水戸地方裁判所(前田英子裁判長)は3月18日に「東海第二発電所の原子炉を運転してはならない」という判決を下した。判決理由は「現実的な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態であり、(中略)具体的危険があると判断した」というものだ。東海第二原発の30km圏内には94万人が住んでおり、実効性ある避難計画が不可能であることは誰が見ても明らか。判決はこの現実を直視して運転を差し止めたのだ。
5層の深層防護体系が必要だが避難計画なく、立地指針も削除
周辺住民の数はそれぞれ異なるが、どこの立地地域も実効性ある避難計画が立てられていないことから、各地の運転差し止めの裁判にも、さらには再稼働の反対運動にも力を与えるだろう。
判決は、防護策を多層に重ねる「深層防護」の考え方をベースに、各防護レベルのいずれかが欠落したり不十分であれば具体的な危険があると判断できるものとして論理を展開している。国際原子力機関(IAEA)は5段階の深層防護体系(表)の構築を求めている。
しかし日本では、深刻な事故は起きないとして原発の設計部分にかかわるレベル1〜3までの対応しかしてこなかった。そして福島原発事故が発生。そこで新しく発足した原子力規制委員会はレベル4の「過酷事故時の影響緩和対策」を規制体系に取り入れた。重大事故対処設備や電源車、ポンプ車を高台に備えることなどがこれにあたる。
レベル5は大規模な放射能放出への対応、すなわち緊急時計画(避難計画を含む)である。本来ならレベル5も規制に取り入れるべきだったが、そうしなかったばかりか、従来はあった「立地指針すなわち事故時の住民の被曝影響を抑えるために低人口地帯に立地する」という指針も削除してしまった。
40年超の古い原発なのに無視された耐震安全性・火山影響
筆者は原子力規制委員会が発足した2012年に、それらの規制への取り入れを求めて原子力規制庁と交渉した。規制庁の言い分は「避難計画は地域防災計画の中で扱われているから自治体の仕事だ」「立地指針を残したら周辺住民に立ち退きを求めることになる」というものだった。本音は、それらを規制に取り入れることで原発が再稼働できなくなることを恐れたのだろう。
判決はレベル4までは不十分なところがないとした。従って、原告が提起した他の10項目の争点は退けられてしまった。たとえば、東海第二原発は1978年に運転を開始した古い原発で、再稼働ならびに40年を超えての運転が許可されている。しかし、2011年の地震時にはかろうじてメルトダウンを免れたが、いわば傷を負った原発だ。耐震安全性や火山影響問題などについての懸念が退けられたことに不満が残る。
東海第二原発の所有者である日本原電は、東京電力や中部電力などへ電気を卸売りしている。しかし、2011年以来まったく発電していないのに、収入はそれらの電力会社から得られる仕組みになっている。本来ならとっくに破産している会社なのだ。
再稼働するための安全対策への追加費用は3500億円に上る。このうち2200億円は東京電力が支援するというが、東電は現在、ID不正使用問題や核物質防護規則違反によって柏崎刈羽原発の再稼働の見通しも立たず、経営的に苦しい状況が続いている。いつまで支援できるのか疑問だ。日本原電は判決を受け入れて東海第二原発を廃炉にしたうえで廃炉会社として再出発すべきだ。
また、規制当局もレベル5を審査対象とするよう規制改正に取り組むべきだ。(伴 英幸)
(伴 英幸)
(2021年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 406号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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