今月、国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)はスコットランドおよびその他の地域からトップジャーナリストやメディアの専門家を集め、フェイクニュース(*1)や「もう一つの事実(代替的事実)*2」、さらには説明責任の力を保持する上でジャーナリストが果たせる役割について討論会を開催する。
※この記事は2017年3月16日INSP掲載の記事を翻訳したものです。
*1 フェイクニュース:虚偽の情報でつくられたニュースのこと。主にネット上で発信・拡散されるうその記事を指す。
*2 もう一つの事実:トランプ大統領就任式の観客数に関する虚偽発言について問われた大統領顧問ケリーアン・コンウェイが用いた表現。
真実をめぐる議論が世界レベルで高まるなか、『オルタナティブ・ジャーナリズム VS もう一つの事実』と題された今回のイベントでは、フェイクニュースへの戦いをリードできるジャーナリズムのあるべきかたちを探る。
司会を務めるのは国際的な賞を受賞している調査報道ジャーナリストで教授のイーモン・オニール。パネリストには、スコットランドで急成長中のオルタナティブ・メディア(*3)界のメンバー4名が顔を揃える。
*3 オルタナティブ・メディア:大手新聞社やテレビ局などの主流メディアに対する代替的なメディア。さまざまな当事者が個人や地域の視点で情報を発信。コミュニティラジオやインターネットをベースにした独立形のニュースサイトなど。
<パネリスト>
1. スチュアート・コスグローブ:
ジャーナリスト、ニュースキャスター
2. ピーター・ゲーガン:
独立メディア組合「The Ferret」のディレクター、著書に『The People’s Referendum(邦訳なし)』。
3. スーザン・スミス:
スコットランド唯一の第三セクター(訳注:市民団体などの非営利団体)向けニュースメディア「Third Force News」の編集者。
4. アンジェラ・ハガティ:
スコットランド関連の問題を扱うメディア「CommonSpace」の編集者。
さらに、INSP役員で米シアトルのストリートペーパー『リアルチェンジ』の創設者兼ディレクターのティム・ハリスも参加し、ストリートペーパーネットワークおよび米国からの見解を示す。
「健全な社会、健全な民主主義において欠かせないのは、信頼性のある懐疑的視点を持った報道なのに…」パネリストたちの意気込み
「The Ferret」ディレクターのピーター・ゲーガンは、こうしたことをテーマに討論することは極めて重要だと言う。
今、ジャーナリズムがかつてないほど力を持つようになっています。健全な社会、健全な民主主義において欠かせないのは、信頼性があり、同時に懐疑的視点を持った報道です。しかし、従来のジャーナリズムを支えてきた(紙媒体の)ビジネスモデルを混乱させているデジタル技術が、政治目的などで行われるプロパガンダやデマの拡散を助けているのが今の状況です。
ジャーナリズムに資金を提供する代替モデルが必要なのはもちろんのこと、誤報や偏見に挑む別の方法も必要です。答えは容易には見つかりませんが、今こそ議論すべき時だと思います。
「Third Force News」の編集者スーザン・スミスは次のように述べた。
医師が人命救助に立ち向かうように、ジャーナリストは真実を伝えることに全力を尽くさなくてはなりません。真実というのは常に受け取る側の解釈に委ねられているので、生死よりはるかに複雑ではありますが。
プロパガンダがものの数分で世界中に広がりうる現在の世界では、誰を信じればよいのかわからない人たちはいとも簡単に混乱してしまいます。ですから、これまで以上に重要なのは、プロの報道機関が職業上の倫理規範にしっかり従うこと、国民は自分が信頼できるプロのジャーナリズムを支援し続けることです。
ニュースサイト「Common Space」の編集者アンジェラ・ハガティも言う。
今こそ、「フェイクニュース」と呼ばれるものについて議論すべきです。さまざまな角度から議論できればと思っています。
そろそろ、私たちはもっと正直になるべきです。確かに、オンライン広告を利用して完全なる捏造報道を流すのは新しいやり方かもしれませんが、既存メディアが堂々と虚偽報道するのは何も今に始まったことではありません。
証拠が食い違っているのに一つのメディアが絶対的に正しいかのようなふりをするわけにはいきません。より良いメディアを必要とするのなら、もっと真剣になって、大きな問題を抱えていることを認めなければいけません。
INSPが主催する意義
INSPのCEOマリー・オルダムはINSPはこの重要な討論会の主催者として最もふさわしい組織だと言う。
20年間、 INSPに加盟するストリートペーパーは数千人のホームレスの人々にライフライン(命綱:生き伸びる支え)を提供してきました。また、社会的不公正を取り上げ、社会から取り残された人々の声を届けるという点においては「オルタナティブ・メディア」としても重要な役割を果たしてきました。
今日の世界情勢では、この二つの役割がかつてないほど重要となっています。今こそ議論を始める時です。ここグラスゴーで公開討論を行えることを光栄に思います。
この討論会は、世界中のストリートペーパーの創造性および社会的影響を称えた世界初の展示『UNCOVERED:still homeless, still an issue』の一部プログラムとして開催される。
英国では「ビッグイシュー」の存在はよく知られているが、同じモデルを用いて35ヵ国で110誌ものストリートペーパーが発行されていること、ホームレス問題や社会的排除に直面している人々に単に施しを与えるのではなく自立支援をおこなっていることはあまり知られていない。
INSPは各国のストリートペーパーを取りまとめ、支援・アドバイス・リソースの提供をおこなっている組織で、本部があるグラスゴーはINSPネットワークの中心的存在だ。
クリエイティブエージェンシー「Equator」の協力を得て生まれたこの体験型展示(無料)は、グラスゴー中心部にある展示スペース「The Lighthouse」にて2017年4月9日まで開催される。
文:ローラ・ケリー
翻訳監修:西川由紀子
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