日本原子力発電株式会社(日本原電)が再稼働を目指していた敦賀原発2号機(福井県、116万kW、1987年運転開始)をめぐり、原子力規制委員会(規制委)は8月2日、再稼働を事実上認めないと結論した。日本原電が敦賀原発2号機原子炉直下を走るD-1断層の活動性を否定できなかったからだ。2012年に発足した規制委は、原子力施設の立地地盤の審査において、初めて新規制基準を科学的に適用し、適切な判断をした。







(この記事2024年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 486号からの転載です)

長年、否定されてきた活断層
規制委、初の科学的で適切な判断

日本原子力発電株式会社(日本原電)が再稼働を目指していた敦賀原発2号機(福井県、116万kW、1987年運転開始)をめぐり、原子力規制委員会(規制委)は8月2日、再稼働を事実上認めないと結論した。日本原電が敦賀原発2号機原子炉直下を走るD-1断層の活動性を否定できなかったからだ。2012年に発足した規制委は、原子力施設の立地地盤の審査において、初めて新規制基準を科学的に適用し、適切な判断をした。

敦賀原発2号機の原子炉建屋の東側250mの位置を浦底断層が走っている。全長25kmとされるこの断層は5千年前以降にも活動していると考えられている。国の地震調査研究推進本部はこの断層が動いた場合、「マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定され、その際には2m程度の左横ずれが生じる可能性」があると報告している。1980年頃から浦底断層の存在が指摘されていたが、日本原電は否定していた。最終的に、旧原子力安全・保安院が追加調査を指示した結果、08年になってようやく存在を認めるに至った。

敦賀原発の敷地には浦底断層から派生する無数の断層があり、D-1断層はその一つだ。13年5月、規制委の有識者会合は、D-1断層について「耐震設計上考慮する活断層」とした。これに対し、日本原電は強く抵抗し、13年には「活断層ではない」とする報告書を作成、2つの国際レビューチームに評価を依頼し、報告書に「正当な科学的基盤」があるとする評価を受けた(ALPS処理汚染水でも、柏崎刈羽原発再稼働に向けた動きでも同じような「国際」レビューが行われている)。

そして15年11月に再稼働の前提となる新規制基準適合性審査を規制委に申請した。以来8年以上の審査の中では、日本原電の資料に改ざんが見つかるなど、さまざまな問題があった。今回の決定を受けても、日本原電は再稼働に向けた活動を進めると発表している。


運転せずとも967億円の収入
各電力会社の消費者に転嫁

日本原電は1957年に発足した原子力発電専業会社で、東京電力・東北電力には東海原発(茨城県)、関西電力・中部電力・北陸電力には敦賀原発の電気を売電する契約を締結している。どちらの原発も2011年以来運転していないが、13年間運転していなくとも日本原電には大きな売り上げがある(23年度の年間売上高は967億円)。原発維持のための「基本料金」と発電電力量に応じた「従量料金」という2つの料金体系になっているからだ。11年度から23年度は、発電電力を電力会社に販売した収入によって、累計で1.48兆円もの収入を得ている。こうした料金は東京電力らの消費者に転嫁されている。だが敦賀原発はすでに1号機が15年に運転終了しており、2号機も廃炉となれば、日本原電の収入の半分が消えることになりかねない。

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日本原電は敦賀原発の敷地で3・4号機増設のために海面埋め立て工事を行った。今もこの計画は生きている。第一級の活断層が存在するような敷地に新しい原子炉を建設しようとすること自体、異様なことだ。それでも会社の存亡の危機に瀕している日本原電は敦賀原発2号機の再稼働と3・4号機の建設計画にしがみつくだろう。

日本原電はその企業理念で「原子力発電の安全を確保し、安心され信頼されることを基本」にすると謳っている。日本原電にはその企業理念に則した行動を期待したい。(松久保 肇)

松久保 肇(まつくぼ・はじめ)

1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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