から顔を出しながら飛んで、無線でグラウンドチームに「目が乾いて痛い」と言うと、「ゾウの目薬つけて目を開いてサイを探せ!」との指令が……。
目がカラカラになりながら、山の側面を何度も飛び回っていると、ナエクが大声で「サイが2頭!!」と叫んだ。私も彼女の見ている機体の右側を見てみるが、時速110㎞近いスピードが出ているので何も見えない。先にあるエリアでUターンをして、今度は私が山の側面が見える位置になり、同じエリアを飛んだ。再びナエクが「そこそこ! 母親と子どものサイ!」と叫ぶ。私も今度はゆっくり飛んでいるので灰色のクロサイが2頭、上空を飛ぶ飛行機の音に驚いて立ち往生している姿がちゃんと見えた。
山の側面で右ターンをしながら、無線でヘリコプターを呼んだ。しかし山が無線電波を遮っているのか何度も無線で呼んでいるのに、ヘリコプターから返信がない。その後30分ほどして、他の機体を通してダーティングのヘリコプターにやっと連絡がついた。あと20分後に、こちらに着けると言う。クロサイを発見してからヘリコプターが到着するまで1時間、ずっとグルグルとタイトな円を気流の乱れる山の側面で描きながら飛び続け、首が右に回ってむち打ち症になりそうである。
同じ場所で旋回しながら
グラウンドチームの到着を待つ
ヘリコプターがやっとのことで到着したのだが、彼らも無線がグラウンドチームにつながらないらしく、一度携帯電波のあるエリアに着陸して連絡をつけ、さらにチームが到着するまで燃料をセーブするために待機すると言ってくる。そして、その間、私たちがクロサイを見失わないように、上空でずっと円を描き続けてほしいと。すでに1時間グルグル同じ場所で飛んでいるのに、正気の沙汰ではない指令である。「目を離したらサイがいなくなるから。グラウンドチームもすでにこっちに向かっているから」と。
飛行機が1回転するたびに、サイ側にいるナエクに「まだサイいるー??」と叫んで確認を取る。彼女はずっと顔を飛行機の右側から出しながら、「まだいるよー」。お互いずっと首を右に回し続けているし、飛行機も右に傾きながらタイトな円を描き続けているので、首が曲がったまま動かなくなっている。ずっとグルグルグルグルと延々と回り続けて、一体どれだけ時間が経ったのかもわからなくなりそう。
実際にグラウンドチームが現場に到着したのは、私たちがサイを見つけてから3時間近く経っていた。実際にダーティングが始まる前に、オペレーション燃料は後30分しか残っていないと伝えた。30分の燃料を残しておかないと、燃料ドラムが置かれている滑走路まで辿り着けない。ダート(麻酔矢)が入ると、イアノッチングの候補サイである母親サイが暴走を始めた。ヘリコプターの上をまたさらに円を描き続けて飛びながら、グラウンドチームが麻酔で眠ったサイに駆けつけるのを確認した後に私とナエクは最後の候補のサイを見つけに行くために、その場を去ったのである。
燃料補給で滑走路に着地すると、ナエクは頭を両腕で抑えながら地面に寝っ転がって、「目の前がグルグルするー、気持ち悪いわー」。さすがに4時間近く助手席に乗ってグルグル回って飛んでいると飛行機酔いするだろう。
最終日にはさすがにすっかり飛行機酔いしてしまったナエク
(文と写真 滝田明日香)
「アフリカゾウの涙」寄付のお願い
「アフリカゾウの涙」では、みなさまからの募金のおかげで、ゾウ密猟対策や保護活動のための、象牙・銃器の探知犬、密猟者の追跡犬の訓練、小型飛行機(バットホーク機)の購入、機体のメンテナンスや免許の維持などが可能になっています。本当にありがとうございます。引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いします。寄付いただいた方はお手数ですが、メールでadmin@taelephants.org(アフリカゾウの涙)まで、その旨お知らせください。
山脇愛理(アフリカゾウの涙 代表理事)
三菱UFJ銀行 渋谷支店 普通 1108896
トクヒ)アフリカゾウノナミダ
たきた・あすか
1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。 https://www.taelephants.org/
関連記事
滝田さんの連載の中でも人気の野生のキリンとのエピソードはこちら
「野生のキリンが逆子で死産…引っかかって出てこない胎児。どうする、レンジャー!?」
▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。