「本を朗読しましょうか?」と道行く人に声をかけているのは「リズール・ピュブリック(Liseur Public、公共の読書人の意)」のボランティアスタッフだ。意外な場所に本の世界を届けようと、モントリオール市内で活動している朗読プロジェクトを紹介しよう。 

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Photo credit: Le liseur public

突然の朗読が読書との出会いに

ここはオシュラガ゠メゾヌーヴ地区にある木工作業所。すべての機械が一時停止され、大きな円形に並べられた椅子には、職業訓練プログラムに参加中の若者たちが腰かけている。リズール・ピュブリックのスタッフがこの日朗読したのは、ケベック州出身のマリー゠アンドレ・ジルの詩『Chauffer le dehors(外を暖める)』だ。じっと静かに聞き入る人もいれば、その一節一節に反応する人もいる。朗読が終わると、「この本は無料でお持ち帰りいただけます。だれか欲しい人はいませんか?」と声をかけ、若い女性が本を受け取った。

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Photo credit: Le liseur public

ある日は、コミュニティカフェ「シック・レスト・ポップ」で夕食をとっている家族に「地元ケベック発の漫画を読んで差し上げましょうか?」と丁重に声をかける。最初は戸惑い気味だった一家も、笑顔で食事を終え、何冊かの本を持ち帰った。やることはいつも同じ、本の一節を朗読し、質問を投げかけ、最後に本をプレゼントする。

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Photo credit: Le liseur public

この5年間、リズール・ピュブリックのメンバーは、街頭や野外イベントのほか、さまざまな支援団体、特別支援学級などで朗読を行ってきた。コロナ禍では高齢者施設の中庭で読み聞かせをし、ホームレスシェルターに足を運ぶことも。今や、リズール・ピュブリックによる朗読は、このあたりのコミュニティ施設利用者の間では、ずいぶんなじみのものになっている。

主に取り上げるのは地元出身の作家作品

地域の若者雇用センター「オシュラガ゠メゾヌーヴ:若者と雇用の交差点」内にある事務所には、大量の本が積み上げられている。プロジェクトコーディネーターのマリー゠ジョゼ・ゴンティエの元には、主に地元ケベック出身の作家の本が届き、自らも買い集めている。それらの本に目を通し、ボランティアチームに内容を共有する。

次の朗読セッションまであと1時間。ゴンティエと数人のボランティアは、朗読にふさわしい箇所を抜き出し、メンバー同士でリハーサルをする。「届いた本に目を通したり、紹介したい本の購入に多くの時間を使っています。読み聞かせする相手に合わせて作品を選んでいます。とくに本を読むことに苦手意識がありそうな人たちには、やり方を工夫したり試行錯誤しています」とゴンティエ。

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Photo credit: Le liseur public

この活動は、単なる「本のシェア」にとどまらず、貴重な出会いを生むこともある。刑務所に入っていたときに本を読み始めたと打ち明けたある若い男性は、読書の世界への入り口になったのはモントリオール出身の作家ジャン゠クリストフ・レエルの著作だと話してくれた。その話に感銘を受けたゴンティエは、数日後、その作家の他の著書を男性の仕事場に届けた。

バス停にいた高齢の女性にある本を朗読したときは、孫娘に打ち明けられたばかりの苦悩と重なる本だと言われた。こんなふうに物語を朗読することで、さまざまな反応や感情の動きが起きる、それがリズール・ピュブリックの活動なのだ。

演劇学校で俳優の訓練を受けてきたオリヴィエ・クルトワが、以前から温めていた構想を若者雇用センターに提案したのがそもそもの始まりだ。2019年より試験的に動き出した朗読プロジェクトは、少しずつ認知や支援の輪を広げていった。今ではモントリオール・ブックフェアや、ケベック州内のブックフェアにも参画、オシュラガ゠メゾヌーヴ地区にとどまらず、ケベック州内の4地区(ケベックシティ、ドラモンドヴィル、サン・ジェローム、トロワ・リヴィエール)で活動している。

Liseur Public(フランス語)
https://www.liseurpublic.com/

By Simon Bolduc
Courtesy of L’Itinéraire / INSP.ngo

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