国策で原発を推し進めた国はあまりにも無責任すぎないだろうか。本誌295号(2016・9・15)でもレポートしたが、原発事故後の子どもの広域保養事業への国の無策の問題だ。事故から7年目の夏休みを前に、被災当事者や保養事業に取り組むグループなど、民間の全国108団体が公的支援を求め今回初めて、復興庁、文科省、環境省の3省庁と福島県に要望書を手渡した。
運営費や人材の確保が困難に…
保養相談会、参加者が20%増加
省庁や県への要望は「①原発事故子ども被災者支援法(※)に基づき、保養を国の制度に位置づける、②全国の民間団体が実施する保養への公的支援」の2点だ。
6月27日、都内で行われた3省庁への要望のあと、小学生の子ども2人を持つ福島県在住の母親がこう訴えた。
保養は希望です。保養団体の資金不足がある一方で、参加希望者は増えています。保護者や子どもたちの保養参加ニーズがあるうちは、公的資金の支援をお願いします。
子ども被災者支援法では、その目的を「被災者の生活を守り支えるための被災者生活支援等施策を推進し、もって被災者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与」するとあるが、支援策には保養が位置づけられていない。そのため、福島県内の自然体験事業はあるが、県外保養地活動への財源支出は実現していない。避難してもしなくても、あるいは帰還しても、その選択を自分の意思で行えるよう、適切に支援するという法の主旨からも、ニーズが高い保養事業は重要な施策になるのが当然だ。
しかし、利用者からニーズがあり、保養事業を支援する各地の団体が「継続したい」と考えているにもかかわらず、このまま運営費や人材確保で厳しい状況が続けば、保養が継続できなくなる恐れがある。
唯一、公費で行われている事業は「福島県の子どもたちを対象とする自然体験・交流支援事業」だ。約3億2千万円の予算で14年から実施されてきたが、本年度は2億3千万円に減額の上、「補助要件が厳しく、使いにくい」という声も支援団体から聞こえる。
しかし、保養ニーズは高まっている。福島県内で保養相談会を主催する「3・11受入全国協議会」は、昨年と今年6月にいわき市で開催した相談会の参加者数を公表した。昨年が119組(297人)だったのに対して、今年は144組(344人)と、15~20%増加した。この背景には、今春、新たに避難指示解除区域が拡大されたことや、みなし仮設住宅の無償化打ち切りで福島県への帰還者が増加したことがある。今後、保養のニーズがいっそう高まることが予想される。
土や植物に触れ、仲間がいる安心感
保養は子どもの心のより所に
6月26日、参議院議員会館では、省庁への要望書提出に引き続いて、福島の母親たちが保養の必要性を語った。
幼稚園児と小学生の子どもを持つTさんは昨春、避難先の関西から福島市に戻った。その理由は、みなし仮設住宅の無償化の打ち切りに伴い、経済的、精神的に避難生活の継続が困難になったからだ。「戻ってからは、日々、放射能が気になり、それもまた大きなストレスに。避難することも、福島に暮らすことも、どちらをとってもつらく、困難な事だと痛感。原発事故により、放射能という、以前はなかったものがある福島になったことは事実。子どもたちにとって特に必要としているのは保養に行くことです」と話す。保養先では放射能から離れ、子どもは土や植物に触れて遊べるうえ、「受け入れてもらえる場所があり、自分たちの味方や仲間がいると思えることが何よりも心のよりどころになっている」と、その重要性を語った。
このほか、福島の子どもたちを山形県米沢市へ無料送迎し、放射能の低い地域で屋外遊びを中心とした保育をしている「NPO法人青空保育たけの子」代表の辺見妙子さんも出席し、「原発事故は子どもの自然体験、遊びの文化を奪った。私たちが少しでも線量の低いところで自然体験をさせたいという気持ちを理解してほしい」と、公的支援を求めた。
保養活動をしている「福島ぽかぽかプロジェクト」の矢野恵理子さんは、「現実的に(省庁などの施策で)保養事業は存在しないことになっている。どうすれば公的支援にできるのか、省庁にきちんと要望していくためにも、保養の認知度を上げていきたい」と語った。
※ 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律
(あいはら ひろこ)
あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。