腸の役割は消化吸収だけではない。「過敏性腸症候群(IBS)」研究から見えてきた「腸と脳の関係」

「ビッグイシュー日本版」264号から、読みどころをピックアップいたします。

「過敏性腸症候群(IBS)」研究から見えてきた「腸と脳の関係」

264号、表紙は米国きってのゆるキャラ「スポンジボブ」、特集は「腸の世界」となっております。今回紹介するのは、特集でインタビューに答えてくださった福土審(ふくど しん)さんのメッセージ。

臓器の中でも身近な存在といえる「腸」。特集「腸の世界」では、専門家に話を聞きながら、そんな「腸」の知られざる実態に迫ります。

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21世紀に入り、腸は単に「消化吸収をするだけ」の存在ではないことが明らかになった、と福土さんは語ります。

進化の過程からいえば、腸はあらゆる臓器の先輩で、消化管の周りにできた神経系こそが、脳をはじめとする全身の「神経系の基本形」となっているのだ。それを証明するかのように、腸には脳と同じ神経伝達物質が数多く存在する。

「たとえば、記憶や学習に関係し、アルツハイマー型認知症などによって現象するアセチルコリン、ストレスにかかわるアドレナリンやノルアドレナリン、不安やうつに深く関係するセロトニンなどです。脳と腸に関係するペプチドも非常に多く、これらも進化的に見て、もともと腸にあったものが脳に持ち込まれたと考えられています。」

脳と腸の相関がくっきり見えてきたのは、「過敏性腸症候群(IBS)」の研究から。福土さんは日本人の1割がかかっていると言われる「IBS」の研究を進めるうちに、「脳腸相関」に重要性に気づきます。

福土さんが、IBSの患者を治療するなかで、彼らの腸の内臓感覚が非常に過敏であることがわかってきたという。

「大腸のなかにやわらかいバルーンを入れて空気を送り膨らませて、どの程度の圧力で痛みを感じるか測定する『バロスタット』という検査法があります。

この検査法の確立によっり、通常は意識化されることのない”内臓感覚”を数値化することが可能になりました。IBSの患者さんは、バルーンを少し膨らませただけで、痛みを感じるんです。

通常、「感覚」というものは「こういう感覚があるな」と私たちが意識化する前に、内臓から脳へと信号が送られている。

しかし「現在の血糖値はこれくらい」「化学物質がこの程度分泌されている」といった情報にいちいち対応して行動を起こしていては、きりがない。そこで脳は、このような信号を受け取っても、それが生命に危険を及ぼす極端な値でないかぎり、「意識」にのぼらせることなく処理してしまう。

ところが、IBSの患者はこの「腹部の痛みや不快感」を必要以上に意識化してしまい、これが症状になる

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また別の切り口でも「脳腸相関」は証明されていると、福土さんは語ります。

「IBSの患者さんは腸に刺激を受けると、情動を司る脳の辺縁系が一般の人より活性化しやすいことがわかっています。辺縁系は脳の奥まったところにある大脳皮質で、うつ病や不安障害の時にも活性化しやすい場所です。

12年に及ぶ追跡調査では、IBSなどで胃腸の症状を訴える患者さんは一般の人より、うつ病や不安障害を発症しやすく、うつ病や不安障害の患者さんは一般の人より胃腸の症状を発症しやすいことが明らかになっていて、ここでも脳腸相関が証明されています。」

最後に、福土さんからのメッセージをどうぞ。

腸は一般に下等なイメージを持たれていますが、身体のなかでもっとも古い臓器であると同時に、ヒトの心にとっても長年のパートナーといえるでしょう。

家庭内の不和や職場のストレス、殺人など社会で起きている問題のほとんどは、制御できなくなった情動が引き起こしたものです。

腸を大切にする生活を送れば、豊かな情動をも育まれ、きっといいことがあると思いますよ。

特集では他にも「うんち博士」として知られる瓣野義己さんのロングインタビューが掲載されています。丁寧に解説される「腸内細菌」の世界、あなたの「うんち」に対する意識を変えてくれるすばらしい内容となっております。路上にて、ぜひ264号を手にとってみてください。

最新号では他にも、

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