生駒&梅田地下街の販売者「吉富さん」を下田昌克さんが描いた

月曜は奈良・生駒駅前、それ以外は大阪・梅田地下街で販売する「吉富さん」。

梅田地下街が彼の「本拠地」だが、販売者がいなくなった奈良・生駒駅のビッグイシュー読者の方々のために週に一度、月曜日に生駒へ「出張販売」もしている。

先日日経新聞にも取り上げられた、「売り方の工夫」にはこだわりのある販売者だ。

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そんな彼を、人気画家の下田昌克さんが描いた。
「ビッグイシューカレンダー2017年」の2月のページを飾る。

並べてみるとわかる、あたたかい笑顔がそのまま紙に乗っかっている。
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スーパーのバックヤードで働いていた経験もある吉富さんは、人間観察力が鋭い。
ポンポンと飛び出す販売の工夫は驚くほど繊細な気遣いだ。

「昼間は、下を向いて歩いている人が案外多いんです。だから読んでもらいたいポップは目線の下のほうに貼るんです。」

「通行する人の目線をよく観察して、買ってくれそうな人の目線に合わせてポップを移動させます」

「この道は車いすを利用される人も多い。だから、そういった方々や介助の方々に向けて、最新号の車椅子・補助装置の記事をポップにしました(震災の経験から生まれた人力車型の補助装置、[JINRIKI]の記事)」

「買っていただく前には、押しつけにならないように大きな声は出さないけれど、お礼は大きな声で言う。そうするとほかの通行人も『何か売ってる』ということを自然にわかってくださる」

「人の流れに合わせてポップのついたカートの角度を変えています」

また、最新号には購入してくださる人への感謝の手紙が挟み込まれている。

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そんなに気遣いが細やかにできる人ならば、なぜ仕事を失ったのか…と疑問に思う人も多いだろう。
そもそもだが、「気遣いができる人なら仕事を失わない」、「気遣いができないから仕事を失う」という考えは、まったくの誤解である。

吉富さんの過去の経緯は120号の「今月の人」でも紹介している。

吉富さんは九州の離島出身。高校卒業後、陸上自衛隊に4年間在籍し、22歳の時に上京した。この時、目当てにしていた仕事にありつけず、年末年始のことで日雇いの仕事も打ち切られて「除夜の鐘とともにホームレスになった」という。これが最初のホームレス体験だった。
その後、黙って家を飛び出すこと2回、いずれも両親の出した捜索願によって連れ戻された。その間、土木現場、ブロック工場、スーパーのバックヤードなどで働いた。

(略)

「人にはなかなか言えないけど、夜中に”パニック発作”(パニック障害の発作。突然狭心症のような胸痛に襲われる)が起こることがあるんですね。」

この発作が原因で職を失うことが多々あったという。

また、実家の農業にも取り組んだが、運悪く原油高騰のあおりを受けて経営が行き詰まってしまう。
35歳の時、3回目の失踪をした。広島で1ヵ月ほど働き、再び、連れ戻されてみると、もうそこに吉富さんの帰る場所はなかった。地域性がそれを許さなかったのだ。以前は口うるさいほどだった近隣の人々は、吉富さんが近づくと黙り込む。「もう戻れないとあきらめてる」。今度は、吉富さんの方から親に別れを告げて家を出た。
名古屋、岐阜などでの仕事を経て昨年10月、再び東京へ。数日後、偶然出会った販売者が見せてくれたビッグイシューを読み、「これならやってみたい」と思った吉富さん。

(ビッグイシュー120号より)

さらにその後吉富さんはビッグイシューを卒業して、大阪で回収業としてリヤカーを引いていた時期もあった。
しかし今度は足を複雑骨折したことがきっかけで歩けなくなり、再度クビに。治療のための医療費もかさみ、にっちもさっちもいかない…と言う時期に、偶然出会った先輩販売者の勧めでビッグイシューに再登録した。

9月から販売を再開した彼は販売の心得についてこう話す。

「とにかく、目の前に通る人たちを信じることですね。僕に興味がないんじゃない、イシューがいらないんじゃない。シャイで買えないだけだ!と。(笑)超ボジティブ思考で行かないと。くよくよして悩んでないで、とにかく販売に立たないと何も始まらない」

これまでに心に残ったエピソードは?と聞くと、

「ずっと以前は、14日や月末(ビッグイシューの最新号発売前日)は売れないだろうと思って販売に立たないことがあったんです。でも、若い20歳くらいの女性が話しかけてきて、『発売日かどうかは私たちには関係ない。私たちが見たことのない表紙をおじさんが持ってたときに会ったら、それが私たちにとっての発売日なんだよ』と言われた。
確かにそうだ!と思って、その日からはよっぽどのことがない限り、毎日立つようになりました(笑)」

「『いつも笑顔をありがとう』と言われたことがあって、そのときはジーンとした。最初路上で会った時から何回か、ずっと暗い顔をして話をしていたけれど、悩みを聞いているうちにだんだん明るくなってきて。
そしてそのセリフを言ってくれた後に、僕のもとには来なくなったから、きっといまは問題なく生きてくれてるんだろうなと思う」

「販売場所が変わるときに、20代半ばくらいの子持ちの女性が突然わーんと泣き出してしまった事もあった。僕の挟み込む手紙を読んで、毎号買ってくれるようになっていたお客さん。人前で大声で泣かれてしまって、困るやら、ちょっと嬉しい気持ちやら…でした」

などなど、様々なエピソードもスラスラと出てくる。

「売り上げは何冊…と数えるんじゃなくて。『何人』に何冊買ってもらったか」ということをいつも気にしています」という言葉通り、一人ひとりのお客さんとのコミュニケーションを大切にしているからこそだろう。

そんな吉富さんが、普段心構えとして持っているのは支援センターの人に言われた「あおいくま」だという。

あせらない
おこらない
いばらない
くやまない
まけない

これが大切とのこと。
その言葉を聞いて、下田さんの絵を見ると、「確かに…」と感じる。
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ビッグイシューは本誌350円のうち、180円が販売者の収入になります。
また、限定発売のカレンダーは、定価1000円のうち、500円が販売者の収入になります。ぜひ、吉富さんやその他の路上販売者から購入してみてくださいね。

*カレンダーは通信販売も可能です。

1) クレジット決済
ビッグイシュー日本のWebサイト よりお手続きください。

2)郵便振り込み
郵便局備え付けの振込用紙に、「カレンダー」、ご希望の数、お名前、送付先住所及び郵便番号、電話番号をご記入の上、下記の郵便口座にお振込みください。
送料無料。ご入金を確認後にお送りします
郵便振替口座番号 00900-3-246288
加入者名 有限会社ビッグイシュー日本

#2017年1月現在、吉富さんは生駒の販売を離れ堺東で販売しています。
 生駒は別の販売者が販売を始めました。ぜひご利用ください。