元受刑者のライターであるイノシシさんが、刑務所を中心にコンサート活動を行っているPaix2にインタビューを行いました。
提供:けもの道をいこう
刑務所には、年に数回歌手や団体が訪問し、歌や催し物を通して受刑者達を励ます「慰問」と呼ばれるイベントがある。
そんな慰問の中で、関係者であれば知らぬ者はいないほど有名な「刑務所のアイドル」と呼ばれる女性デュオがいる。それが「Paix2(ペペ)」だ。
メンバーは北尾真奈美(きたおまなみ)さんと、井勝めぐみ(いかつめぐみ)さんの2人。2015年12月時点で、刑務所のでのコンサート回数は「382回」と圧倒的な数を誇り、ギネスにも申請中とのこと。
正直な話、僕の中では「慰問」と聞くと「またあのサブいイベントか…」という考えが真っ先にくる。失礼な言い方だが「盛り上がっている慰問」というものを見たことがないのだ。そもそも刑務所では刑務官の指示がない限り動いてはいけないため、盛り上げるのは相当難しい。あと、出演者のクオリティの問題も…。そのため、受刑中も最初の数回出席しただけで、僕はほとんど欠席していた。(慰問は希望者のみ参加できる)
しかし、Paix2のコンサートは評判が良いという噂を、受刑者中もよく耳にしていた。本音でズバズバ言いたいことをいうホリエモンこと堀江貴文氏も著書の中でも絶賛されていたぐらいだ。
今回はそんなPaix2のお2人に加え、苦楽を共にしてきたマネージャーの片山さんも交えてインタビューをさせていただいた。
(参考リンク)
・Paix2(ぺぺ)OFFICIAL WEBSITE
(左:北尾真奈美さん 右:井勝めぐみさん)
Paix2の2人は就職して即音楽の道に進んだわけではない。実は一度会社員として就職している。北尾さんは大学の研究施設で、井勝さんは看護師として。
そんな2人のきっかけは1998年の地元カラオケ大会。そこから約2年をかけて周囲を説得し、2000年にインディーズデビュー歌手の道歩むことに。
自ら決意して選んだ道とはいえ、歌手の世界は厳しい。自分たちが向かうべき方向性で悩んでいた時期に、地元鳥取警察の「1日署長」の話が来たことが、その後の2人の進路を決定づける大きなきっかけとなる。
ーーーー刑務所で慰問コンサート(=プリズンコンサート)をするようになったきっかけを教えていただけますか?
井勝:地元の倉吉警察署(鳥取県)で、一日警察署長をさせて頂いたのですがきっかけです。当日、警察署でコンサートを行ったのですが、そのコンサートを聞いた署長さんから「刑務所でも歌ってみない?」と言われました。そこから、あれよあれよと話が進み、鳥取刑務所で初のプリズンコンサート開くことになったんです。
ーーーー刑務所内での初めてのコンサート。どんな印象でしたか?
井勝:まず、その雰囲気にびっくりしました。そのときはまだ「刑務所では刑務官の指示無しに声を出したり動いたりしてはいけない」というルールすら知らなかったので、何を言っても「シーーン」とした雰囲気で…。かなり自信がなくなったのを覚えています。
北尾:私も割と軽い気持ちでコンサートに向かったので、異様な空気に驚きました。大勢の男の人が無表情で整然と並んでいる光景は圧巻でしたね…。
刑務所の慰問コンサートが盛り上がらない原因の一つが、この刑務所独特のルール。定められた場所以外での会話は禁止、勝手に席を立ったり動いてはいけない等。もしそのルールを破れば、待っているのは懲罰。
管理をしていく上で、もちろんある程度仕方ありませんが、そういったときはそれなり自由を認めて欲しいのが正直なところです…。
「刑務所への慰問」に対して周囲の反応は?
そこから数回のコンサートを経て、Paix2は「刑務所コンサートを中心に活動していく」こと決断。本格的な活動を始めることになる。
ーーーー「刑務所の慰問コンサート」というと、業界の中でもかなり特殊なジャンルだと思います。やっている人自体が少ないですし、やっぱりどこか「怖い」といったイメージもあるかと思いますが、ご家族や周囲の反応はどういった感じでしたか?
井勝:うちの両親は、私が決めたことに対して特に反対はしませんでした。歌手になるときもそうでしたが、「やるなら頑張れ」のスタンスなので。最近では「これ、刑務所の人が作ってるらしいよ!」なんていう情報をくれたりするぐらいです(笑)
あと、私はコンサートのときはそのステージに集中するので、あまり感情移入しすぎることがないんです。根深くならない、というか。なのであまり不安は感じないですね。
北尾:私の場合は、少し心配されました。最初の1~2回は「まぁ、いいんじゃない。」という感じだったんですけど、いざ本格的にやるとなると「本当に大丈夫か?変な人につけられたりしないのか?」と。
でも、私が思うのは「本当に危ない人は、うまく網をすり抜けて捕まらずにいるんじゃないか」ということです。たぶん、受刑者の方って「不器用な人」が多いと思うんです。だから、私がそういった身の危険を感じたことはありませんね。
北尾さんのご両親のような反応が多数だと予想していた僕は、井勝さんのご両親の「娘がやると決めたら応援する」というスタンスは驚かされました。本人はもちろんですが、こうした周囲のサポートが、一般的に「少数派」と呼ばれる人たちの活動を支えているということでしょう。
また、北尾さんが言われている「不器用な人が多い」という指摘は一理あると思います。自分も実際に刑務所に入ってみて「意思疎通の苦手な人が多い」と感じました。言葉でうまく説明できない、気持ちを相手に伝わる方法で表現できない、など。北尾さんの言うように、もしかしたら「本当に危ない人」は捕まらずにそのまま過ごしているのかもしれません。
コンサート中の「失言」がまさかの大反響
ーーーーー「最初は刑務所の雰囲気に飲まれていた」とおっしゃられていたましたが、Paix2のコンサートは盛り上がることで有名です。そこに至るまでに、何かきっかけとなったようなエピソードはありますか?
北尾:一番は、まだ活動を始めて間ものない頃の失言(?)ですかね。とある刑務所にコンサートに行った際、【Paix2コンサート】という看板が舞台に吊られていました。そこで私が「ステージの看板を作ってくれたのは誰ですか?」と聞いたら「はい!」答えた受刑者の方がいたんですけど、その後「ほんとうですか?」と聞くと「すみません!嘘です!」と返ってきました。そこで私はつい「嘘をついたらまたひとつ罪が増えますよ」言ってしまい…。言った瞬間に血の気がサーッっと引きましたね…。「終わった…」と思っていると、会場が沸いて爆笑の渦に。まったく予想外の反応に、そこからは「あっ、こういうの”アリ”なんだ!」と思い、その後のコンサートでも笑いを取れるようになってきました。
井勝:私も真奈美さんその発言を隣で聞いたときは青ざめましたが、意外な反応が返ってきてホッとしたのを覚えています。それまでは「禁句」のようなものを探り探り話していたんですが、その一件以降は徐々に「客いじり」のような、ギリギリのラインを探りながらの進行ができるようになりました。
「気を使いすぎていた」
これは本当によく分かります。僕も出所してから前の知り合いに会うときに「気を使われる」のがとても疲れました。もちろん、相手は僕の気持ちを考えてそうした対応をしてくれているのは分かっているのですが、余計にしんどかったのを覚えています。
かなり心の距離が近い地元の友達なんかは、今でも事件のことについて「イジって」きます。一見失礼なようですが、意外とそっち方が心地の良いものです。
たしかにイジりにおいて「ギリギリのライン」を見定めることは難しいですが、盛り上がるのは間違いありません。気を使いすぎない、ちょうど良い距離感をこれからも保っていってほしいと思います。
施設によって変えていることは?
ーーーー刑務所には短期・長期、初犯・累犯などいくつかの分類があります。そのため、施設によってだいぶ雰囲気が変わると思うのですが、「施設ごとに対応を気をつけている点」などはありますか?
北尾:施設の分類よりも、所長の方針によって雰囲気は大きく左右されているように感じます。例えていうなら、学校ってクラスの担任が変わると同じメンバーでも雰囲気はガラッと変わるじゃないですか?そんなイメージです。
井勝:そうですね。もう送迎の時点で大体分かるんですよ。「あっ、今日はこんな感じの雰囲気なんだな。」って。職員の雰囲気が受刑者にも伝わっているのは肌で感じます。あと、長期の刑務所は発言から聞く態度まで何から何まで「真剣」な場合が多く、身が引き締まります。
これは本当によく分かります。
刑務所といえど、そこで働いているのは「人」です。そして、刑務所は一般社会より人の力が大きく作用する場所でもあります。極端な話「刑務官が命令すれば、そうせざるおえない」のです。刑務官の方々には、自身の態度や考えが実は大きな影響を及ぼしているということを再認識していただきたい所です。
「当事者」じゃないからこそ伝えれるものがある。
ーーーー僕は現在「元受刑者」という当事者の立場から記事を書いています。一方、お2人は加害者、被害者どちらの立場でもない。刑務所のコンサートを続けていく中で「当事者ではないのに、本当に相手の心を打つことができるのだろうか?」といった葛藤のようなものはあったんでしょうか?
北尾:もちろんありました。でも、コンサートを続けていくうちに「当事者じゃないからこそ伝えれるものがあるんじゃないか」と思うようになったんです。当事者だと、どうしても視点がどちらかに偏ってしまいますが、私たちはどちらにもなったことの無い。いわゆる「第三者」。だからこそ、偏ったり押し付けたりしなくてすむのかも、と思います。
井勝:私も、同じように「中間の立場にいるから見える視点がある」と感じています。最近、保護司になりましたが、これも最近受刑者側に寄っていた視点を戻すターニングポイントだと思っています。
「当事者でないからこそ」の視点は目から鱗でした。
このブログでも再三申し上げているように、僕のスタンスは「当事者だからこそ伝えれることがある。」というものです。
しかし、言われてみれば、それは偏っているのもまた事実。例えばPaix2のお2人が何かの事件の被害者であれば、感情が入りすぎてしまい「受刑者を励ます」という気持ちにはなりにくいでしょう。あるいは加害者になったことがあれば、受刑者側に肩入れしすぎてしまうかもしれません。
当事者でないからこそ、客観的な物の見方がしやすい。当事者でないからこそ、被害者と加害者どちらの気持ちにも寄り添える。「当事者でないことが、逆に強みになる」という発想を初めて教えていただけました。
慰問だからといってクオリティをおそろかにしない。
ーーーー少し失礼な言い方になってしまうんですが、僕の慰問のイメージは「全然盛り上がらない行事」です。なので、以前Paix2さんのコンサートの良い評判を聞いて驚きました。他の方と何か意識的に変えているポイントなどはありますか?
北尾:実は私たち、他の人のステージを見る機会が無いんです。刑務所の中は特にそういった点に配慮していますし。だから、他の人たちを特に意識したことはないですね。
井勝:私は「慰問だから」という意識は持たないよう、常に心がけています。本気でやらないとダメだし、中途半端じゃいけない。一回のステージが終わるごとに「もっとうまくできたんじゃないか」を振り返り、反省し、次につなげれるようにしています。
慰問行事は盛り上がらないことが多い。
あくまで僕の主観ですが、他の様々な受刑者の話を聞いてもそう思います。もちろん、刑務所独特のルールもその要因の一つでしょう。ただ、僕はそれに加えて、慰問をする側の「意識の低さ」を感じずにはいられませんでした。
「どうせ刑務所だから」「どうせボランティア同然だから」
たしかにその通りなのですが、見ている受刑者側にもその姿勢は嫌というほど伝わります。その中で井勝さんの「”慰問だから”の意識は持たない」という言葉には大きく頷いてしまいました。どうしてもPaix2が「刑務所のアイドル」と呼ばれ、こんなにも人気なのか。その理由が分かった気がしました。
後編では「手弁当の日々を支えてくれたもの」や「今後の夢、抱負」を中心にインタビューさせていただきます。