ビッグイシュー・オンライン編集部より:スイスのストリートペーパー「SURPRISE」から、「ソーシャルデザイン」なプロダクトの情報が届きました。
ニュルンベルクに本拠を置くアーティスト、ヴィンフリート・バウマンは、アートと建築、デザインと社会運動を融合させて、ホームレス状態の人々やノマドのための作品を手がけている。
From “SURPRISE”
By Florian Blumer
Photos: Courtesy of Winfried Baumann
「アート」と「ソーシャル」二つの価格。NGO向けに注文生産もOK
ドイツ人アーティストのヴィンフリート・バウマンは、2011年以来、アートと建築、デザインと社会運動を融合させて、ホームレスの人々や「アーバンノマド(定住せず移動生活を営む都市の住民)」のための作品を手がけている。「アーバンノマド」ブランドで展開されるバウマンのデザインのテーマは、携帯性、住空間、備蓄、運搬だ。
バウマンは最近、アーバンノマド・シリーズの全作品をカタログにして発表した。もっとも数が多いのは、「インスタントハウス」と名づけた小型の移動住宅の作品群で、使用者の特殊な生活環境に配慮して設計されており、ひとりで組み立て持ち運ぶことができる。
「もちろんインスタントハウスはアートプロジェクトですが、いくつかの作品は日常での使用にも耐えるものですし、注文生産が可能です」
インスタントハウスには同じ作品に2つの価格が設定されている。「アート」価格とソーシャルサービスを提供する団体や支援を必要とする人々に向けた「ソーシャル」価格だ。例えばある作品の「ソーシャル」価格は製作費のみで980ユーロ(約13万円)で、「アート」価格は、ソーシャル価格の2倍だ。
しかし、980ユーロではホームレスの人々には手が届かないのでは?
バウマンによれば、ホームレス自身が購入することは想定しておらず、NGOや施設が購入してホームレスの人々に支給することを前提としている。
「ホームレスの人々に与えられている非人間的な住環境にかかるコストに比べれば、980ユーロは安いといえます。また、支援団体やストリートペーパーは、自分たちの活動への関心を高めるためにインスタントハウスを活用できるでしょう」
「私が重要だと思うのは、路上で暮らす人々に安上がりなものではなく、上質だけれど手頃な価格のものを提供することです。それは、ホームレスの人々への敬意を払うことにもつながります」
ホームレスの人々は、私のユーモアを理解してくれる
「ホームレスの人々を前に作品のプレゼンテーションを重ねるにつれて、インスタントハウスが自分たちのために作られたことを喜んでくれる人たちがいるのがわかりました」
バウマンは以前に、ドイツのストリートペーパー『Strassenkreuzer』と共同で、販売者が在庫を保管しておける販売用カートをデザインしたこともある。このカートの場合、具体的な用途が明確だが、他の作品には、たとえば「ごみ箱ダイビング用スーツ」のようにあまり実用的とはいえないものもある。
バウマンは作品の意図を次のように話した。「アート性を前面に出すため、より自由な発想による表現を重視するようになりました。ですが、私の作品は、ノマド、つまり狩猟や採集で移動しながら暮らす人々が都市のストリートに戻ってきた現実を反映するものです」
バウマンは、路上で生活する人々が段ボールを組み立てて家をつくり、布きれを仕切りにしている様子から、どれほど自分だけのスペースを欲しているかを知り、「インスタントハウス」の着想をえた。そこで、ホームレスの人々から意見を聞き、作品を練りあげていったという。
ホームレスの人々の感想はおおむね好意的らしい。「ホームレスの人々をだしにしているのではないかという批判を受けることもあります――ただし、ホームレスとは何のかかわりもない人からばかりです。ホームレスの人々からそうした反応があったことはありません。彼らは、私の作品に隠されたユーモアをちゃんと理解してくれています」
「作品のどこがよくてどこがよくないか、改善すべき点などについて多くの意見が寄せられるようになりました――実際に路上での暮らしを知る人たちからは、熱い反響があります。彼らには、使われている材料が適切かどうかだけでなく、作品そのものが現実離れしすぎるとそうとわかるのです」
インスタントハウス・シリーズには、イスラム教徒やキリスト教徒の巡礼用や、高級モデル、ノートPCや衛星放送アンテナを備えたビジネスモデルもある。
コストや人員削減の新たな犠牲者? この10年で変わったノマド文化
「この10~12年で、ノマド文化は大きく変化しました。その結果、普通の暮らしから逸脱してしまった『古典的な』ホームレスの人々だけでなく、いわゆるノマドワーカーや季節労働者、学生などが私の作品の対象となりました。この急速に広がったノマド文化には、予算削減や人員カットが大きくかかわっているといえるでしょう」
「ここでいうノマドワーカーとは、ノートPCと小さな旅行かばんしか持たずに、飛行機で飛び回るのを余儀なくされている人たちです。こうした生活からは、本来あるべき社会基盤が失われています」
作品はデザインも見た目も素晴らしい。だが、作品の目的のひとつが実用に耐えることにあるなら、バウマンは自ら作品を使ってみたことがあるのだろうか。
「インスタントハウス・シリーズの作品のほとんどで暮らしてみました。それも、極限的な環境、たとえば真冬の路上や11月の雨の中で」
「夜になってあらゆる店が閉まり、地下鉄の駅も閉鎖されると、雨にぬれずに寝られて、バックパックを保管できる場所があるだけでありがたく思えるものです。インスタントハウスの内側は非常に限られたスペースしかありませんから、至極快適とはいえませんが、そもそも雨風をしのぐ、避難シェルターとして構想されたものですから、その意味では十分だと思います」
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